2021年ノーベル平和賞受賞者が率いる「ラップラー」の記者に聞く、日本への関心やフィリピンのメディア事情
投稿日 : 2021年10月15日
フォーリン・プレスセンター(FPCJ)は、これまでセンターが企画・運営した記者招へいプログラムで訪日取材をした各国のジャーナリストに、日本への関心や現地のメディア事情を聞くインタビュー・シリーズを2021年にスタートしました。実際に日本を訪れ、取材したことがある外国記者ならではの視点、変化の渦中にある世界のメディア業界からの生の声をお届けします。
フィリピンのオンラインメディア『Rappler』 Sofia Tomacruzマルチメディア記者
フォーリン・プレスセンターは、フィリピンのオンラインメディア『ラップラー』のマルチメディア記者であるソフィア・トマクルス氏にインタビューを行いました。『ラップラー』は、2021年のノーベル平和賞を受賞したマリア・レッサ氏が2011年に仲間と共同で設立したオンラインメディアで、映像やグラフィックを使った報道に特徴があります。今回お話を聞いたソフィア・トマクルス氏は、笹川平和財団主催、フォーリン・プレスセンター協力で実施したASEAN地域中堅記者向け招聘事業(2019年度)で来日し、「人の移動、多文化共生の現在」をテーマに、都内のほか、兵庫、大阪、京都及び茨城で取材しました。今回のインタビューでは、同氏に「日本への関心」や「SNSなどによって大きく変化する現地のメディア事情」について聞きました。
日本への関心
Q. 訪日取材のテーマは外国人労働者の問題でした。取材の前後での日本の印象の変化、現在の日本について思うことや、今後取材したいテーマについて教えてください。
日本における外国人労働者の状況は常に興味深い問題です。というのも、高齢化による人口問題と均質的な日本独特の文化との間には緊張関係があるからです。多くの人々が国外に働きに出る国のジャーナリストにとって、フォーリン・プレスセンターと笹川平和財団による取材ツアーは、日本のような国が外国人労働者を受け入れるために自国をどのように開放しようとしているのかを理解するのに不可欠なものでした。この課題は、経済成長や近隣諸国との友好関係の構築を実現するため、また、地域における政治的影響力を強化するために、日本がさらなる方法を模索しているなかで特に重要です。
2020年2月に訪日し、特に外国出身者のコミュニティと連携し、新しい国で不慣れな生活を送る外国人を支援するために骨を折って働く多くの日本人と出会ったことで、日本が親切で勤勉な人々が多い国であるとの印象は揺るぎないものになりました。私達が訪問した全ての都市で、多くの日本人が外国人とその家族を地域社会に迎え入れるために努力している姿を目にし、日本がゆっくりではありながらも自国を開放しようとしていることを知ることができました。そこには、とりわけ若い世代の中で、今後数年の間に外国人労働者を受け入れる態勢がもっと整うだろうと感じられる日本の一面を見ることができました。
もちろん、他の多くの国々と同様に、日本には外国人差別や外国人労働者の搾取等、論争の的になっている問題があります。しかし、ほとんどの場合、自ら発言できない外国人の声を代弁し、彼らを守ろうとする日本の人権擁護団体の努力によって、改善が図られてきました。それは私にとって希望に感じられました。日・フィリピン関係、外交安全保障政策、歴史、芸術、文化、料理など、日本に関して取材したいトピックは他にもたくさんあります。
現地のメディア事情
Q. SNSの普及や新興メディアの誕生、パンデミックの発生などメディアを取り巻く環境が変化しています。あなたの所属メディアや所在地では、購読・視聴者数の増減やフォーマットの多様化など具体的にどのような影響が見られますか?また、こうした環境の変化に対し、どのような対応を行っていますか?
『ラップラー』は設立当初からオンラインのニュースメディアなので、パンデミック発生時も、フェイスブックやツイッターのようなソーシャルメディアのプラットフォームを通じてニュースを入手することが増えている読者にうまく対応することができました。パンデミック発生後の早い段階では、かなりの数の新しい読者を獲得することができたのですが、ネット上に情報が溢れ、競争が激化するにつれて、読者の関心と注目を維持することが課題になっています。
この課題により、我々は、新たな複数の方法でニュースを届けるという報道フォーマットの多様化を迫られました。ポッドキャスト、ライブインタビュー、解説動画、データ情報などの活用です。また、読者と繋がり、より有意義な関係性を構築するために、編集者や記者とのバーチャルイベントを開催するなど、さらに多くのオンライン上のコミュニティの構築を試みています。また、『ラップラー』は、フェイスブックのようなソーシャルメディアのプラットフォームに対して、サイト上に溢れる、人々に実際に影響を与え得る偽情報の危険に対処するよう積極的に求めています。これは、2022年の国政選挙が近づくなかで特に喫緊の課題となっています。ソーシャルメディアが定着し、今後より多くの人々が日々のニュースを知るためにオンラインを利用し続けるのは間違いないでしょう。