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国際水準の情報発信を実現するためのメディアトレーニングを (高島肇久 日本国際放送特別専門委員)

投稿日 : 2013年09月17日

My Opinion No.2

 高島肇久 日本国際放送特別専門委員

 

日本国際放送社長、NHK解説委員長、外務報道官などを歴任し、日本に関するニュースを発信し続けている高島肇久さん(73)に、情報発信の方法やメディアの果たす役割などを聞いた。

 

IMG_8293s―情報発信の必要性を実感した瞬間は。

なんと言っても領土問題。外務省の報道官を務めていたが、もう少し日本の考え方をしっかり発信しておけばよかったとも思う。尖閣諸島と竹島の問題は当時から動いておらず、北方領土問題は動くかと思うとまた消えてしまう。尖閣諸島に領土問題は存在しないとの政府の公式見解があるのは事実だが、現実問題として中国の船が日本の領海内に居座るような事態を見ると、もっと早い段階から日本の主張をはっきり世界に伝えて味方を増やし、理解を深めてもらうことが必要だったと感じる。今からでも遅くないので強化するべきだ。

 

―効果的な発信方法は。

外交問題に関する限り、情報発信力があるかどうかは「人」に由来する。世界的に評価の高い外交専門誌「フォーリン・アフェアーズ」に論文を載せてもらった日本人は3人しかいない。論文の掲載まで編集者との間で何度も修正を重ねるという。世界の権威の人たちの目に触れるまでには、よほど書き手がしっかりしており、編集者とのコミュニケーションがとれていなくてはいけない。インターナショナル・ヘラルド・トリビューン紙のオピニオン欄に日本人の名前が出ることもほとんど無い。世界の主だったテレビ、雑誌、新聞への日本人の出演や署名入り記事の掲載が、特別なことでなく日常的に行われていなければならないと感じている。

外務報道官時代に、BBCの「HARDtalk」という番組に出演した。インタビュアーと一対一で侃々諤々の議論をする。冷や汗ものの経験ではあったが、その後、世界各地で出演について声を掛けられ、番組がいかに見られているかに驚いた。鋭い質問が次々にぶっつけ本番で飛んでくる。この手のインタビューに耐え、発言していくには相当場数を踏んだ人をたくさん用意しておく必要があると感じた。とはいえ、まずやることが大事。定期的にコラムを書けるだけの英語力をもち、時事問題に鋭く反応できる人を一人でも多く掬い出すことが必要では。

 

~ 知的な引き出しを増やし、思い切って発言を ~

 

―テレビの果たす役割は。

テレビはまだまだ基幹メディアだと思って間違いない。インターネットでの発信が主流になっていくのでは、との見方もあるが、おおもととなる情報そのものは、厳選された言葉でいかにコンパクトに分かりやすく伝えられるかが問われる。ジャーナリストとして訓練を受けた人や学者、評論家などある程度評価の定まった人が担うべき仕事だ。その一方でインターネットの重要性も認識している。米国のコーポレート・コミュニケーションの専門家は、日本企業のウェブサイトは内容、英語ページともにお粗末で情報の更新に時間がかかりすぎていると指摘している。改善すれば世界での地位がもっと上がるはずだ、と。企業だけでなく、メディアや官公庁のウェブサイトも同様。動画を増やす、英語のほか諸外国語にできるだけ早く訳す、要約をきちんと作るなど、魅力を増やす努力が求められる。

 

―日本では慎ましさが美徳だとされてきました。

これまで様々な国際会議やシンポジウムに参加したが、初めて参加した際、名札を立てるのが発言を求めるサインだと教わった。名札を立てるのがやや遅れ、自分の順番が来た時には議論の中心が別のものになっていることもよくあった。その場その場で何を発言するか作戦を練り直し、前の人の発言と関連づけて話し始め、自分の言いたいことに切り替えていくなどの国際会議を乗り切るテクニックがあるが、実践しないと身につかない。研鑽、訓練を積み、知的な倉庫、引き出しをいっぱい持つことで話せるようになる。沈黙は金、言わぬが花、などと言っていては発信できない。一人でも多くの日本人が議論の場に参加し、発言することで、日本の発信力、発言力が強まる。

 

~ メディアトレーニングでルールを学べ ~

 

―発信するうえで気をつけることは。

メディアトレーニングがとても重要だ。メディアからのインタビューやスピーチ、国際的なフォーラムやシンポジウムでの発言には、一定のルールが伴う。米国や英国ではメディアトレーニングのウェブサイトがたくさんあり、共通していることの1つは、オフレコはあり得ないということ。話したことは必ずどこかで伝わる。ノーコメントも何か隠していると受け止められるのでやめたほうがいい。また、準備をせずにフリートークのような形で記者団の前に行くのは一番危険とされている。頭の中できちんと整理してから話し、自分の発言に責任を持たなければ。日本では残念ながらこの手の失敗が非常に多い。さらに、簡潔・明瞭に伝えることも大切。準備を整え、専門知識を持った人が話す。自分の担当分野を超えた質問に対しては別の担当者に譲るなど、それぞれのテリトリーをはっきりさせてそのなかで相手に伝えていく努力をすることも必要だ。残念ながら福島第一原発事故後のブリーフィングや記者会見のやり方は批判を受けた。責任を追及すべき立場の政府が、追求されるべき東京電力に助けてもらって会見をするのはおかしい、とニューヨーク・タイムズ紙のマーティン・ファクラー東京支局長は批判する。「企業べったりのジャーナリズム」も問題だという。批判精神を忘れ、取材先に頼る日本の悪しき伝統から早く脱却し、国際水準のジャーナリズムに変えていく必要がある。また、情報を提供する側である政府、企業、政治家たちが国際レベルの情報発信の方法を学び、実践していかなければ。それを実現するにはメディアトレーニングが効果的だ。

 

―日本から海外に向け発信すべきテーマは。

「NHK WORLD」という国際放送で月に1度、日本のユニークな会社を紹介している。歴史と創造性、優れた人材とチームワークをもつ世界有数の企業がいくつもある。今、世界の目は中国に向いているが、実はアジアの中で底力があって、今も頑張って新しいものを作り続け、人類の未来のために役立っている国は日本なのだと胸を張って伝えていくべきだ。反響も多く、モノづくりにかけるチームワーク、個々人の使命感は海外の人々にとって驚異的に映るようだ。

 

―FPCJに期待することは。

プレスツアーが一番ありがたい。参加者はかなりいい記事を書いている。日本を少しゆっくり見て見ようという機会になっていると思う。訪れる範囲を広げ、回数を増やしてほしい。先日北海道を訪れたが、TPP交渉参加で農業に悲観的な声が出る中、タイ・バンコクと新千歳を結ぶチャーター便の就航を機に新しい観光の機運が高まっている。また、アウトドアスポーツに詳しいあるオーストラリア人は、あらゆるものが東京近郊で体験でき、しかもレベルが高い。日本はアウトドアスポーツの天国だと話している。外国からきたプレスに見てもらえば、記者たちにとっても面白く、取材を受ける地元も張り合いがある。相乗効果で新しいチャンスが生まれるかもしれない。日本にはいろいろな自然や季節、そして温泉などの魅力がある。それをもう少し知ってもらえれば観光客が爆発的に増えるのでは。

 

(聞き手:FPCJ理事長・赤阪 清隆)

 

 

1940年生まれ。東京都出身。学習院大学政経学部卒業後、日本放送協会(NHK)入局。ワシントン特派員、ロンドン支局長、報道局長、解説委員長などを務める。2000年に退職後、国際連合広報センター所長、外務省外務報道官、日本国際放送社長などを歴任。2011年より日本国際放送特別専門委員。

 

 

 

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