18歳選挙権
投稿日 : 2015年07月17日
Vol.7 2015年7月17日
朝日:政治が変わらなければ
産経:若者が国を考える契機に
日経:18歳投票を日本の政治変える突破口に
毎日:若者こそ政治に参加を
読売:若者の政治参加を促進したい
選挙権年齢を、これまでの「20歳以上」から「18歳以上」に引き下げる改正公職選挙法が、6月17日に成立した。来夏の参院選から、約240万人の若者が新たに有権者となる。選挙権年齢の改定は、1945年に「25歳以上」から引き下げられて以来、70年ぶりのことだ。もっとも、世界では約9割の国が18歳選挙権を認めており、圧倒的に主流となっている。
今回の制度改正は、昨年の憲法改正国民投票法の改正により、憲法改正の賛否を問う国民投票の投票権年齢が、平成30年から「18歳以上」へ引き下げられる措置に合わせたものだ。こうした動きを受けて、民法上の成人年齢(20歳以上)や少年法の対象年齢(20歳未満)を改めるべきかも検討されている。
18歳選挙権について、毎日新聞は6月17日付、朝日新聞、産経新聞、読売新聞は18日付、日本経済新聞は19日付でそれぞれ論評している。「全有権者の2%とはいえ、高校生らが選挙に参加することは、社会に重要な変化を及ぼす可能性がある」(読売)などとおおむね評価する論調が並んだが、「かつての普通選挙、女性参政権のように、権利拡大を求める声を踏まえて政治が動いた成果とは言い難い」(毎日)、「投票に行かない有権者を増やすだけに終わっては意味がない」(朝日)など、選挙権年齢の引き下げはあくまできっかけであり、実際の投票につながるかが重要である点も指摘された。各紙とも、高校生を対象とする「主権者教育」の充実など取り組むべき課題が多いとの主張は一致した。
■ 「シルバー民主主義」の現状
少子高齢化に伴って高齢の有権者の割合が増える一方、昨年の衆院選における20代の投票率の低さ(32.58%)が示すように、若者の「選挙離れ」が深刻になっている。そのため、各政党の政策では高齢者が優遇される傾向があり、若年層向けの雇用や子育て支援は二の次となりがちだ。
今回の制度改正により、高齢者の声が反映されやすい「シルバー民主主義」の弊害が是正され、将来を担う世代を重視した政策が実現されていくかどうかが注目される。それには、より多くの若者が実際に投票し、積極的に政治参加することがまずは重要だと、各紙は説いている。
日経は、若年層の投票率の上昇は、高齢者の意識を変えるきっかけになるだろうと説いている。「シルバー民主主義の弊害を緩和するには、高齢者に我が身だけではなく、将来世代のことを考えてもらわなければならない」と指摘し、「若年層の投票率が意外に高いとなれば、『若者も国のことを真剣に考えているんだな』と思う高齢者が増えるはずだ」と述べている。
読売も、「巨額な財政赤字や、少子高齢化に伴う社会保障費の増大は、将来世代の重い負担に直結する」としたうえで、「若年層の人たちにこそ、投票所に積極的に足を運び、政府や自治体の政策に影響を与えることの大切さを自覚してもらいたい」と新たに有権者となる若者に政治参加を促した。
産経は、目まぐるしく変化する国際社会において日本の国力を保つためには、「国民がこれまで以上に創意工夫をこらし、努力を払っていかなければならない」と主張。「18、19歳の若者を大人の仲間に迎え入れ、国づくりや地方創生にその感性やエネルギーを注ぎ込むことができる。若者の方も、自身の生活にとどまらず、国の防衛から地域の福祉にいたるまで幅広く関心を持ち、選挙を通じて政治にかかわってほしい」と、若い有権者の力に期待を寄せた。
■ 若者の政治参加を促すには
では、若者の投票率を上げ、日本の政治に活力を与えるにはどうすればよいのか。各紙は第一に、若者向けの主権者教育の充実を挙げている。
朝日は、「18歳選挙権に向け、各地の教育現場では、模擬投票など『主権者教育』への取り組みが始まっている。学校で友人と政治や民主主義を考え、投票に行こうと声をかけ合う。10代での経験は政治参加の原点として年齢を重ねても生きるに違いない」と指摘している。
ただ、教育現場での主権者教育には、課題が多いのも事実だ。「従来は、文科省と日本教職員組合の対立の影響などから、学校教育で政治や時事問題に深入りするのはタブー視されてきた」(読売)からだ。
毎日は、「政治的中立の名の下に具体的な政策の議論を遠ざけるようなことがあってはならない」とした上で、「自分と異なる意見も尊重し、議論を通じて考えを深めることは民主主義のルールを学ぶことでもある……教育現場で政治を論じあうことを許容する社会的な合意づくりが何よりも重要になる」と説いている。
日経は、「高校生の関心をひき付けるためには、現実の政治にある程度は足を踏み入れざるを得ない。主要政党の公約の読み比べや、それを踏まえた生徒同士の討論などはあってよい」としながらも、「特定の政治勢力を利することのないように気を配りつつ進めてほしい」と、政治的中立が重要だとする立場だ。
読売や産経は、特定政党の価値観の押し付けをより警戒している。
読売は、「今後は、政治的中立性を確保しつつ、政党や候補者の公約や政策を正しく理解する能力を身につけさせることが求められる。特定政党の価値観の押しつけを避けるためには、担当教師の研修や手引書の作成などが欠かせない」と述べている。
産経も、「日教組などに所属する一部教員が、特定の政治的主張を学校現場で押し付けるのは、民主主義を損ない、許されないことを改めて指摘しておきたい」と強調している。
■ 政治の側の取り組み
教育ばかりでなく、政治の側の取り組みも必要だ、と指摘されている。
朝日は、「何よりも、政治そのものが若い有権者をひきつける存在になる必要がある」とし、規制が多い公選法の見直しなどを検討することにより、「政治の側からも、若者に限らず有権者全般との間にある垣根を低くするためのアプローチ」を取ることが必要だと述べている。
毎日は、「政党も問われている」と述べ、「人口減少や超高齢化が進む中で、従来以上に若い世代に目を向けた政策の立案やアピールが求められる」と、政党に対し若者を支援する政策作りを促進するよう求めている。
また、読売、毎日、日経は、「若い世代の意見を政治に反映しやすくする観点」(読売)から、若い候補者を増やすため、参院議員や知事は30歳以上、衆院議員や、知事を除く首長、地方議員は25歳以上となっている被選挙権年齢を引き下げることも今後の論点になると指摘している。
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