社説読みくらべ

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米国抜きTPP大枠合意の今後は

投稿日 : 2017年12月04日

日本の主要な全国紙5紙(朝日、産経、日経、毎日、読売)から、同じテーマについて論じた社説を選び、その論調を分かりやすく比較しながら紹介します。

 

朝日新聞:米抜きTPP 「多国間」を粘り強く

産経新聞:TPP11大筋合意 保護主義を阻む礎とせよ 米政権に粘り強く復帰促せ

日本経済新聞(日経):TPP11を礎に質高い自由貿易圏つくれ

毎日新聞:米国抜きTPPで大筋合意 自由貿易立て直す土台に

読売新聞:米国抜きTPP 保護主義圧力に先手を打った

 

米国を除く環太平洋経済連携協定(TPP)参加11カ国は1111日、ベトナムのダナンで開かれた閣僚会合で、新たな協定について大筋で合意した。年明けにも署名を行い、2019年の発効を目指す。合意の内容は、米国が離脱する前の協定のうち、関税撤廃・削減のルールは変えずに、知的財産分野を中心に20項目の凍結を決めた。

 

全国紙5紙は同月12日付の社説で、TPP11の「大筋合意」で発揮された日本のリーダーシップ発揮を評価するとともに、土壇場での合意実現を歓迎した。同時に全紙とも、世界の自由貿易推進のため、「米国一国主義」を掲げ保護主義的政策に固執するトランプ米政権に対し、「TPPへの復帰」を粘り強く促していくよう強く求めた。

 

■ 日本の指導力評価

 

日経は、米国のTPP離脱で自由貿易圏の規模が縮小され、経済効果も小さくなるとしながらも、「11カ国による協定締結の意義は大きい」とし、「議論を主導する日本の努力を評価したい」と強調した。同紙は、大筋合意の意義について、①新協定は関税の撤廃だけでなく、きわめて質の高い貿易・投資ルールを定めている②東アジア地域包括的経済連携(RCEP)など他の通商交渉を刺激し、より良い効果を生み出す③米国による日米2国間の自由貿易協定(FTA)締結要求に対して、理不尽な要求に対する防波堤として活用できることを挙げた。また、TPP協定が発効すれば、今後は韓国、台湾、タイ、フィリピンなどの国・地域に門戸を開放することが課題となるとして、「日本は常にこの地域の自由貿易の先導役を果たさなければならない」と主張した。

 

読売も、「米国で高まる保護主義に『待った』をかける重要な一手である」して、新協定の大筋合意について「成長著しいアジア太平洋地域で、協定が再始動する意義は極めて大きい」と評価した。また、RCEPなど他の貿易枠組みの「有力な指針」になると指摘するとともに、米国が要求するFTA交渉において「米国の圧力をかわす安全弁となり得る」と主張した。特に新協定は、米国が旧協定で強く主張した一部項目を“凍結”する一方、米国が復帰すればそれを“解凍”する仕組みを残したことに触れ、米国が2国間交渉を迫ることがあれば、「まずは米国にTPP復帰を促すのが筋である」と強調した。日本の指導力についても、「合意形成を促したのは間違いない」と評価した。

 

産経(拡大版)は、アジア太平洋地域における中国の経済的台頭を考慮すれば「域内の経済的な結びつきを強める巨大協定を日本主導で進める意義は大きい」とした上で、露骨な米国第一主義に立つトランプ政権の通商政策に対する「重要な礎」、「(保護主義を)許さぬ防波堤である」と主張した。特に中国の“一帯一路”構想について、「経済のみならず、軍事的な覇権主義とも密接に結びついた、勢力圏の拡大戦略」と指摘し、今回の合意は中国牽制の戦略性があると強調した。また、TPPの新協定に慎重だったベトナムなどに日本が働きかけ大筋合意を取り付けたことについても「国際交渉の場で、経済大国にふさわしい責務を果たせたのは特質すべきこと」と評価した。

 

■ 米国説得、粘り強い多国間交渉を求める

 

朝日は、TPP大筋合意について、「TPPは、漂流という最悪の事態を何とか避けられそうだ」、「米国が抜けたとはいえ、11カ国は国内総生産(GDP)で世界の13%を占める。今回の合意が持つ意味は小さくない」と評価しながら、米国をTPPの舞台に呼び戻すことの重要性を強調した。特に、多国間協議の枠組みが電子商取引などの新たなルールの拡大に寄与し、米国の利益につながると説得し続けることが「日本の役割」であると力説した。さらに、RCEPの交渉も加速させれば、アジア太平洋地域に広大な自由貿易圏ができ上がるとして、「その時、まだ多国間の枠組みの外にいることを、米国は選ぶだろうか」と疑問を投げかけた。

 

毎日は、合意について、他紙と同様に「米国抜きでも、貿易や投資を活発化させ、域内の成長に資する内容になった」とするとともに、「自国優先を振りかざすトランプ米政権への防波堤にもなる」と論じた。ただ、カナダの主張で首脳会合が見送られたことについて「残念だ。結束を保って、早期に署名し、自由貿易体制を立て直す土台にしてほしい」と指摘した。米国の復帰についても、「TPP参加国が農産物の対日輸出を増やすと米国の輸出に不利に働く。米農業界で復帰を求める声が高まることも予想される」として、米国に粘り強く再考を求めていく必要性を強調した。 

 

 

写真: ロイター/アフロ

 

※このページは、公益財団法人フォーリン・プレスセンターが独自に作成しており、政府やその他の団体の見解を示すものではありません。

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