横浜市 林文子市長(2013年10月)
投稿日 : 2013年12月02日
悪化する地球環境への取組や港という強みを生かした街づくりを進め、大規模な芸術イベントを開催するなどソフトパワーの活用にも意欲的な横浜市。国際的な競争力を高める戦略について林文子市長に伺いました。(聞き手:FPCJ理事長 赤阪 清隆)
―今年6月、第5回アフリカ開発会議(TICAD V)が市内で開催されましたね。
約40名の国家元首・首脳級を含むアフリカ51か国の方々にお越しいただき、大きなプレゼンス向上につながりました。TICADやアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議といった大型国際会議をホストシティとして成功に導いてきた実績が評価され、日本の「グローバルMICE戦略都市」に選ばれています。国際会議場「パシフィコ横浜」は国内外から高い評価をいただいており、会議参加のために年間15万人近い方が来場されます。施設別の国際会議参加者数では国内1位。2位の名古屋国際会議場で9万人弱ですから、非常に重要な拠点になっていると思います。まさに皆様を「おもてなし」の心でお迎えしています。
―知名度を生かした取り組みは。
日中韓3か国でそれぞれ選ばれた都市が、文化芸術イベントや3か国の連携により東アジアの多様な文化の世界への発信力を高めていく「東アジア文化都市」事業。2014年1月から始まります。この事業の日本での開催都市が横浜市です。ともに選ばれた韓国の光州広域市、中国の泉州市の代表と懇談する機会がありましたが、開催都市同士で協力して、文化の力による市民交流、都市間交流に取り組んでいこうと意見が一致しました。来年1年間、現代アートの国際展「横浜トリエンナーレ」をはじめ、魅力いっぱいの文化芸術イベントを展開していきます。
(写真)オランダ船籍の客船フォーレンダムの
初入港を祝う横浜市民たち(横浜市提供)
―政府による拠点都市としての指定が大きな後押しとなっているのですね。
都市間競争が国際的にも高まっているなか、横浜の活性化に相乗効果を生み出しています。特に、「国際コンテナ戦略港湾」に指定されたことは、横浜港を含め、京浜三港にとって、港湾機能の強化に弾みとなっています。20年前と比べると、シンガポール、上海、釜山とは、コンテナ貨物量で圧倒的な差がついてしまいました。再構築に向け、私自身が先頭に立ち、海運企業にトップセールスを進めています。また、客船が行き交う風景は、横浜の大きな魅力です。今、日本をはじめ東アジアでは、客船クルーズがとても流行っています。昔は高価なイメージでしたが、7~10日間くらいのクルーズで10万円程度のものも出てきています。国内外の船会社や旅行会社が熱心に横浜港発着のツアーを展開してくれていることもあって、昨年まで10年連続で客船寄港数日本一となっています。
~ 大規模な次世代型カーシェアリング 環境未来都市としての街づくり ~
―低炭素都市に向けた取組も進められているそうですね。
国から「環境未来都市」として選定され、持続可能な街づくりを進めています。10月には、次世代型のカーシェアリング「チョイモビ ヨコハマ」を始めました。とてもかわいい2人乗りの超小型電気自動車を使った、環境に優しい交通システムです。みなとみらい地区を中心に市内約70か所のステーションを設け、観光にも、ビジネスや日常生活でも、より便利に移動しやすくなると期待しています。また、電力使用の「見える化」にも力を入れており、ホームエネルギーマネジメントシステム(HEMS)を導入した世帯は1,900に上ります。
(写真)「チョイモビ ヨコハマ」出発式(2013年10月10日)(横浜市提供)
―国際協力については。
開港以来、「ものはじめ ことはじめ」のエピソードには事欠かない都市で、日本で初めて下水道を引くなど優れたインフラ整備の技術と歴史を持っています。みなとみらい21地区は、30年前から海岸を埋め立てて創り出した、新たな横浜の顔です。こうした都市開発はもちろん、上下水道の技術、ごみ処理の問題にも優れた実績があります。今、新興国で大都市化が進むなかで、切実に求められている課題でもあり、我々のノウハウや技術に大変興味を持ってもらっています。そこで、国際貢献とともに、市内事業者のビジネスチャンスを生み出す「Y-PORT事業」をスタートさせ、技術者の派遣や研修の実施といった支援を進めています。
~ 一人ひとりが広告塔に トップはまず打って出なければ ~
―情報発信についてはどうお考えですか。
私のもともとのキャリアは営業職。約10年間の経営者時代を含めて、小売業で何もないところからお客様を開拓して売っていく仕事をしていました。「営業」という感覚は役所にはない文化でしたが、粘り強く言い続けているうちに、みんなが営業パーソンになってきました。広報部門だけが発信するのではなく、あらゆる事業を通じ、職員一人ひとりが広告塔になるとの姿勢で臨んでいます。就任後に行った組織の再編成でよく機能しているのが、文化観光局です。3年前、経済観光局から独立させ、成長戦略のカギでもある文化芸術を、新たな魅力づくりやプロモーションなど観光施策に結び付ける形で局を新設しました。それまでは、行政と民間との距離があり、行政内部でも縦割りになってしまうこともありましたが、文化観光局を中心に横断的な仕事ができるようになってきました。ICTを活用し、これまでの殻を破った発信の仕方にも積極的になっています。また、基礎自治体として、この街で暮らし働いている人々の思いを直接受け止めているという強みもあります。国が法や方針を定めた後、実際に市民の皆様の生活と完全にリンクさせて実現していくのは私たちの役割。生活の細かなところでも取り組んでいる分、情報発信も「リアル」ですし、訴求力が高いと思っています。
―海外への広報についてはいかがですか。
海外に向けては、あらゆるチャンスを生かすことが重要だと思っています。会議などで海外に出向く際や、企業の皆様が日本に来られる際に、私自身が直接ご挨拶に伺い、企業誘致のトップセールスを行ったり、横浜の状況をお伝えしたりしています。トップ自ら出ていくことが一番大事。また、FPCJは海外への情報発信に欠かせない大事なパートナーです。おかげさまで、国際都市としてのプレゼンスが高まってきた実感があります。11月20日には、プレスツアー「子育て・女性活躍支援で日本をリードする横浜市」で、外国メディアの皆様に横浜にお越しいただきました。海外に向けて報道していただく効果は非常に高いと思っています。
~ 秋の横浜は文化芸術のまち ソフト面の充実に向けて ~
―横浜の名前をさらにアピールするためには。
横浜でしか見られないものを生み出したいと思い、ソフト面にも力を入れています。昨年は「Dance Dance Dance @ YOKOHAMA 2012」を実施し、125万人もの方が横浜に来てくださいました。約2か月半の期間に、あらゆるジャンルのダンスイベントを開きました。ダンスは言葉がいらない世界。外国の方にもとても喜ばれました。この時期になると街が芸術に沸き立つ、というイメージを世界中の皆様に広めたい。今年は9-11月に音楽の祭典「横浜音祭り2013 ~音楽の海へ~」を市内全域で開催しました。321ものありとあらゆるジャンルのプログラムを楽しんでいただきました。
(写真)横浜音祭り2013 オープニングコンサート(2013年9月20日)(横浜市提供)
―東京五輪に向けて、どう取り組みますか。
本当に楽しみですね。市内でサッカーが開催される予定ですが、練習場などにも施設をお使いいただけると嬉しいです。7年後という1つの大きな目標ができました。精力的に準備を進め、世界中のお客様を、横浜ならではのおもてなしでお迎えしたいと考えています。オリンピックは、スポーツだけではなく、文化の祭典でもあると思っています。TICAD Vの際は、「一校一国運動」として市内の小中学校にアフリカの方にお越しいただき、素晴らしい絆が生まれました。オリンピックに向けても、選手や関係者の皆様と市民の皆様との間で様々な形で交流を深めていきたいと思います。横浜市には外国籍の方が7万5千人ほどおり、多文化共生の街でもありますから。
(写真)東京五輪でサッカー開催が予定される日産スタジアム(横浜市提供)
(写真)横浜の景観と祝福のメッセージをモチーフに、開港150周年のイベント(2009年)で制作された書を前に握手を交わす林市長(左)と赤阪
※記事の内容は掲載日(2013年12月2日)時点のものです。