三菱総合研究所理事長 小宮山 宏 「世界的課題への対応:『課題先進国』日本の取り組み」 【2】
投稿日 : 2014年11月10日
My Opinion インタビューシリーズ 1 (第1部 第2部 第3部)
総人口に占める65歳以上の高齢者の割合が25%を超え、未曽有の少子高齢化の時代に入った日本。人口減少も進んでおり、地方の疲弊、省エネルギー、年金・医療制度の維持など様々な課題を解決し、いかに持続可能な経済成長を実現するかが問われています。当センターでは、専門家にインタビューを行い、これらの課題の深層に迫る連載を開始します。
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小宮山宏・三菱総合研究所理事長のインタビュー第2部では、日本の課題解決の実績と今後の展望について伺いました。
Q: 日本が今までに解決してきた課題に、どのようなものがあるでしょうか。
A: 最初は、黒船が来た時でしょう。江戸時代に日本が鎖国している間に、イギリスでは産業革命が起きたわけです。それが海外に波及して、産業革命を成し遂げた欧米の国々とオーストラリアが先進国になりました。産業革命を成し遂げなかったのは、アフリカ、アジア、南米です。これらの国々は例外なく、植民地、あるいは植民地同然の状況になりました。
黒船が来た時は日本の危機でしたが、日本は植民地にはならなかった。産業革命を成し遂げて、日清、日露戦争で勝つところまで一気に来たわけです。当時、日本は欧米以外で、一気に先進国になった唯一の国です。なぜかというと、江戸時代の日本はただの途上国ではなかった。教育制度もあったし、情報システムである飛脚制度があったからです。占領されて植民地になっても不思議でなかった状況で、それを乗り切った。それは、大きな課題解決ですよね。そこから工業を一気に立ち上げたわけですから。
Q: その他には。
A: 甚大な公害被害に見舞われましたが、それを克服しました。世界一の環境国家を作ったのです。それから、エネルギー危機です。日本の工業化は、安価な輸入石油に100パーセント依存していました。その石油の値段が、高度経済成長期に10倍、20倍に跳ね上がったわけです。世界もピンチだったでしょうが、特に日本がピンチだった。ところが、日本のものづくり産業が、世界に先駆けてエネルギー効率を高め、ピンチをチャンスに変えたのです。
Q: 日本は、「少子高齢化」「医療・年金」「エネルギー」など様々な問題を抱えていますが、これを世界に先んじて解決していけるのでしょうか。
A: 私は、「本当にできる」と確信しています。自然にできるわけではないので、その覚悟を持たなければなりません。「高齢化で15歳以上65歳未満の労働人口が減るから、日本はダメ」――そんなことを言っていては埒があかない。まず労働人口(の構成)を20歳から70歳と考えるべきだし、70歳を80歳に上げることも考えるべきです。そうやって新しい社会を創っていく決意が必要です。
エネルギーについては、「現在ある原子力発電所をどうすべきか」という問題はありますが、長期的には再生可能エネルギーです。再生可能エネルギーなら、日本をはじめ世界各国にあまねくあります。私は「2050年までに」という目標設定が重要だと言っているのですが、2030年でもいい、それまでにきちんとターゲットを絞って、方向性を決める。大きな時代の変わり目で、大きな方向転換していかなければならないのです。
Q: どのような方向転換をすべきでしょうか。
A: 資源を自給する国家です。極めて合理的な資源自給モデルというのがあります。エネルギー、鉱物資源、食糧、林業、水を自給するモデルですが、これが日本の生きていく唯一の道だと、私は思っています。また、それこそが地球が目指すモデルなのです。エネルギーが地球全体で足りなくなっている時に、再生可能エネルギーを活用する。レアアースを含む資源をどう獲得するかという問題は、リサイクルで解決していく。
Q: 鉄鋼やアルミニウムは、リサイクルしたほうが原料を精錬するよりエネルギー消費量が少ないそうですね。
A: そうです。空気に触れて資源は錆びます。それが酸化鉄であり、酸化アルミニウムです。そこから、酸素を取り除くために精錬が必要となります。回収資源というのは、この場合スクラップですが、溶かせばいいのです。溶かすエネルギーは、(製錬するエネルギーと比較すると)鉄で27分の1、アルミニウムで83分の1です。レアアースは高品質磁石の製造に使われますが、大きな磁石はすでに回収されています。家電、自動車などもリサイクルされていますから、そこから取り出せばよいのです。今後は、スマホとか小さな資源を回収するシステムを作らなければなりませんが、これはできることです。
Q: 「課題先進国」が出版されてから7年経ちますが、日本の課題解決は進んでいますか。
A: 遅れていると思います。日本は、変化を生み出していくことはあまり得意でないのではないでしょうか。トランジション・マネジメント(持続可能なシステムへ移行する過程の管理)というのうは、世界的にも難しい。先進国は「でき上がって」いますから。でき上がっているものを変えようとすると、必ず損をする人が出てきます。その人たちは、変えることに対して猛反対する。合理的な変化なのですが、反対する人を誰が説得するのかという問題があります。学者は言うだけだし、政治家は選挙が怖いから説得しようとしない。一言でいうと、民主的にコンセンサスを取りながら変えていった経験が、日本に欠落しているからではないかと思います