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今月の雑誌から:脱炭素革命

投稿日 : 2022年03月03日

  

「脱炭素革命」という表現もメディアに登場するほど、脱炭素のうねりはもはや後戻りのできない世界的な動きとなっている。昨年11月、英国のグラスゴーで開かれたCOP26(国連気候変動枠組条約第26回締約国会議)では、産業革命前からの気温上昇幅を1.5度に抑えることが公式文書に明記され、その目標達成のため、2050年のカーボン・ニュートラル及びその過渡期の30年に向けて、各国が野心的対策をとることに合意した。では、日本は何をすべきか。月刊誌での活発な議論を追うことにしたい。

 

 

 

■「脱石炭に向けた日本の戦略と課題ーCOP26の潮流を受けて」堅達京子 NHKエンタープライズ エグゼクティブ・プロデューサー(『外交』1/2月号、Vol. 71)


堅達氏は、合意文書に「1.5度」と「石炭火力の削減」という二つの重要な言葉が明記されたCOP26を、歴史的な会議と高く評価する。一方で日本は、「2050年カーボンニュートラル」へと舵を切ったものの、気温上昇を1.5度に抑えるためには、30年までにCO2を半減できるかが勝負だとの認識が極めて弱いとし、有事並みのスピード感で対処すべしと訴える。

 

他方で堅達氏は、その1.5度目標にしても、各国が約束を全て果たしても2.4度の上昇が見込まれるので、全く実現できないと指摘。そのうえでCOP26が「森林と土地利用に関するグラスゴー宣言」など、生物多様性を守るための改革に大きく前進したと評価し、人類の力だけでなく、森や海など自然の力を生かしてCO2を吸収してもらう必要性を説く。

 

堅達氏は、日本が考えるアンモニアや水素などでゼロエミッション化した火力発電の活用も、「石炭火力の延命」と捉えられると懸念を示し、基本は、再生可能エネルギーへの転換の加速であり、脱石炭のロードマップをはっきりと示すことだと主張する。さらにカーボンプライシングを一刻も早く導入する必要性を強調。製品にライフサイクルアセスメント(LCA)で適切なカーボンプライシングがなされていなければ、産業競争力を持ちえない時代になると警鐘を鳴らす。

 

 

■「『日本型カーボンニュートラル』を広島から」湯﨑英彦 広島県知事、出雲充 株式会社ユーグレナ代表取締役社長(『Voice』3月号)

 

湯﨑氏によると、もともと鉄鋼や化学、自動車など、CO2を排出するモノづくりが盛んな広島県は、世界の脱炭素への流れをリアルな問題として受け止めている。他方で、脱炭素革命は時代を大きく動かす変化であり、取り組みと意識次第ではチャンスに転換できると主張する。日本がイノベーションに失敗し続けてきた要因の一つは過少投資であり、伸びる分野にリスクマネーを供給する仕組みが必要だと訴える。また、EUがグリーンディールを推進し、サーキュラーエコノミー(循環型経済)を打ち出すなど、環境分野でのルール形成を主導しようとしているように、日本も自分の強みを再認識し、国際的なルールや目標づくりに関与すべきと強調する。

 

出雲氏は、ユーグレナ社が、「日本型のカーボンニュートラル」を本気で目指しているとし、内燃機関を替えずに使えるバイオ燃料を開発して、マツダをはじめとする広島の企業や組織との連携を深めているという。また、瀬戸内海を巡るクルーザーや自動車にも、使用済み食用油とユーグレナなどの藻類を原料とした次世代バイオディーゼル燃料「サステオ」を利用する取り組みも進めているという。同氏は、2050年までのカーボンニュートラル実現には、30年までに48パーセントのCO2排出削減が必要で、自動車なら燃費を3割改善し、サステオがシェア3割まで普及すれば目標に近づくとし、広島県が先行事例を生み出すことを提案する。

 

 

■「脱炭素革命は日本企業逆襲の好機」冨山和彦 経営共創基盤グループ会長(『Voice』2月号)

 

冨山氏は、2050年までのカーボンニュートラルを掲げる気候変動対策は、日本にとって巻き返しの大きなチャンスだと力説する。なぜなら、日本はグローバル化とDX(デジタルトランスフォーメーション)で二連敗した。しかし、GX(グリーン・トランスフォーメーション)という新たな戦いにおいて、企業は温室効果ガス削減のために、グローバルなサプライチェーンやバリューチェーンの再構築が、さらにそのためにはデジタルテクノロジーの活用も加速が必要。つまりGXは、グローバル化とDXという日本が世界に立ち遅れた領域を進展させることになるというわけだ。また、GXとはエネルギーの問題であり、デジタル空間ではなく、もともと日本企業が得意としていた熱と質量を伴うリアルの世界での戦いであり、日本企業の「強み」を生かせるという。

 

冨山氏は、規模の大小や業界に関係なく、ビジネスモデルの変容を迫られているとし、経営者は、既存のモデルを打破する覚悟を持つべきで、会社のかたちや意思決定の方法、さらには組織や個人の能力まで見直す必要が出てきたと述べる。また、従来の日本のDXは、グローバル企業に勤めるような一部の高度知識人の生産性しか上げられなかったが、これからは、ローカル企業のDXの時代であり、多くの最先端技術が、飲食業や宿泊業などのリアル産業向けのサービスに応用され始めていると指摘する。GXへとつながるイノベーションの果実を得るためには、このように日本全体の生産性向上が大前提だとし、通信技術の発達により、これからは大都市一極集中ではなく、地域環境への負荷も少ない地方都市の時代になると断言する。

 

 

■「欧州グリーン・ディールと日本の活路」平沼光 東京財団政策研究所主任研究員(『Voice』2月号)

 

欧州ではエネルギー転換を進めるだけでなく、リサイクルやリユースの促進により資源効率性を高め、経済成長と環境保全の両立を実現する循環経済(サーキュラー・エコノミー、CE)の構築にも取り組みだしている。一方で日本は、2019年度の再生可能エネルギー電力導入割合が約18パーセントと、エネルギー転換で後れをとっている。平沼氏は、気候変動問題における日本のプレゼンスが失われるだけでなく、市場喪失など国際競争力低下の危機であると警告する。また、欧州がグリーン・ディールの中で重要視するのが、廃棄物を管理・再生して資源として再利用するという資源循環政策たるCEだが、これが欧州主導で国際標準化されると、日本は国際競争力において、さらなる影響を受ける可能性があると注意を促す。

 

しかし、エネルギー転換とCEで世界の後塵を拝している日本の現状は、日本にとって資源エネルギーの海外依存から脱却するチャンスと考えるべきであると同氏は力説する。なぜなら、エネルギー転換は、海外の化石燃料依存から国内の再エネ利用への転換を、またCEは、海外の天然資源ではなく国内の再生資源を循環させる経済モデルへの移行を促すからだ。環境省による試算では、経済性を考慮した再エネの導入ポテンシャルは、日本の年間電力供給量の最大2倍あるとされており、日本には十分な再エネ資源がある。さらに、日本の再エネ関連技術の特許保有数(2010~19年)は、世界一である。日本は、リサイクルやリユース性能の高いさまざまな製品を世界に先駆けて供給し、実績を積むことでCEの国際標準化の議論においても発言力を持つことができる、と結論づけている。

 

 

※このページは、公益財団法人フォーリン・プレスセンターが独自に作成しており、政府やその他の団体の見解を示すものではありません。

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