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安倍政権の実績と評価

投稿日 : 2020年09月11日

注目すべき海外メディアの日本報道

(9月1日~7日)



安倍政権の実績と評価





 

各国主要メディアは、安倍首相の突然の辞任表明を大きく速報した後で、7年半にわたる長期政権を率いてきた「安倍首相の遺産」について、論説・分析記事を掲載した。一部には首相が果たせなかった公約について厳しい見方もあるものの、総じて欧米メディアは、安倍政権の経済、外交、防衛政策等を高く評価する論調が見られた。

 

 

【米国】

The Washington Post紙は、「安倍首相が辞任。安倍氏はいかに日本の政治を改革したか」(9月3日付)と題するPhillip Y. Lipscyスタンフォード大学助教授の寄稿記事を掲載し、安倍首相の功績を振り返った。同氏は、安倍首相の長期安定政権を評価した上で、安倍氏は歴代前任者が苦心して進めてきた官僚主導から政治主導への改革を足場に内閣府に権力を集中させ官僚人事をも支配したとして、際立って強い首相のリーダーシップに言及。新型コロナウイルス感染症への対応については国民の批判を集め、緊急時の意思決定や行政の仕組み等、議論を進めるべき問題点が露呈され、次期首相はそれらの課題に取り組まなければならないが、いずれにしろ、安倍首相は日本の政治を新時代に導いた立役者として記憶されるだろうと報じた。

 

The New York Times紙は、「安倍首相の後任にかかっていること」(9月2日付)と題する社説を掲載。安倍政権の最大の成果は国政の安定と、日本を「普通の国」にしたことだとし、「アベノミクス」や集団的自衛権の行使容認、日米同盟やTPPなど、様々な政策が実施されたものの、新型コロナウイルスの世界的感染拡大による経済不振で支持率が低下し、首相の努力は僅かな進歩をみたのみだったと評した。次期首相は人口減少高齢化や経済再建などの巨大な課題に直面することになるが、安倍首相の資産である最長政権の政治力が欠けており、最悪のシナリオは不安定な政治が再来して、官僚が力をもち、停滞が続くことだと論じている。

 

The Wall Street Journal紙は、「世界が内向きになる中、安倍首相の日本は外向きに」(9月2日付、Greg Ip記者)と題する記事で、世界貿易システムが中国や米国によって土台が崩されている中、安倍首相はTPPをはじめいくつかの貿易交渉を成立させ、世界貿易の最強の擁護者の一人となり、日本が世界に開かれた国となる立役者となったと評価した。次期首相として有力視されている菅官房長官については、安倍首相のもと、CPTPP成立や外国人労働者及び観光業の役割拡大を支え、今回、観光業のV字回復を約束したとして、安倍首相の遺産は生き残ると見られると報じている。

 

 

 

【英国】
Financial Times紙は、8月31日付「安倍晋三、習近平との苦闘」(GIDEON RACHMAN 外交コラムニスト)で、安倍首相の任務の中心は、増強する権威主義的な中国と対峙するために日本を強くすることで、自らの手腕と決意で難しい役割を果たしたが、日本の戦略的ジレンマは解決できず、結果として、国の行く末は米中関係の進展に委ねられるだろうと分析した。日中間の領土問題では、安倍首相はいかなる譲歩もせず、強硬姿勢を貫きつつも、習近平との緊張を緩和し関係改善につなげたが、米中貿易摩擦や台湾、南シナ海等の困難を抱える習首席が日本との一時的な和解を模索したとの見方を示した。安倍首相はトランプ大統領との関係維持に注力するのみならず、開かれたインド太平洋戦略を掲げてモディ印首相との親交も育んできており、後継者には不確実な未来の舵を取る手腕と共に、運も必要だ、と結んでいる。

 

また同紙は、1日付で「“日本化”に苦悩する世界にアベノミクスから6つの教訓」(Robin Harding東京支局長)を掲載。アベノミクスは成功したとは言えないが、世界が「日本化」(停滞、デフレ、超低金利への滑落)で苦しむ中、強力な6つの教訓を残したとし、①金融政策が機能すべし、②弱い経済は増税に耐えない、③(①、②について)信用がすべて、④期待感だけに頼るな、⑤刺激策は公的債務の問題ではなく解決策、⑥成長戦略の限界、を挙げている。同記事に対する意見として、Bill Emmott元エコノミスト誌編集長/東京支局長による投稿「日本はもっと労働市場への介入が必要」を3日付で掲載。同氏は、2つの重要な教訓が欠けているとし、デフレを脱して年間インフレ率が2%以下となったが、家計所得が停滞していれば、たとえ失業率がゼロに近くとも、間違った施策であると指摘。「日本化」の究極の教訓は、金融バズーカには、家計所得の上昇を可能にするあらゆる手段を講じて賃金と労働市場規制に直接介入することによる補足が必要だということだと提言している。 


さらに6日付の「安倍首相の後継者は機微な両天秤策を維持しなければならない」(船橋洋一アジア・パシフィック・イニシアティブ理事長)は、次期首相の最も重要な資質は外交手腕であり、その意味で安倍氏は卓越し、成し遂げた外交の記録が安倍首相の遺産であるとし、関係が悪化する米中二大国の狭間での均衡取りを余儀なくされたが、日米同盟と対中貿易の両方を守ったと評した。次期首相への教訓として、①日米同盟を基軸にアジアでより積極的且つ安定した役割を果たす、②現実主義的な対中及び対米中政策、③国家主義的勢力を抑え、中道的な国政運営で、反対勢力の台頭を防ぐ、を挙げている。


The Economist紙は9月3日付社説「安倍晋三の遺産は、その静かな退任が示唆するよりも印象的だ」で、安倍首相は経済と外交関係を再構築しただけでなく、将来の改革への道も開いたと評価した。アベノミクスはゆっくりだが経済再生に成功に近づき、国際社会ではアジアなどで卓越した建設的な役割を果たし、歴代前任者が長きに渡り避けてきた困難な改革を推し進めたと説明しつつ、安倍首相は一般に認められているよりもはるかに優れた仕事をしたと強調した。さらに、首相の最も重要だが認識されていない業績は、派閥争いを抑え、官僚機構を管理下に置き、日本をより統治しやすくしたことだろうとし、次期首相が成果を挙げるとすれば、安倍首相が基礎を固めたお陰であると論じた。

 

The Times紙は、9月5日付「Tobias Harris著 『The Iconoclast』 書評ー安倍晋三の興亡」(Richard Lloyd Parry東京特派員)で、日本政治アナリストのトビアス・ハリス氏の新著、安倍首相の伝記「The Iconoclast」(因習打破を唱える人)を論評しつつ伝えた。同書は安倍首相を「タブーを破り、制約を打ち破り、日本を権力政治に押し戻した」英雄的な人物として描き、日米安保条約を締結させた祖父岸信介から多大な影響を受けていると見る一方、憲法改正や中国、韓国との関係改善は達成できなかったことにも言及。新型コロナ感染拡大後に追加された後書きでは、政治スキャンダルやパンデミックによって僅かな成果も影が薄れ、支持率が急落した、「疲れ果てた」指導者と描写されている、と報じた。

 

 

 

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