2025.12.17

国立大学法人京都大学

キリスト教AIの開発を開始 -プロテスタント教理問答ボット(カテキズムボット)の開発-

キリスト教AIの開発を開始 -プロテスタント教理問答ボット(カテキズムボット)の開発-

1.背景
 京都大学 人と社会の未来研究院の熊谷誠慈教授と株式会社テラバース古屋俊和CEOらの研究開発グループは、様々な仏教チャットボットや仏教AR(拡張現実技術)など、多数の仏教AIプロダクトを開発してきました。同時に、古今東西の宗教や哲学など、人類の知的遺産を継承するAI開発を視野に入れ、多角的な研究・開発活動を進めてきました。
 このたび、京都大学熊谷ラボとテラバース社(開発リーダー:波勢邦生博士)の研究開発グループは、将来的なキリスト教AI創成の出発点として、「プロテスタント教理問答ボット」(通称:カテキズムボット)を新たに開発しました。
 
2.学習データ
 「カテキズム」(catechism)とは、一般にキリスト教教義の入門的な概説書です。キリスト教の重要な通過儀礼(洗礼や堅信礼)前に行われる入門教育(catechesis)、または質疑応答、口頭試問を意味します。すなわち、教理問答としてのカテキズムは、チャットボット用の学習データと相性が良く、キリスト教AI開発の出発点、その最適解として採用されました。
 同研究開発グループは、学習データとして、『新約聖書』に加えて、マルティン・ルター(1483-1546)著『小教理問答』ならびに『ウェストミンスター小教理問答』(1648)を採用しました。
 
3.「プロテスタント教理問答ボット」の構造
 プロテスタント教理問答ボットのシステムの枠組は、仏教対話AI「ブッダボットプラス」の枠組みを踏襲しました。『新約聖書』に加え、ルター著『小教理問答』、及び、『ウェストミンスター小教理問答』の中から、ユーザーの質問と最も関連が深いとAIが判断した文言を回答として提出し、OpenAIの大規模言語データベースにもとづいて、解釈や追加説明を生成し提供する構造を採用しています。
 プロテスタント教理問答ボットは、キリスト教の教えに関する質問のみならず、日常生活についても、『新約聖書』やカテキズムの内容に基づいて回答や助言を行うことが可能です。
 
4.「プロテスタント教理問答ボット」の意義
 キリスト教は、日本国内においてはマイノリティです(日本の総人口比で約0.7%/世界人口比で約30%)。このカテキズムボットを通じて、多くの人々が、キリスト教の理解の糸口をつかむことは、国際化の進む現代社会において有益と考えられます。プロテスタント教理問答ボットの扱う範囲が、キリスト教の伝統の一部であるにせよ、宗教リテラシーの向上に確かな貢献をするものと期待されます。
 
5.プロジェクトの倫理的課題、今後の展望
 Chat GPTなどの生成AIには、情報の典拠が不明であること、個人情報の流出、著作権の侵害など、信頼性に関わる課題が山積しています。また、生成AIとの会話にのめり込んだユーザーの自死など、近年、今まで想定し得なかった危険性が指摘されています。プロテスタント教理問答ボットは、原典を機械学習し、情報ソースの問題に対応し、その他の課題についても順次、可能な限り対策を講じていく予定です。
 本プロダクトの展開先としては、国内のキリスト教系のミッション・スクール、または神学校などが想定されます。また国外においても要望があれば、英語圏のキリスト教界などへの導入も視野に入れています。
 学習データについても、さらに増やしていく予定です。例えば、ルター著『大教理問答』や『ウェストミンスター大教理問答』など、他のプロテスタントの重要文献、さらに正教会、カトリック、聖公会や東方諸教会の重要文献もデータに追加して、より重厚なキリスト教AIを構築していく予定です。
 今後も京都大学熊谷ラボと株式会社テラバースは、最新技術と人間精神の調和と前進、その需要と供給を満たすため、人類史を代表する哲人や聖者たちの対話AIを順次開発し、デジタル空間に豊かな伝統知を拓いて再現していく予定です。
 
<研究者のコメント>
既存の仏教AIに加えて、今回、キリスト教AIを開発したことで、AI開発における宗教多様性を実現することができました。今後、様々な宗教や哲学とテクノロジーを融合した「伝統知テック」開発をさらに加速し、より豊かなデジタル文化を提供して参りたい所存です。

 

<本プロジェクト関するお問い合わせ先>
熊谷誠慈(くまがい・せいじ)
京都大学 人と社会の未来研究院 副研究院長・教授
E-mail:kumagai.seiji.3m*kyoto-u.ac.jp
お手数ですがメール送信の際に、*を@に変えてお送りください。
 
<報道に関するお問い合わせ先>
京都大学 広報室国際広報班
TEL:075-753-5729 FAX:075-753-2094
E-mail:comms*mail2.adm.kyoto-u.ac.jp
お手数ですがメール送信の際に、*を@に変えてお送りください。

 

<画像> キリスト教AIの開発に成功