コロナ・ショックと緊急経済対策
投稿日 : 2020年04月10日
コロナ・ショックと緊急経済対策
2020年4月10日
新型コロナウイルスの感染拡大を受け、2020年4月7日、安倍晋三首相は緊急事態宣言を発令した。期間は5月6日までの一か月間で、東京都、千葉県、神奈川県、埼玉県、大阪府、兵庫県、福岡県の7都府県を対象とした。このまま感染拡大が続けば1カ月後には感染者が8万人を超えるとしたうえで、緊急事態を1ヵ月で脱出するには、人と人との接触を7~8割減らすことが前提とし、国民の協力を求めた。
また政府は、同日夕の臨時閣議で、事業規模108兆円の緊急経済対策を決定した。リーマンショック後の2009年4月に打ち出した対策は約57兆円。その2倍近くとなる「世界的に見ても最大級の経済対策(安倍首相)」で、「世界経済だけでなく、日本経済が今まさに戦後最大の危機に直面している」として、感染症拡大の収束に目途がつくまでの「緊急支援フェーズ」と、感染症拡大の収束後の「V字回復フェーズ」で、個人や企業などへの様々な支援策を打ち出した。
最大の目玉は、総額6兆円を超える現金給付だ。生活困窮世帯への支援策として、収入が減った低所得世帯などに一世帯30万円の現金給付に加え、児童手当を子ども1人当たり月1万円増額する。売り上げが大きく減少した中小・小規模事業者に最大200万円、フリーランスを含む個人事業者へは最大100万円を支給する。また事業者への資金繰り対策としては、政府系金融機関による無利子融資など総額45兆円規模。固定資産税を減免するほか、消費税の納税や社会保険料の支払いは1年間延滞金なしに猶予する。また、雇用の維持対策としては、雇用調整助成金の助成率を過去最大まで引き上げる。そのほか、人工呼吸器やマスクの生産支援、抗インフルエンザ薬アビガンの備蓄や観光・運輸、飲食など消費の拡大につなげる策も盛り込まれた。
今回の緊急経済対策に対する、国内のメディア(4月8日付)で紹介された識者の見方を紹介する。4月8日付の産経新聞のインタビューで、大和総研チーフエコノミストの熊谷亮丸氏は、緊急事態宣言は強制力がなく、外出自粛もすでに行われており、経済に追加的な打撃を与えることはないとし、危機感を共有して引き締めを図るアナウンス効果を狙った面もあると分析。今後求められる三段構えの経済政策として、まずは国民の生活保障や雇用を守ること(第1ステージ)、次に消費喚起策として商品券やクーポン券の発行、国内観光や地方創生キャンペーンの展開(第2ステージ)、そしてプロアクティブ(攻め)の政策として、テレワークやオンライン診療・授業など「リモートな社会」の構築、さらに産業構造の激変を視野に企業の新陳代謝を促すこと(第3ステージ)を主張している。
毎日新聞のインタビューで、ニッセイ基礎研究所の矢嶋康次チーフエコノミストは、収入減世帯や中小企業などへの現金給付などを盛り込み、「最低限の止血策」を打ち出した点は評価できるとしつつも、スピード感が遅いと指摘。2020年度予算成立の11日後の対策決定は通常より早いが、事態はそれを上回る速さで悪化していると懸念を示した。さらに事業継続の瀬戸際にある中小企業などが今回の措置で乗り切れるか、状況次第で二の矢、三の矢を躊躇なく講じてほしいと訴えた。また、同紙では宮前耕也SMBC日興証券シニアエコノミストのコメントも紹介。宮前氏は、所得減少に対する生活保護や企業の資金繰り支援など、当面の経済委縮に耐える施策が盛り込まれており、方向性としては適切で、事業規模もGDPの2割とインパクトがあると高く評価。一方、感染拡大が長引けば、家庭や企業への現金給付などの財政措置の延長や拡充をせざるを得なくなるとし、財政規律が根本から崩れる恐れがあると警鐘を鳴らしている。
また、時事通信社のインタビューに答えた小林真一郎・三菱UFJリサーチ&コンサルティング主席研究員は、コロナ感染拡大の日本経済への影響について、今年1~3月期の実質GDPは前期比で年率4.4%減を予想、非正規を中心に失業が増えるリスクにも触れつつ、今回の経済対策の規模感は十分だが、打撃を受ける企業やフリーランスなど個人への救済をどう迅速に進めるかが課題だと指摘している。
(参考情報)
緊急経済対策が発表される前から、国内のシンクタンクは盛んに、コロナ・ショックの日本経済へのインパクトと対策についてそれぞれの見解や提言を発表しており、事例を以下にご紹介する。
■ キヤノングローバル戦略研究所
<緊急提言> コロナ・ショックの経済対策の基本的方向性について (2020年03月24日)
https://www.canon-igs.org/column/macroeconomics/20200324_6309.html
■ 大和総研
<特別レポート> コロナ・ショックと世界経済(経済予測)
新型コロナウイルスにどう立ち向かうか? (2020年04月03日)
https://www.dir.co.jp/report/research/economics/outlook/20200403_021439.pdf
■ 東京財団政策研究所
【経済学者による緊急提言】新型コロナウイルス対策をどのように進めるか?
― 株価対策、生活支援の給付・融資、社会のオンライン化による感染抑止 ― (2020年03月17日)
https://www.tkfd.or.jp/research/detail.php?id=3361
■ ニッセイ基礎研究所
緊急事態宣言と経済対策-想定を超えるスピードに政策は追いつけるか (2020年4月7日)
https://www.nli-research.co.jp/report/detail/id=64192?site=nli
■ 日本経済研究センター
「コロナ危機と闘う」特設ページ
https://www.jcer.or.jp/policy-proposals/fighting_the_COVID-19_crisis
緊急事態宣言後の短期予測「大都市への緊急事態宣言、経済損失は1カ月で4~6兆円 求められる機動的な所得補填」(2020年04月03日)
https://www.jcer.or.jp/policy-proposals/2020043.html
インタビューシリーズ(動画)<どうなる世界経済と日本>
コロナ危機を恐慌にはしない GDPの需要不足、50兆円規模の恐れ (2020年3月31日)
講師:岩田 一政 日本経済研究センター代表理事・理事長
https://www.jcer.or.jp/policy-proposals/20200331.html
緊急政策提言 景気浮揚対策でなく、コロナ対策を最優先に (2020年3月25日)
https://www.jcer.or.jp/policy-proposals/20200325-6.html
■ 野村総合研究所 未来創発センター
【緊急提言】新型コロナウイルスが日本経済と雇用に及ぼす影響(2020年3月24日)https://www.nri.com/jp/keyword/proposal/20200324