国内原発すべて稼働停止 夏前の再稼働是非が焦点に(2012年5月8日)
投稿日 : 2012年05月08日
【ウォッチ・ジャパン・なう vol.25/FPCJ】
2012年5月8日
国内原発すべて稼働停止 夏前の再稼働是非が焦点に
5月5日、北海道電力の泊原子力発電所3号機が、定期検査に入るために運転を停止しました。全国50基(※)の原発がすべて停止したことになり、日本で原発が「基幹電源」と位置づけられるようになってから初の事態です。政府は、安全性が確認され、また必要があれば、原発を再稼働させる考えですが、国内世論は賛否双方の立場で意見が大きく分かれています。電力需要が膨らむ夏場を前に、この問題の行方に注目が集まっています。
(※)東京電力福島第1原発1~4号機が4月19日付で法律上、廃止されたため、国内の商業用原発は50基。
国内の原発は、電気事業法に基づき、13か月に一度定期検査を受けることになっています。検査により安全性が確認された原発は、従来、速やかに再稼働されていましたが、福島第1原発事故により状況は一変しました。定期検査のために原発が次々と運転を停止する一方、政府は定期検査後の再稼働を事実上凍結。昨年7月には、再稼働を認める条件として、各電力会社に対し、施設の安全性に関する総合評価(ストレステスト)の実施を求めると決定しました。それを受け、電力各社は安全評価の1次評価結果を原子力安全・保安院に提出し、同院による評価などが進んでいますが、これまでのところ再稼働した原発はありません。
こうしたなか、再稼働に最も近いと見られているのが、関西電力の大飯原発3、4号機です。関電が提出した1次評価結果に関し、原子力安全・保安院(今年2月)に続き原子力安全委員会も、今年3月、これを了承しました。これを受け、野田佳彦総理と枝野幸男経済産業相ら3閣僚が4月中旬、新たな基準に基づき大飯原発3、4号機の安全性を最終的に確認、再稼働は「妥当」と判断しました。関電が示した安全対策に加え、原発なしで猛暑となった場合、節電の努力を重ねても関電の管内で深刻な電力不足に陥る可能性があることも考慮したものです。
しかし、大飯原発の再稼働は依然として不透明な状況です。政府は、原発を再稼働するには「地元の同意」が必要だとしてきており、枝野経産相が大飯原発のある福井県の西川一誠知事らに再稼働への理解を求めるなどしています。しかし、福井県に隣接する滋賀県や京都府、さらには関西電力の最大の株主である大阪市など、関西圏の自治体が再稼働に反対する姿勢を示しています。
電力の3割を原子力発電に依存していた日本が、原発稼働ゼロのまま夏を迎えるのかに注目が集まる一方、家庭や企業では早くも節電の動きが本格化してきています。
◆「原発稼働ゼロ」をめぐる主要紙の論調
原発再稼働を巡る国民世論と同じように、全国紙の社説における「原発稼働ゼロ」という今回の事態の捉え方も、大きく分かれています。
毎日(5月6日付)は、「日本にこれほど多くの原発が本当に必要だったのか。『全原発停止』が現実のものとなった今、改めて疑問に思う。本当の意味での原発ゼロ社会が到来したわけではない。それでも、原発を使わない社会を体験し将来に思いをはせる意義は大きい。……この機会を『原発出口戦略』を練る好機と考えたい」と述べています。一方、同じく「脱原発」の立場を取る朝日(5日)は、「脱原発への民意を政治がしっかり受けとめた結果であれば、歓迎すべきことだ。しかし実態は、政府の再稼働ありきの姿勢が原発周辺の自治体をはじめとする世論の強い反発を受け、先が見えない中での原発ゼロである」と述べた上で、「原子力をどのように減らし、新たなエネルギー社会をどう構築するか。私たち自らが考え、合意形成をはからなければならない。それは、原発政策を国に『おまかせ』してきたことからの教訓でもある」と論じています。
対照的なのが、読売、産経、日本経済です。読売(5日)は、「節電などの効果を入れても、全国の夏の電力需給は綱渡りだ。15基以上の原発が動いていた去年に比べてはるかに厳しい。昨夏のように、節電すれば乗り切れる、と楽観するのは危険である」と主張。産経(6日)は、「資源小国にとって、原発ゼロは自らの息の根を止める行為に等しい。日本の国力回復が不可能になる『ポイント・オブ・ノーリターン』は目前だ。原発の再稼働で破局突入を回避したい」と、原発ゼロ状態からの即時脱却を訴えています。日経(5日)は、「電力供給への不安が続く限り、企業は国内の設備投資をためらわざるを得ない。原発停止の穴を埋める石油や天然ガスの調達増加によって、年間2兆円を超える国富が余分に海外へ流出し、電力料金の上昇につながる。景気や雇用に影響が及び、私たちの生活に跳ね返ってくる」と、原発停止に伴う経済的損失の大きさを強調しています。
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