実施日 : 2018年03月28日
案内:東京理科大学プレスツアー
投稿日 : 2018年03月09日
「スペースコロニー研究センター」:宇宙での長期滞在に向けた技術開発の最前線
宇宙産業市場が年々拡大している。2016年の世界の宇宙産業市場規模は約3,300億ドルで、過去5年間で20%以上増加。日本政府の宇宙関連の予算規模も米国の4.5兆円には及ばないものの、2018年度の概算要求額は3,550億円で前年度当初予算と比べて22%以上の増加だ。
衛星を利用するサービスが市場の7割強を占め、特に小型衛星への需要が高まる中、先月、宇宙航空研究開発機構(JAXA)は超小型衛星を搭載した世界最小ロケットの打ち上げに成功、ギネス記録として登録された。
こうした成長産業としての宇宙産業や宇宙関連技術の研究開発への期待が高まる中、東京理科大学は、昨年スペースコロニー研究センターを立ち上げた。1970年前後に米国プリンストン大学のジェラード・オニール教授が建設を提唱した宇宙に人類が永住できる人工の生活圏であるスペースコロニー(宇宙植民島)に由来する。同センターは、同学が元々強みを持つ分野の技術の高度化を図って宇宙でも通用する技術として昇華させ、更に地上でも有用な技術革新につながるという好循環を生み出すことを目指している。
本ツアーでは、日本人初の女性宇宙飛行士である向井千秋氏の案内で、同氏がセンター長を務める東京理科大学スペースコロニー研究センターを訪問し宇宙での長期滞在のために利活用されうる技術開発の最前線を取材する。
1. 向井千秋スペースコロニー研究センター長インタビュー
スペースコロニー研究センターは、次の4つのチームからなる。①宇宙での食糧調達のための水耕栽培技術を研究するスペースアグリ技術チーム、②生活に必要なエネルギーづくりを研究する創・蓄エネルギー技術チーム、③限りある空気の再生を研究する水・空気再生技術チーム、④全体の統括や滞在中の医療体制などについて検討するスペースQOLデザインチーム。研究の核をなすのが、同大が強みを持つ光触媒と環境負荷が低い高効率のエネルギーづくりに関する研究だ。
センター長の向井千秋氏は1994年と1998年にスペースシャトルに搭乗し、医師として生命科学や宇宙医学関係の実験を行った。2015年の副学長に就任後は、大学の宇宙教育プログラムの「顔」として宇宙開発・産業の未来を担う研究者や技術者の育成に取り組んできた。同センターの設立により、まずは地上で実用化できる新技術の開発や既存技術の高度化を進めた上で、企業の宇宙産業への参入を促し、同センターが世界的な研究拠点として発展し、宇宙滞在技術の分野で日本が世界をリードできるようになることを目指している。
向井センター長から、同センターの研究内容とビジョンについて説明を受け、質疑応答を行う。
2. 熱電発電:宇宙で常時発電を可能にする小型デバイス
基礎工学部材料工学科 飯田 努教授
宇宙でのエネルギー獲得法として発電量の点で太陽光発電が有力だが、太陽光が利用できない夜間はエネルギー供給がゼロに陥る弱点がある。飯田教授による熱電発電は、化石燃料由来のエネルギーの内、その7割が未使用のまま捨てられる廃熱をエネルギー源としており、太陽光の有無に関わらず発電が可能だ。熱電発電は、廃熱がマグネシウムとシリコンを原料としたマグネシウム・シリサイド(Mg2Si)と呼ばれる物質などを材料とする半導体デバイスを通る過程で温度差が生まれると熱が電気に変換される。デバイスは手のひらサイズで様々な場所に取り付けられる上、マグネシウムやシリコンの資源埋蔵量が豊富で、人体や環境への負荷が少ない特徴も持つ。既に国内の素材メーカーではマグネシウム・シリサイドの安定的な生産が行われており、主に海外の自動車メーカーとは、燃費向上や二酸化炭素排出削減のため、エンジンに取り付けての実験や開発が進められている。
飯田教授に熱電発電の仕組みと実用化の展望を聞いた後、デバイスを用いて実際に発電し、風車を動かすデモンストレーションの様子を取材する。
3. 光触媒:宇宙での生活に不可欠な閉鎖空間の空気を効率よく浄化する
光触媒国際研究センター 中田一弥(なかた かずや)准教授
国際宇宙ステーションがそうであるように、宇宙で暮らすには、閉鎖空間の空気中のにおいや雑菌をできるだけエネルギーをかけずに浄化することが求められている。そこで活用が期待されているのが、藤嶋昭学長が発見した光触媒だ。光触媒は、光があたると有害物質やにおいを分解したり、水になじむ性質から、水の力を借りて汚れを浮かせてはじく作用を持つ。既にエアコンや新幹線の喫煙ルームのフィルターに配合されたり、丸ビルやルーブル美術館などの建物の外壁のコーティングに使用され、空気清浄や雨を利用した外壁クリーニングで活躍している。
中田准教授は、このように既に地上で活躍している光触媒の高性能化を図り、現在、国際宇宙ステーションでニオイの除去等に使われている活性炭に代わり、より短時間で効率的にニオイやカビを除去する光触媒の開発を進めたいとしている。
中田准教授より光触媒の基本的な働きについて聞いた後、光触媒を含むタイルに水を流すだけでタイルの汚れが落ちるデモンストレーションを撮影する。
4. 食糧自給自足のため、食物を効率的に育てる液体肥料
光触媒国際研究センター 人工光合成ユニットリーダー 寺島千晶(てらしま ちあき)准教授
宇宙で暮らすために必要なのが食糧の自給自足。NASAでは、火星の土壌を模した環境でジャガイモの栽培に取り組んでいるが、寺島准教授は水耕栽培を試みている。使用するのは寺島准教授が開発し、既にカブの生育に成功している液体肥料で、水と空気に電気を流すだけで生成することができる。身近な材料から作られる肥料だが、水耕栽培の敵であるアオコと呼ばれる藻の発生を抑え、食物を衛生的かつ効率的に成育させる機能を持つ。寺島准教授は、1年後には地上で、5年後には宇宙での利用を実現させたいとしている。
宇宙のみならず砂漠などの過酷な生育条件下での活躍も見込まれる液体肥料を寺島准教授が実際に生成した後、現在栽培中のジャガイモやカブを撮影する。
5. 「宇宙ゴミ」を回収するための目(カメラ)と頭脳(計算機)
理工学部電気電子情報工学科 木村真一教授
JAXAが先月打ち上げに成功した世界最小ロケットSS-520から分離した超小型衛星「たすき」には、木村教授が開発した世界最高速クラスの演算能力を実現するわずか10センチ角の計算機と、ほぼ同じ大きさで約5グラムの世界最軽量級の6方向同時撮像カメラが搭載された。木村教授は、宇宙で機能する機器を開発するにあたって、宇宙専用に開発しようとすると開発に多額の費用がかかる上、利用範囲が極めて限定的な製品しか生まれないことから、一般家庭で使用される自動車や携帯電話などの部品を用い、宇宙でも対応可能な機器を開発してきた。
期待を集めているのが、地球規模の課題となっている「宇宙ゴミ」問題へのアプローチだ。宇宙ゴミ撤去をミッションに据えるベンチャー企業のアストロスケール社(本社・シンガポール)は、来年、宇宙ゴミの回収実験のため衛星を打ち上げる予定だ。衛星は、地上からの指示なしに自身でゴミを感知して回収することができ、これに木村教授が開発した計算機やカメラの機能が大きく貢献している。実験が成功すれば宇宙ゴミ撤去の技術は大きく進歩することになり、ロケットや衛星打ち上げを行う企業にとっては、自社が打ち上げる物体が宇宙ゴミの妨害を受けることなく機能する確率が上がることにつながるため、各方面からの注目度は高まっている。
木村教授より、先月や昨年11月に打ち上げられた衛星に搭載された計算機とカメラなどこれまで開発された機器の説明を受けた後、機器が正常に機能するかを宇宙に模した環境でテストするデモンストレーションを撮影する。
向井センター長と木村教授は文部科学省の宇宙開発利用部会国際宇宙ステーション・国際宇宙探査小委員会の委員も務めていることから、ツアーの最後に日本の宇宙開発に関しても質疑応答を行う。
実施要領
1. 日程
3月28日(水)
8:50 | FPCJ~葛飾キャンパス(借上げバスにて移動) |
9:30-10:00 | 向井千秋センター長インタビュー |
10:00-11:00 | 熱電発電(飯田教授) |
11:05-11:50 | 昼食 |
11:50-12:50 | 葛飾キャンパス~野田キャンパス(借上げバスにて移動) |
12:50-13:50 | 光触媒(中田准教授) |
13:50-15:05 | 液体肥料(寺島准教授) |
15:10-16:30 | 宇宙ゴミ回収のためのカメラと計算機(木村教授) |
16:30-17:00 | 質疑応答(向井センター長、木村教授) |
17:00-18:00 | 野田キャンパス~FPCJ(借上げバスにて移動) |
2. 参加資格:外務省発行外国記者登録証保持者
3. 参加費用:1,500円
4. 募集人数:10名(各社ペン1名、カメラ1名、TVは1社2名まで)
※申し込み人数が10名を超えた場合は、国別の参加者数に上限を設定することがあります。
5. 備考:
- 本プレスツアーは東京理科大学が主催しています。
- 本ツアーの内容は、予告なく変更になる可能性があります。
- 東京理科大学とFPCJは、ツアー中に生じるいかなる不都合、トラブル、事故等に対して一切責任を負いません。
- 写真・TV撮影に関しては、担当者の指示に従ってください。