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実施日 : 2023年03月20日

開催報告:2022年度第3回FPCJ国際ウェビナー

投稿日 : 2023年04月20日

 

1.本ウェビナーの開催目的及び参加者


(1)コロナ禍で長く「鎖国状態」といわれた日本観光のV字回復が期待されています。世界経済フォーラムが昨年5月に発表した「2021年旅行・観光開発指数レポート」では、はじめて日本が1位を獲得しました。交通インフラの利便性や自然や文化の豊かさはもとより、「旅行と観光関連の持続可能性」の領域において比較的高い評価を得るなど、観光地としての日本のポテンシャルが注目されています。

一方で、観光産業の担い手不足、IT技術活用の遅れや生産性の低さ、訪日客の訪問先の一極集中と地域間格差といった問題も発生しています。「観光地日本」は今後、旅行者の多様なニーズに応え、付加価値の高い観光を提供できるのか。「環境」の保全と活用、「文化」の発信と継承、地域の「経済」活性化と持続的発展による「持続可能な観光」をいかにして推進していくのでしょうか。

(2)本ウェビナーでは、以上の問題意識のもと、観光行政や政策に精通した日本の識者と、常に外からの目で日本を見てきた外国特派員による議論に加え、国内外の現場とライブ中継で結び、日本の魅力を再発見しつつ、日本観光がこれから進むべき方向性を考察しました。本ウェビナーには国内外から220名の申し込みがあり、137名が参加視聴されました。

 

 

 

2.プログラム/各チャプター(上記動画)へのリンク

 

00:00:00

開会挨拶 兒玉和夫(FPCJ理事長)

00:07:19

登壇者によるプレゼンテーション

00:39:00

パネルディスカッション(ライブ中継を含む)

01:39:40

質疑応答

01:45:11

ディスカッションの総括

 

3. 登壇者紹介

【モデレーター】

村山 慶輔 (株式会社やまとごころ 代表取締役

【パネリスト】

森戸 香奈子(じゃらんリサーチセンター 主席研究員)

ウォルター・シム(ストレーツ・タイムズ紙 日本特派員)<シンガポール>

ルーシー・デイマン(フリーランス・ジャーナリスト)<豪州>

【ライブ中継による報告者】

ユン・ヒイル(京郷新聞 全国社会部専任記者)<韓国>

ポール・クリスティ(WALK JAPAN, CEO)<大分>

辰野聡(長野県国際観光課)/金子孝明(長野県観光機構)


※開催案内、登壇者略歴はこちらからご覧いただけます。

 

 

 

4. モデレーターによる冒頭発言のポイント

・観光の現状について、3年ほど止まっていたマーケットが昨年10月から動き出し、インバウンド観光客も月間100万人を超えるところまで戻ってきている

・日本政府は2030年に6000万人の受け入れ目標を維持しており、そのために2025年にはコロナ前の数字に戻すとしている。

・さらに2025年の大阪関西万博も視野に、インバウンド観光客による消費額が(年間)5兆円との試算がある。

・課題は、言葉の問題も含めて、コロナ禍により、外国人客への対応面でブランクがでていることと観光地での受入れ人材不足。

・今後の観光を考える上でのキーワードとなっている「持続可能な観光」については、環境面に加えて、雇用の維持といった社会問題への対応、地元の伝統文化の継承、地域経済への還元も考えていく必要がある。

 

 

5. パネリストによる発言のポイント

シム氏】

2016年6月からの東京勤務において、日本各地を訪れる機会が多く、大好きな自然の風景は、宮古島や奄美大島(当時の写真も紹介)。

・日本の魅力は、ニセコ(北海道)のパウダースノーや鳥取の砂丘、伝統的で持続可能な海女漁、そのような魅力の多い日本は 「眠れる巨人」であり、ようやくここ10年で眠りを覚ました。

・持続可能な観光との関連では、ニセコの過剰な開発(掘削)による温泉湯量の減少問題、地方において英語等の外国語表記を取り入れることなどが課題。

・(日本で最も印象的だった場所はとの質問に)淡路島にできた座禅リトリート施設は特に印象に残る、これからも大自然を体験したり、アートをテーマにした観光提案を希望。

 

デイマン氏】

・(自身の2013年蔵王に家族でスキーに来て以来という日本とのかかわりについて説明した後)人々にあまり知られていない日本を紹介したいとの思いで、昨年から高尾山(東京都)などへのハイキングツアーを開始した。

・(自身にとって特別な場所として、日本の温泉情緒が味わえる城崎温泉(兵庫県)や尾道(広島県)に触れつつ)日本が持つアセットは自然であるが、尾道のように伝統的な街に起業家が新たな文化をもたらしていることも面白い。

・大好きな場所としては、尾道に近い「しまなみ海道」、石川県小松市の古民家を利用した滝ケ原ファーム。

・日本の課題は、自国の素晴らしいものを紹介するのが得意ではないこと、デジタルメディアを、より有効に活用することを提案。

・持続可能なツーリズムというとすぐにSDGのリストをチェックするが、プラスティックでなく紙コップだから良いということではなく、持続可能なツーリズムとは何かを改めて問い直す必要性がある。

 

【森戸氏】

・内外の観光関係の調査をする中で、サステナビリティという言葉が56年前から話題となり、今やバスワードともなっているが、日本人は「やらねばならない」という意識は強いが、楽しんで前向きに意思をもって行動するという点が弱い。

・サステナブル・ツーリズムも受け身ではなく、売りとなるものが何かを意識したもの、環境面にばかり引っ張られるのではなく文化面に重点を置くことも大事。

・サステナブルな観光によって自分たちの唯一無二の観光資源を守ることにつながるとのポジティブな思考が必要性。

・自分たちの持つコア・アイデンティティを十分考えずに、客が求めるものを提供することは避ける、つまり客の要望を聞きすぎない、客との対等な関係、フラットな関係を築くことも大事。

 

6. ライブ中継参加者による現場の声のポイント

 続いて、ここから韓国(ソウル)、大分県(杵築市)、長野県(長野市)の3カ所からのライブ中継による「現場」の声を聞きました。

 

【ユン・ヒイル氏】

・(日本特派員の経験があり、大の鉄道好きで、山陰のローカル線の駅の名誉駅長も務める韓国の日刊紙、京郷新聞のユン・ヒイル氏は)鉄道を使って全国津々浦々どこでも行けるという国は日本のほかにはない、必ず持続可能な観光の力になる。

・特に好きな路線は、秋田・青森間の五能線、北海道の網走・釧路間の釧網線、大自然の中を走る鉄道の旅の素晴らしさを海外の旅行客に味わってほしい。

・日本の鉄道のメリットとしては、時刻通りに動くことや安全性はもとより、新幹線、ローカル線、寝台車、豪華列車まで多様性に富むことにある。

・また、「JRパス」という素晴らしい切符があるし、列車の中で食べられる何千種類もあるともいわれる駅弁の多様性も魅力。

・北海道などで廃線が進むと、日本の観光の良さがなくなるので、日本政府などによる救済を希望。

・改善提案としては、他社が乗り入れている鉄道区間で追加料金を求められることへの対応、東京とその周辺で使える鉄道の格安切符販売、インターネット通信環境整備を期待。

(これに対するパネリストのコメントは以下の通り)

シム氏】全く同感、公共交通機関はサステナブルなツーリズムにとって重要、魅力的なローカル線を海外からの観光客にも気付いてほしい。

森戸氏】自ら鉄道ファン、維持費の問題は深刻だが観光の力で解決することを期待。

・【村山氏】ユン氏の鉄道愛にあふれる説明は、鉄道が移動の手段だけではない楽しむものだということを改めて気づかせてもらった。

 

【ポール・クリスティ氏】

・(大分県の国東半島、杵築市に20年ほど前から活動拠点を構えるWalk Japanポール・クリスティ氏)高付加価値の「歩く旅」は、もともと香港大学の先生2人が31年前に設立した会社に、5年後に自分が加わり、歩きながら知られざる日本を体験してもらう旅を企画してきた。

・富裕層を対象に12名の限定ツアーで中山道を歩く企画も好評で、誰も観光資源として考えたこともなかったものに着目し、旅行商品として開発した。

・大分にある企業だが、旅行企画は北海道から沖縄まで全国で展開しており、歩く旅の移動は徒歩が中心だが、ローカル鉄道や路線バスも利用して地元の人々と交流する機会も創出している。

・自分たちが参加したいと思うものしか企画しない、一度参加した人が口コミでひろめてくれており、最近では修学旅行としても利用が急速に高まっている。

・日本の風景も食事も交通手段も素晴らしいが、一番いいのは日本人で、旅行者に対して常に歓迎の気持ちを表してくれること。

 

(村山氏のツアー単価に関する質問に対し)

・1日あたり5~8万円で、7~11日間のツアーを提案している。

・地元の人にこの話をすると、国東半島で10日間も何をするのかと驚かれる。

デイマン氏の地元との人たちとの交流はどのようにしているのかとの質問に対し)

・例えば道端の花の名前を聞くなどすると、それがきっかけで話が弾むこともある。

 

【辰野氏及び金子氏】

・(3カ所目のライブ中継地の長野県国際観光推進室の辰野氏)コロナ前の2019年まで、訪日外国人客は右肩上がりで順調に伸びていたが、内訳は60%が中国、香港、台湾、次いで豪州の8.8%であった。

・長野県のアドベンチャー・ツーリズム(AT)推進の背景として、冬場はスキー客で賑わっていたが、それ以外のグリーン期(511月)の滞在客が多くなかったこと、自然が豊かであったため人々の交流も昔から盛んで、歴史・文化の豊かさという強みを生かした取り組みの一つとしてATに注目した。

・(続いて長野県観光機構の金子氏)具体的な取り組みとして、地元のローカル・オペレーターやローカル・ガイドの育成に力を入れている。

・これからは街道沿いの歩く旅のみならず「姫街道」時代の手仕事にフォーカスをあてて、伝統工芸に観光が関与できるように、例えば後継者を育てていくことにつながるような取り組みも始めている。

・ゴールデンルートから長野県に人を如何にして呼び込むかが大きな挑戦。

 

7. 質疑応答及び閉会セッション

ウェビナーの最後に一般参加者からの質問を受けました。「オーストラリアやシンガポールはどのように外国の視点で自国の魅力を発見・分析しているのか」、「日本は海に囲まれ美しい海岸があるが、なぜこの天然資源を活用しないのか」などの質問が挙げられました。

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