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実施日 : 2017年10月03日

動画報告:FPCJシンポジウム 「台頭する自国第一主義:世界経済の後退リスクをいかに回避するか ~外国メディアを迎えて考える~」

投稿日 : 2017年10月16日

FPCJシンポジウム

「台頭する自国第一主義:世界経済の後退リスクをいかに回避するか

~外国メディアを迎えて考える~」

(開催要旨)

 


 

 

公益財団法人フォーリン・プレスセンターは、平成29103日(火)、日本プレスセンタービル10階ホールにおいて「台頭する自国第一主義:世界経済の後退リスクをいかに回避するか~外国メディアを迎えて考える~」をテーマにシンポジウムを開催しました(後援:外務省)。本シンポジウムでは、米国、英国、カナダから第一線で活躍するジャーナリストをパネリストに、また日本のジャーナリストおよび論壇を代表する有識者を、基調講演者、モデレーター、パネリストに迎え、欧米各国における自国第一主義の動きが戦後の自由貿易の流れに与える影響、今後のグローバル経済の後退を回避する方途について議論を深めました。学生や会社員、国内外メディア、駐日大使館関係者など160名が参加しました。概要は以下のとおりです。


※シンポジウムの開催案内

 *****

 

■ 基調講演 杉田 弘毅 氏 (共同通信論説委員長)

 

杉田氏は、各国の政治について、希望よりも怒りが政治を動かす力になっているとし、特に、エリートや既成政治への不信感が大きいと述べた。そのうえで、トランプ大統領誕生やBrexitに見られる現在の自国第一主義と過去のポピュリズムとの違いは、①普通選挙の拡大、②製造業の衰退にみる経済構造の転換、③SNS普及によるメディアの民主化-にあると指摘した。

 

また、今後の国際社会は、①米国中心のグローバリゼーション、②中国中心のグローバリゼーション、③ヒトの交流・移動がもたらす相互理解によるグローバリゼーションが同時並行的に進むとの見方を示し、日本はいずれにも関わっていく必要があると述べた。また、グローバル化を進めようとする国の政策立案者は、自由貿易に反対する人々に自由貿易のメリットを分かりやすく伝える努力をすべきだと締めくくった。

 

■ パネル・ディスカッション 第一セッション「自国第一主義が世界経済に与える影響」

 

  

 

ベッキー・バウワーズ氏(米国、ウォール・ストリート・ジャーナル紙)は、トランプ大統領が選挙キャンペーンで掲げた公約と現時点までの進捗との乖離に対する米国民の様々な意見に言及したうえで、中国経済の台頭で雇用が減少しているなか、自動化がさらに進むことで職を失うことへの強い危機感や不安がトランプ大統領の支持につながったと述べた。

 

トム・ナットル氏(英国、エコノミスト誌)は、英国では、増え続ける移民を恐れるEU離脱派と、今後の経済活動への不安を抱える残留派との間で溝が深まっているとし、EU各国でテロ等の危機が相次いでいることから、保護主義やナショナリストの支持が集まりやすい傾向にあると論じた。

 

トーマス・ウォルコム氏(カナダ、トロント・スター紙)は、カナダ国民の関心は、カナダ経済の基盤となってきたNAFTAの再交渉に向けられているとする一方、国民にとっては経済ナショナリズムが必ずしも悪ではなく、排外主義や人種差別主義が倦厭されるとの価値観を説明した。

 

浦田秀次郎氏(早稲田大学教授)は、トランプ大統領の誕生が日本に与えた最も大きな影響は、米国のTPP離脱だったと強調。その後、日本政府は米国抜きのTPP11の実現に向けて積極的にリーダーシップをとっているとの見解を示し、いずれ米国がTPPの枠組みに戻ってくる可能性もあると述べた。

 

古城佳子氏(東京大学教授)は、トランプ大統領の「多国間主義は米国の利益にならない」との発言はこれまでの米大統領には見られなかった発言だと述べた。第二次世界大戦前の米国の保護主義は他国に伝播して政治的対立の要因になったと言われており、トランプ大統領の保護主義を打ち出していることは危惧されるとした。ただし、現在のところトランプ大統領の保護主義政策は貿易のみにとどまり、金融面では規制緩和を行うなど一貫性がないと指摘した。

 

各パネリストの発言後、雇用調整、雇用を失った人に対する職業訓練などについて活発な議論が繰り広げられた。


第二セッション「世界経済の後退リスクをいかに回避するか」

 

  


第一セッションでの議論を受けて、世界経済の後退リスクを回避するための各国や国際的枠組みによる取組みについて議論が交わされた。

 

ウォルコム氏は、IMFなどの国際機関、新興国を含まないG7など多国間の枠組みが経済面で果たせる役割には限界があるとの見方を示した。


バウワーズ氏は、米国経済の現状について、インフラ整備、製造業、中小企業、個人の消費意欲は回復傾向にあるものの、消費意欲の測定では楽観的な共和党、悲観的な民主党との間で大きな差があるとした。



ナットル氏は、米国抜きのTPPより大きな規模になるともいわれる日・EU間のEPAは、トランプ大統領の保護主義が後押しした面があると述べたうえで、今後の世界経済においてどの国にリーダーシップを求めるか考える必要があるとした。

 

浦田氏は、多国間の経済枠組みをとりまとめることが世界経済の後退リスクを回避することにつながるとし、TPP11を早期に合意に導くとともに、その先の韓国やタイ等を含むTPP16も視野に行動する必要があると述べた。またEUとのEPAを早くまとめるとともに、特にRCEP交渉において日本が主導的役割を果たし、強固な自由貿易体制を作るためにリーダーシップを発揮してほしいと期待を示した。


古城氏は、WTOIMFなどの国際的な枠組みには一時期グローバリゼーションへの反発から強い批判もあったが、トランプ大統領の誕生により、保護主義に走る米国の動きを軌道修正したり、説得したりする機会となりうるG7の重要性は増しているのではないかと述べた。各パネリストの発言後、自由貿易のメリットを国民に分かりやすく伝えることの必要性、格差是正、人々の自己肯定感の回復、移民問題などについて議論が交わされた。

 

質疑応答・総括

質疑応答では、米国における失業者の職業訓練、北朝鮮問題が世界経済に与えるリスク、多国間枠組みの交渉における日本の役割、トランプ大統領の政策とWTOとの関係などについて来場者から多くの質問が寄せられた。

 

最後にモデレーターの榎原美樹氏(NHKワールドニュース部編集長)は、人口の増加、新興国の台頭など、世界のありようが急激に変化するなか、昨今の自国第一主義の潮流は、これまで当たり前だった自由貿易、自由主義についてあらためて考え直すきっかけを投げかけていると述べた。また、世界の暮らしがよくなる仕組みや世界経済のあり方についても考える時がきていると総括した。    

 

 

------------------- 登壇者略歴 -------------------


■ 基調講演者/パネリスト

杉田 弘毅 共同通信 論説委員長

 

テヘラン支局長、ニューヨーク特派員、ワシントン特派員、ワシントン支局長、編集委員室長などを経て2016年6月から現職。国際政治や米国事情などが専門。プーチン・ロシア大統領やブッシュ元米大統領ら世界の指導者をたびたびインタビューしている。日本記者クラブ企画委員、安倍フェロープログラム委員、北京―東京フォーラム実行委員、早稲田大学アジア太平洋研究科講師。著書には「検証非核の選択」(岩波書店)、「さまよえる日本」(生産性出版)、「アメリカはなぜ変われるのか」(ちくま新書)、「入門トランプ政権」(共同通信社)など多数。

 

 

■ モデレーター

榎原 美樹 NHK 国際放送局ワールドニュース部編集長

ヨーロッパ総局(ロンドン)特派員、アジア総局(バンコク)特派員、アメリカ総局特派員などを歴任し、2013年から現職。アメリカ総局では、大統領選挙、国連、ハイチ・チリの地震など、アジア総局ではイラク戦争、インド洋大津波、ASEAN10カ国など、ヨーロッパ総局では中東和平、ボスニア戦争などを取材した。また、キャスターとして米同時多発テロ事件、アフガン戦争の経験もある。大阪大学文学部西洋史学科卒、タイ国立チュラロンコーン大学大学院にて東南アジア学修士号取得。  

 

 

 

■ パネリスト

浦田 秀次郎 早稲田大学大学院アジア太平洋研究科長/教授

慶應義塾大学経済学部卒、スタンフォード大学Ph.D(経済学)取得。ブルッキングズ研究所研究員、世界銀行エコノミストなどを経て、2005年より現職。東アジア・ASEAN経済研究センター(ERIA)シニア・アドバイザー、日本経済研究センター特任研究員、経済産業研究所ファカルティ・フェローを兼務。専攻は国際経済学。著書に『国際経済学入門(第2版)』(日本経済新聞社、2009年)、『アジア地域経済統合』(共編著、勁草書房、2012年)、『TPPの期待と課題』(共編著、文眞堂、2016年)、『躍動・陸のASEAN、南部経済回廊の潜在力―メコン経済圏の新展開』(共編著、文眞堂、2017年)など。

 

 

古城 佳子 東京大学大学院総合文化研究科国際社会科学専攻教授

 

専門は国際関係論、国際政治経済論。東京大学教養学部教養学科(国際関係論専攻)卒業、プリンストン大学大学院にてPh. D(政治学)取得。1999年より現職。プリンストン大学、ジョンズ・ホプキンズ大学にて客員研究員。日本国際政治学会元理事長。主な研究分野は、国際的相互依存と対外政策、グローバル化の配分的影響、国際制度に関する研究。『経済的相互依存と国家』、『国境なき国際政治』(共著)、『講座国際政治 グローバル化と国際政治』(共著)など。

 

 

 

 ■ 海外招へいパネリスト

ベッキー・バウワーズ 氏 ウォール・ストリート・ジャーナル紙 国際経済副編集者

 

20149月に「リアル・タイム・エコノミクス」の編集者としてウォール・ストリート・ジャーナル紙に加わる。2002年にフロリダのタンパ・ベイ・タイムズ紙に入社し、記者、ワイヤー・エディター、グラフィックス・レポーター、ビジネス・政治分野の副編集長を歴任。同紙のファクト・チェックサイト(PolitiFact)で執筆とデジタル運営も担当した。出身地のカリフォルニア州立大学でジャーナリズムを専攻。

 

 

 

トム・ナットル 氏 エコノミスト誌 シャルルマーニュ・コラムニスト

 

エコノミスト誌で、ヨーロッパの政治と経済をカバーするシャルルマーニュ・コラムを執筆。難民についての特別レポート”Looking for a home”の著者。テレビとラジオにも定期的に出演している。ブリュッセル在住。

 

 

 

 

 

 

トーマス・ウォルコム 氏 トロント・スター紙 国内情勢コラムニスト (カナダ) 

 

1989年から現職。政治経済に関するコラムを執筆。1985年から1988年にかけて、カナダの全国紙グローブ・アンド・メール紙の東京支局長を務めた経験を持つ。優れた報道に贈られるカナダのナショナル・ニュースペーパー・アワードを2度受賞している。トロント大学で経済学の博士号を取得。

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