1日目:富山県
~「ガラスの街とやま」に人を呼び込め、世界にはばたくガラス作家たち
~伝統工法を100年先に伝える「宮大工」のしごと~
2日目:石川県
~日本製金箔の99%を生産、金箔技術継承と現代生活との融合に挑む人たち~
~日本で唯一、プロ職人が高度な伝統技術を学ぶ「職人大学校」~
~おしゃべりOK、農業体験もできる新名所の図書館~
2023年5月に日本で初めて2県共同により「G7教育大臣会合」を開催する富山県と石川県は、江戸時代(1580年代)にはともに加賀藩の領地を形成する密接な関係にあった。加賀藩の歴代藩主は戦いを避け、学術や文化を振興に活かしてきた。本ツアーで取り上げる富山県の勝興寺(2022年に国宝に指定)や石川県の金箔工芸(2020年にユネスコ無形文化遺産に登録)といった文化財や伝統工芸はその庇護のもと長きに亘り受け継がれてきた。
文化財や伝統工芸は、その保存や活用に高度な技術を要するが、日本人の生活様式や社会構造の変化に伴い、担い手不足の課題に直面している。2021年度の日本の高齢化率(総人口に占める65歳以上人口の割合)は28.9%であるが、同時期の石川県の高齢化率は30.3%、富山県は33.1%と、都市部に比べてさらに高齢化や少子化が進み担い手不足も深刻化している。
伝統工芸以外で、富山が力を入れているのがガラスだ。1985年、富山市は「ガラスの街づくり』を開始し、「ガラス工芸」ではなく、ガラスに携わる「人づくりから始まる街づくり」を打ち出した。同市にとってガラスは縁が深い。江戸時代から始まった家庭を訪問しての薬販売業は「富山の薬売り」として全国に知られている。明治・大正時代にはガラス製の薬瓶の製造が盛んに行われ、かつて多くのガラス職人が存在していた。
本ツアーでは、両県の歴史と伝統、それに裏打ちされた文化について、代表的な施設を訪れ、その魅力を体感するとともに、文化財の修復に関する実例や技術継承のための後継者育成、伝統文化の普及啓発に関する取組み等、人口減少時代における技術継承に挑む現場を取材する。
また、現代工芸との融合、海外を視野に入れたり、サステナビリティを意識した取り組みなど時代に合わせて発展を遂げてきた両県の工芸品の「今」に迫る。
1日目:富山県
~「ガラスの街とやま」に人を呼び込め、世界にはばたくガラス作家たち
~伝統工法を100年先に伝える「宮大工」のしごと~
1. 雲龍山 勝興寺(うんりゅうざん・しょうこうじ)
~若手を雇用、宮大工の技術を時代につなぐ~
勝興寺は1584年に富山県北西部の高岡に建立された。1998年から23年間にわたる大修理では、宮大工の手によって江戸時代に作られた建物の部材の多くが活かされた。宮大工は、文化財建造物の美しさだけではなく、それを構成する部材もできるだけ古いまま伝えられるように、100年後の修理を見据え、保存・修理に携わる。同寺ほど当時の景観がそのまま残る寺院は全国でも貴重である。
舟木聡史(さとし)氏(39)は宮大工として大修理の初期から携わり、最後の3年間は棟梁を務めた。大修理中の2012年、29歳の若さで将来を見据えて独立、県内に社寺を手掛ける事業所「舟木工匠」を設立した。伝統的な日本建築を後世に残していけるよう、在籍する20~30代を中心とした若手4名の育成にも力を注いでいる。
学芸員の案内で同寺を見学する。舟木氏から大修理や修理箇所の説明を受けるとともに、文化財修理に使う仕口・継ぎ手と呼ばれる釘などを使わずに柱をつなぐ工法や鉋(かんな)削りの実演を撮影する。
2. 富山市立富山ガラス造形研究所
~世界で活躍する作家を育てる全国初の公立ガラスアート専門教育機関~
公立で初めての専門教育機関として1991年に設立した本研究所は、設立当初から海外から教授を招くことで国際交流を生み、富山のガラスを海外の方に知ってもらうきっかけ作りに活かしている。
研究所では、作品作りの考え方や自分の作品を語るプレゼンテーションまで幅広い視点から「人づくり」に取り組んでいる。
本研究所の設立当初から在籍する教授のアテンドのもと、富山でガラスを教えるチェコ出身の先生や中国出身の元建築士で昨年入学した生徒を取材する。
3. 富山ガラス工房
~廃ガラスの再利用で「リメルト・ブルー」を開発、作家活動を支える仕組み~
ガラス作家が抱える共通の課題解決には「2つの確保」が必要だといわれている。ガラスを溶かす「溶解炉」など制作場所と作品の販売ルートだ。本工房は、その課題解決と若手作家を支援する場として設立された。施設内には観光客や地元小学生向けの製作体験の場も設けられている。昨年夏頃からは、制作の際に多くの廃材が出ることに着目し、廃ガラスを使った取り組み「リメルト」も始まっている。
野田名誉館長の案内で施設を見学する。研究所を卒業し、ガラス工房を経て、独立し、県内で活躍するガラス作家を取材する。
4. 県内を拠点に活躍するガラス作家
①国内外で高い評価を受ける「レースガラスの魔術師」安田泰三(やすだ・たいぞう)氏
安田氏は、兵庫県神戸市で生まれたが、富山ガラス研究所の第1期生として18歳で富山に移った。その後、富山ガラス工房において経験を積み、25歳で独立し、築140年の木造家屋の外観を残した民家に自身の工房「Taizo Glass Studio」を構えた。
レースのような白い線文様が浮かび上がるヴェネチアン・グラスの代表的な技法「レースガラス」は安田氏の創作に欠かせない装飾表現で、県内のミシュラン星付きレストランにも作品を提供している。
安田氏の工房を訪れ、富山のガラス文化を盛り上げ、次世代への技術継承への想いを聞く。
②生粋の“富山人”作家 小路口 力恵(しょうじぐち りきえ)氏
小路口氏は、地元・富山が「ガラスの街づくり」としてガラスを学ぶ環境作りや文化振興に尽力していたことから、ガラス造形研究所で学び、ガラス作家の道を歩み始めた。「やさしく、やわらかく、ここちよい」をコンセプトとした丸みのあるフォルムの作品が特徴的だ。
かつて小路口氏が所属した富山ガラス工房にて、自身の作品制作に込めている想いや富山のガラス文化の普及について、同氏に聞く。
写真(左)-横井弘幸
5. TOYAMAキラリ内 富山市ガラス美術館
~世界最大級のガラス公募展を開催~
富山市の中心部にあり、図書館、銀行などが入居する複合施設内にある現代ガラスを中心に展示している富山市ガラス美術館。観光客だけでなく、街に出たついでに地元の人など多種多様な人が気軽に立ち寄る施設だ。
同館では近年、国際公募展も開催しており、直近2021年に開催されたガラスに特化した国際公募展では世界51か国・地域から総勢1126点の作品が応募があり、その規模は世界最大級だ。
ICOM GLASS会長に就任した土田館長の案内で、同館の特徴や展示について聞く。
6. 富山県美術館 ビビビとジュルリ(昼食)
~器も食材もまるごと富山~
富山県15市町村から集まる旬の味を使った料理を提供。提供される料理に用いられる器は、富山県の産業(アルミや、伝統工芸の銅器、ガラスなど)から生まれたもの。
2日目:石川県
~日本製金箔の99%を生産、金箔技術継承と現代生活との融合に挑む人たち~
~日本で唯一、プロ職人が高度な伝統技術を学ぶ「職人大学校」~
~おしゃべりOK、農業体験もできる新名所の図書館~
1. 世界に誇る伝統工芸「金箔」
~ユネスコ無形文化遺産に登録された伝統技法の歴史と技術の継承~
金沢の金箔は400年以上の歴史を持ち、神社仏閣や宮殿、家具や調度、絵画や工芸品など、さまざまな物の装飾に用いられてきた。現在、日本の金箔の99%は金沢で生産されており、1万分の1ミリにまで薄く延ばす伝統技術は金沢を代表する職人技として知られている。金箔は近代的製法である「断切」(たちきり)と400年以上の歴史がある「縁付」(えんづけ)の2種類がある。「縁付」は、手漉き和紙を用いて金を打ち延ばす製法で、「伝統建築工匠の技」のひとつとして、2020年にユネスコ無形文化遺産に登録された。
①安江金箔工芸館
「安江(やすえ)金箔工芸館」は、金箔職人であった安江孝明(たかあき)氏が創設した施設を端緒とする日本で唯一の金箔の博物館。金箔の歴史や製造工程を知るための資料や道具、そして金箔をあしらった様々な美術工芸品が展示されている。
金箔は日本人の生活様式の変化や厳しい経済状況の中で需要が落ち込み、その伝統技術を保持する職人の数は、1998年の49人と比較すると3分の1以下にまで減少し、今や15人程度となっている。また、その平均年齢は70代後半となり、伝統技術の保存継承が急務となっている。
金沢市ではワールドモニュメント財団や、文化庁、金沢金箔伝統技術保存会、ティファニー・アンド・カンパニー・ジャパン・インク他パートナーと協力して後継者育成のための国際協力、官民協働プロジェクトに取り組んでいる。
同館の館長である川上明孝(かわかみ・あきたか)氏の案内で館内を見学、金箔の歴史や製造工程に関するレクチャーを受ける。また、実際に後継者育成プロジェクトに参加している若手研修生へのインタビューを行う。
画像提供:安江金箔工芸館
②金箔屋さくだ
金箔屋さくだは1919年に創業し、1970年頃からは金箔を使った工芸品の制作を開始した。現在は、金箔製造の伝統と歴史を受け継ぎつつ新たな挑戦にも取り組んでおり、ガラス・布・銅器等に加え、全国の伝統工芸とのコラボレーションを行っている。
石川県箔商工業協同組合理事長も務める同社の代表取締役 作田一則(さくだ・かずのり)氏から同社の取組や展望、業界の課題などについて聞く。また、通常は立ち入れない作業場の見学と作業風景の撮影に加え、職人へのインタビューを行う。
画像提供:金箔屋さくだ
2. 金沢職人大学校
~人の手から手に受け継がれる伝統的で高度な職人の技術~
金沢職人大学校は1996年に金沢市によって設立された。これまで、日本国内において、伝統的な建築技術は、各地域で個人が親方に弟子入りをして学ぶという徒弟的な方法で継承されてきた。他方で同校は熟練した職人を講師に迎え、職人歴10年程度の経験者に伝統的建築技術を教える「職人育成のための研修施設」である。このような既に一定の経験を持つプロの職人に対して、高度な伝統技術を教える研修施設は国内で同学だけだ。これまで述べ660名が研修を終了し、県内外の文化財や町屋などの修復現場で活躍している。
同校の理事長から設立の経緯や目的、その特徴、職人技術の次世代継承や一般市民に対する普及啓発などの取組ついて解説を受ける。
また、伝統的な日本建築には欠かせない引き戸・障子などの建具や畳の科目を担当する職人や研修生へのインタビューに加え実習の様子も取材する。
3. 石川県立図書館
~本を読む・借りるだけではない『文化立県・石川』の新たな「知の殿堂」~
石川県立図書館(愛称:百万石ビブリオバウム)は、旧館の老朽化・狭隘化に伴い、2022年7月に移転開館した。国立国会図書館(NDL)の調査によると、日本では年に1回以上公共図書館を利用する人の割合は約4割にとどまる。この「4割の壁」を超え、県内各地から幅広い利用者が訪れる図書館を目指し、新図書館では、「本との出会い」をコンセプトに、利用者に様々な読書体験をしてもらう仕掛けをちりばめている。
同館の円形劇場のような大閲覧空間では「暮らしを広げる」「子どもを育てる」「仕事を考える」など、12の身近なテーマで蔵書を分類し、読みたい本を見つけやすくしたり、思いもよらない本との出会いが生まれるよう独自の工夫をしている。また、館内は基本的におしゃべりOKであるのも大きな特徴だ。設備もユニークで、子どもがアスレチックのように体を動かせる設備や、屋外には農業体験ができる小さな畑を有する。その他にも、会議やリモートワークができるラーニングスペース、モノづくりや食文化を体験するスペース、イベント利用も可能なだんだん広場や研修室を備えた文化交流エリアなど、同館には、本の閲覧や貸出だけにとどまらない、多世代が知を深めるための工夫が施されている。
基本構想の策定段階から図書館の整備に携わってきた田村俊作館長(慶応義塾大学名誉教授)の案内により館内を回りながら、随所に盛り込まれた工夫を取材する。
【実施要領】
1.日程:2023年4月20日(木)~21日(金)(1泊2日)
2.スケジュール:
※日程は調整中のものであり、予告なく変更になる可能性があります。
<4月20日(木)>
7:20 ‐ 9:28 東京駅~富山駅(北陸新幹線 かがやき503号)
10:25 ‐ 11:35 雲龍山 勝興寺
12:25 ‐ 13:05 富山県美術館(昼食)
13:25 ‐ 14:00 Taizo Glass Studio(ガラス作家取材)
14:30 ‐ 15:00 ガラス造形研究所
15:05 ‐ 15:35 富山ガラス工房 第二工房
15:40 ‐ 16:20 富山ガラス工房 ショップ(ガラス作家取材)
16:40 ‐ 17:20 富山市ガラス美術館
17:30 ‐ 19:00 夕食
19:15 ホテル着
<4月21日(金)>
8:00 ホテル発
8:31 ‐ 8:53 富山駅~金沢駅(北陸新幹線 つるぎ709号)
8:53 ‐ 9:20 金沢駅 概要説明、写真撮影
9:35 ‐ 11:00 安江金箔工芸館
11:10 ‐ 12:10 金箔屋さくだ
12:30 ‐ 13:30 昼食
13:45 ‐ 14:55 石川県立図書館
15:10 ‐ 16:50 金沢職人大学校
17:00 金沢駅着
17:57 ‐ 20:23 金沢駅~東京駅(北陸新幹線 かがやき514号)
3.参加費用:1人 15,000円
(全行程交通費、宿泊費(朝食込み)、昼食(2回)、夕食(1回)を含む)
※参加確定後のキャンセル料については、参加者にご連絡します。
4.募集人数:10名(各社ペン1名、カメラ1名、TVは1社2名まで)
*申し込み人数が10名を超えた場合は、国別の参加者数に上限を設けることがあります。
5.申込方法:お送りしたメールをご確認ください。
6. FPCJ担当:佐藤 彩子
(Tel: 03-3501-5251、E-mail: sc@fpcjpn.or.jp)
7.備考:
(1)本ツアーはG7教育大臣会合富山県委員会及びG7富山・金沢教育大臣会合石川県推進協議会(併せて以下「委員会」という。)が主催、株式会社JTB及び株式会社JTBコミュニケーションデザインが運営、FPCJが企画協力しています。
(2)本ツアーの内容は、予告なく変更になる可能性があります。
(3)参加者には企画立案に関する事務局運営費の一部を負担していただいていますが、営利を目的とした事業ではありません。
(4)旅行傷害保険に関しては、主催者側で加入しますが、委員会、FPCJ、株式会社JTB及び株式会社JTBコミュニケーションデザインは本ツアー中に生じる当該保険適用外のいかなる不都合、トラブル、事故等に対して一切責任を負いません。
(5)写真・TV撮影に関しては、担当者の指示に従ってください。
(6)地元自治体、メディア等が、本ツアーを視察・取材することがありますので、予めご了承ください。
(7)本ツアーの様子を記録した動画・写真・記事を、委員会構成団体のホームページ、SNS等に掲載することがありますので、予めご了承ください。