社説読みくらべ

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戦後70年談話

投稿日 : 2015年08月28日

【戦後70年談話】

 

Vol.9 2015年8月28日

 

 朝日:何のために出したのか

 産経:世界貢献こそ日本の道だ 謝罪外交の連鎖を断ち切れ

 日経:70年談話を踏まえ何をするかだ

 毎日:歴史の修正から決別を

 読売:歴史の教訓胸に未来を拓こう 反省とお詫びの気持ち示した

 

安倍晋三首相は8月14日、首相官邸で記者会見し、戦後70年談話を発表した。

 

今回の談話作成の過程では、戦後50年の村山談話に盛り込まれた「侵略」「植民地支配」「痛切な反省」「心からのおわび」が入るかどうかが注目された。

 

首相は談話で、「事変、侵略、戦争。いかなる武力の威嚇や行使も、国際紛争を解決する手段としては、もう二度と用いてはならない」「植民地支配から永遠に訣別し、すべての民族の自決の権利が尊重される世界にしなければならない」との表現で、注目されていた「侵略」「植民地支配」に言及した。

 

先の大戦についての「反省」や「おわび」については、日本は「痛切な反省」や「心からのおわび」を繰り返し表明してきたと指摘した上で、談話は「こうした歴代内閣の立場は、今後も、揺るぎないものであります」と明記。そのうえで、「あの戦争には何ら関わりのない、私たちの子や孫、そしてその先の世代の子どもたちに、謝罪を続ける宿命を背負わせてはなりません」とした。

 

安倍首相談話について、全国紙5紙は8月15日付の社説でそれぞれ論評しているが、その評価は大きく分かれた。

 

■  過去への言及

読売新聞は、安倍談話に「侵略」が明記されたことに触れ、「先の大戦への反省を踏まえつつ、新たな日本の針路を明確に示したと前向きに評価できよう」と歓迎した。

 

さらに、「一部の軍人の独走を許し、悲惨な戦争の発端を日本が作ったことを忘れてはなるまい」と指摘し、「『侵略』の客観的事実を認めることは、自虐史観ではないし、日本を貶めることにもならない。むしろ国際社会の信頼を高め、『歴史修正主義』といった一部の疑念を晴らすことになろう」と述べた。

 

日本経済新聞も、「戦後50年の村山談話を大きく書き改める談話になるとの見方もあった」ことに触れ、「おおむね常識的な内容に落ち着いたことを評価したい」と述べた。

 

一方、朝日新聞は「いったい何のための、誰のための談話なのか」との書き出しで、「日本が侵略し、植民地支配をしたという主語はぼかされた。反省やおわびは歴代内閣が表明したとして間接的に触れられた」と述べ、「この談話は出す必要がなかった。いや、出すべきではなかった。改めて強く思う」と批判した。

 

さらに、日本の大陸への侵略について「侵略とは言わなくても『侵略的事実を否定できない』などと認めてきた村山談話以前の自民党首相の表現からも後退している」と指摘した。

 

毎日新聞は、「安倍首相は『深い悔悟の念』や『断腸の念』を談話に盛り込んだ。だが、その歴史認識や(近隣国との)和解への意欲は、必ずしも十分だとは言えない」と指摘した。

 

同紙は、「全体に村山談話の骨格をオブラートに包んだような表現になっているのは、首相が自らの支持基盤である右派勢力に配慮しつつ、米国や中国などの批判を招かないよう修辞に工夫を凝らしたためであろう」と分析したうえで、「その結果として、安倍談話は、誰に向けて、何を目指して出されたのか、その性格が不明確になった」と述べた。

 

産経新聞は、「戦後生まれの国民は人口の8割を超える。過去の歴史を忘れてはならないとしても、謝罪を強いられ続けるべきではないとの考えを示したのは妥当である」と述べた。

 

■  未来志向

朝日を除く各紙は、戦後70年談話を踏まえて、今後の日本外交に触れている。

日経は、「安倍首相は歴史の細部にこだわるのではなく、どうすれば未来志向の外交関係を築けるかに傾注してもらいたい」と注文。また、中国との今後の関係について、安倍首相に訪中を促したうえで、「談話でも意識したように、中国の一般民衆に向けたメッセージを現地で発信するのが望ましい。これを未来志向の新しい日中関係の礎にするべきだろう」と述べた。

 

読売は、国際社会における日本の役割について、「『積極的平和主義』を掲げ、世界の平和と繁栄に貢献することが欠かせない」と指摘。とくに、「談話が表明したように、『21世紀こそ、女性の人権が傷つけられることのない世紀とするため、世界をリードする』ことが、今、日本に求められている」と強調した。

 

産経は、談話が「日本を国際秩序の守り手と位置付けたのは当然のことだ」としたうえで、「安全保障面での協力を充実することも欠かせない。新たな安全保障法制の実現も、その努力の一環といえる」と主張。さらに、「この談話を機会に謝罪外交を断ち切ること」が重要だとし、「国民を委縮させる謝罪外交に終止符を打つことに、首相は重い責任を負った」と指摘した。

 

毎日は、「すでに定着した歴史の解釈に異を唱え、ストーリーを組み替えようとする歴史修正主義からきっぱりと決別する」必要があると説いた上で、「節目を過ぎても、日本は引き続き和解への努力を続けなければならない。外交上のたしなみを保ち、道義的な責任から目を背けないことが、いずれはアジアの平和に寄与する」と強調した。

 

一方、朝日は、日本と近隣国との関係について「信頼を損ねる原因を日本から作ってきた」としたうえで、「首相は未来志向を強調してきたが、現在と未来をよりよく生きるためには過去のけじめは欠かせない」と主張。靖国神社や戦没者追悼の問題などを課題としてあげ、「解決が迫られているのに、いまだ残された問題はまだまだある」と批判した。

 

 ※このページは、公益財団法人フォーリン・プレスセンターが独自に作成しており、政府やその他の団体の見解を示すものではありません。

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