働く女性の増加で保育所の空きを待つ児童はいまだ2万3500人
政府の「待機児童ゼロ」新プラン、実現目標は2020年度末に投稿日 : 2017年07月20日
日本の主要な全国紙5紙(朝日、産経、日経、毎日、読売)から、同じテーマについて論じた社説を選び、その論調を分かりやすく比較しながら紹介します。
朝日新聞: 子育て支援 待機児童解消が先だ
産経新聞: 待機児童の新計画 解消へ着実に課題解決を
日本経済新聞(日経):人材投資は待機児童対策を最優先せよ
毎日新聞: 「待機児童ゼロ」3年先送り 不十分な対策が招いた
読売新聞:待機児童「ゼロ」 先送りの繰り返しは許されぬ (50音順)
保育所の空きを待つ待機児童問題が待ったなしの状態となっている。政府は6月に新たに「子育て安心プラン」を発表し、待機児童「ゼロ」の達成を2018年度から3年先送りし、2020年度末とすることを決定した。小泉純一郎内閣が「待機児童ゼロ作戦」をスタートさせてから約15年。政府は「待機児童ゼロ」の実現に向け、最近5年間で約53万人分の受け皿を確保してきたが、働く女性の増加で需要の伸びに追いつかず、今年4月時点での待機児童は約2万3500人に上っている。新プランでは、18年度から3年間で新たに22万人分の受け皿を整備するとともに、働く女性の増加を想定し22年度末までに10万人分追加し、合計32万人分の拡大となる。
全国紙5紙はこの問題を社説で順次取り上げ、政府の保育需要予測の甘さを指摘しつつ、今後の課題として最も深刻な保育士不足とその待遇改善、待機児童の多い都市部での保育所用地取得の困難さや保育の「質」の低下などの問題を挙げた。また、待機児童対策の新たな財源案として、自民党が将来の幼児教育無償化を念頭に現役世代から保険料を徴収する「こども保険」を検討していることについては、慎重な議論を求める論調が見られた。
■ 目標先送りで、政府に本気の対応を求める
朝日(6月11日付)は、「待機児童ゼロ」計画の3年先送りについて、「潜在的な保育ニーズを含む実態の把握と見通しが甘かったと言わざるを得ない」と批判。「総合的な対策のメニューと必要な予算の規模を示すことが、議論の出発点」とし「今度こそ(待機児童ゼロを)達成するよう、政権の本気度を示してほしい」と訴えた。
毎日(6月1日付)も、政府の対策の不十分さを問題視して「目標を先送りすることになった原因を検証し、有効な施策を打ち出す必要がある」とし、特に需要の多い低年齢児の受け皿の拡充を全力で進めるよう求めた。
読売(6月2日付)は、需要予測の甘さは否めないとしながらも、新プランについて、「保育の受け皿を大幅に増やし、女性の活躍を促す狙いは妥当だ」と一定の評価をした。ただ、待機児童の実態は、保育所に入所できず、やむなく親が育児休業を延長した場合など集計から除外されている‟隠れ待機児童”も含めれば「9万人を超える」としている。
日経(6月4日付)は、待機児童対策は、少子化対策であると同時に、将来を担う人材への重要な投資であるとの認識に立ち、「仕事と子育てを両立しやすい環境づくりが急務だ。もはや一刻の猶予も許されない」と強調した。
産経(6月3日付)は、当初の想定以上に需要が増えたことで待機児童ゼロの「達成時期を遅らせること自体はやむを得まい」と理解を示しつつも、新プランの下でも、問題解決へ課題は多いと指摘。『今度こそ終止符を打つ』と意気込みを示している安倍晋三首相に対して「数字合わせではなく、着実な実施こそ必要である」と注文を付けた。
■ 容易でない保育士確保
待機児童解消のための個別の課題については、全紙がほぼ共通して、保育士不足と新プランの財源確保を問題として挙げた。
読売は、保育士不足について「施設を新設しても、保育士が集まらず、受け入れ枠の縮小を余儀なくされるケースが少なくない」と指摘するとともに、保育士の待遇(賃金)を今年度から月平均6000円引き上げ、経験や技能に応じて最大4万円加算する制度を導入したが「他産業との格差は、なお大きい」と、一層の改善を求めた。
毎日も、「3歳児」の場合は保育士1人で20人まで保育できるが、待機児童の多い「1~2歳児」は6人に保育士1人の配置が義務付けられている。意欲のある自治体は賃金上乗せや家賃補助などで保育士を確保しているが、「保育所を新設しても保育士が集まらないため定員を減らして運営せざるを得ないところもある」と指摘した。資格を持ちながらも働いていない「潜在保育士」は70万人以上いると見られ、保育士の待遇改善についても「効果は限定的」と強調した。
朝日は、都市部での保育所用地の取得の難しさを指摘し、「職員数の水増しや子どもへの虐待など悪質な保育所の事例も問題になりつつある」として、保育の質の確保に配慮するよう求めた。
■ 自民党で検討の「こども保険」に慎重な議論を求める
朝日は、自民党内で待機児童の解消策として検討されている新財源案「こども保険」について、本来、自民党の公約である‟幼児教育無償化“のために検討されてきたものだとして、「子育て世帯に手当を給付するなどして経済的に支援することを狙うが、年金保険料に上乗せして財源をつくる想定のため、現役世代に負担が集中するなど課題が少なくない」と慎重論を展開した。
日経も、「『無償化ありき』は論外だ」と強調し、まずは待機児童対策にめどをつけたうえで、どこまで無償化を広げるかの議論を深めるべきだとの姿勢を明確にした。先進国で財政赤字が最も深刻であることから「社会保障の歳出見直しを含めて財源をしっかりと確保し、新プランを着実に実行しなければならない」と論じた。
読売は現役世代から保険料を徴収する「こども保険」構想について、「次世代育成の費用を社会全体でどう賄うか、議論を深めたい」と態度を保留し、産経も「幼児教育や保育の早期無償化案も浮かんでいるが、まずは国民のニーズを正確に捉えることが欠かせないだろう」と指摘するにとどめた。
写真: ロイター/アフロ
※このページは、公益財団法人フォーリン・プレスセンターが独自に作成しており、政府やその他の団体の見解を示すものではありません。