岩手県プレスツアー
実施:2025年9月18日(木)~19日(金)
テーマ:多様な担い手が未来へ紡ぐ - 岩手の伝統継承の現場を訪ねて
【取材内容】
岩手県には、多様な伝統工芸が今も地域に息づいている。
裂き織(さきおり)、刺し子、ホームスパンといった、布にまつわる手仕事は、寒冷な気候の中で衣類を大切に使い続けるための生活の知恵として受け継がれてきた背景を持つ。
特に布を補修し、ものを大切に使い続ける精神に根ざした技術は、現代のサステナビリティやアップサイクルの観点からも日本国内のみならず世界からも注目を集め始めている。
一方、長い歴史を誇る南部鉄器も、岩手の代名詞となる伝統産業のひとつだ。古くから受け継がれる技術を守りながらも、海外志向に合わせた商品開発や海外展開の取り組みなど、現代の市場に向けた展開も進む。そのほか、工芸品から派生して、テクノロジーを活用した郷土芸能の継承に挑戦する事業者も活躍している。
岩手県では、このように多くの分野における伝統がそれぞれの形で進化を遂げている。
これらの発展を支えるのは、被災地で立ち上がった女性たちの挑戦、障がいのある人々のものづくりへの参画、次世代を担う若手の育成など、性別や年齢、障がいの有無を問わず、それぞれの現場で情熱を注いでいる多様な立場の人々の存在だ。
◆本プレスツアーでは、岩手県の伝統工芸に携わる現場を訪ね、文化の継承と地域社会の持続可能性をめぐる具体的な取り組みを見る。刻々と変化する社会の中で、それぞれの担い手が伝統にいかに向き合い、力強く未来へ継承しようとしているのか ——— その姿を取材する。
1. 大槌刺し子
~ 伝統手芸「刺し子」が、震災を経て地域ブランドとして世界へ ~

【画像提供:大槌刺し子】
「大槌刺し子」は、2011年の東日本大震災で甚大な被害を受けた、岩手県大槌町で創設された団体だ。
被災し、様々なものを失った喪失感に苛まれていた女性たちが、ボランティアらの支援によって立ち上げた「大槌復興刺し子プロジェクト」が発端となっている。運営は認定NPO法人テラ・ルネッサンスが担う。
刺し子とは、布に針で刺繍を縫い重ね、使い古した布などを補強して長く使うための伝統的な手工芸である。東北など寒冷地では、貴重な綿製品を大切に使い続ける手法として受け継がれてきた。布を継ぎ足し補強する行為は、「ものを大切にする」精神を体現し、現代のサステナビリティを重視する風潮とも通ずる。

【画像提供:大槌刺し子】
現在、40〜80代の女性たちが刺し子職人として活動しており、地域産業としての事業化・ブランド化が着実に進む。当初はふきんやコースターの制作から始まった活動は、近年ではOEM(※)や企業コラボレーション、百貨店での販売等へと広がっている。
2023年には、アパレルメーカーである株式会社MOONSHOTと協働で、同社の刺し子職人部門として「SASHIKO GALS」というプロジェクトを立ち上げ、スニーカーなどのファッションアイテムのカスタム刺し子を展開。海外セレブも愛用していることが知られ、世界的な注目が高まっている。
◆本ツアーでは、大槌刺し子を運営する認定NPO法人テラ・ルネッサンスの佐々木加奈子(ささき・かなこ)氏と黒澤かおり(くろさわ・かおり)氏から、プロジェクトの立ち上げ背景や刺し子の地域産業としての発展、海外からの反響について聞くとともに、刺し子職人の女性たちによる作業風景を視察、活動への思いや今後の展望等について女性たちの声を聞く。
(※OEM=Original Equipment Maufacturingの略。委託を受けて他者ブランドの製品を製造すること。)
2.株式会社幸呼来Japan(盛岡市)
~ 福祉の現場が生み出す、サステナブルで高品質な伝統工芸 ~

【画像提供:株式会社幸呼来Japan】
裂き織(さきおり)は、江戸時代に東北地方で生まれた伝統的な織物だ。
寒冷な気候の中、貴重だった布を最後まで使い切るために、古布を細く裂いて横糸として再利用し、新たな生地を作り出すという、限られた資源を大切に使うための知恵から生まれた。現代ではそのデザイン性が評価され人気を博している。
この裂き織を軸に、伝統工芸と福祉をつなぐ取り組みを行っているのが「幸呼来Japan(さっこらジャパン)」だ。代表の石頭悦(いしがしら・えつ)氏は、障がいがある子供の通う支援学校で裂き織の授業を見学したことをきっかけに、誰もがやりがいを持って働ける場をつくろうと同社を立ち上げた。現在は就労継続支援B型事業所(※)として運営されており、15人の障がいのある利用者は職人として裂き織の技術の習得に努め、障がいのない人と共に働いている。

【画像提供:株式会社幸呼来Japan】
工房では、利用者たちが職人として織り等の各工程で、それぞれの特性に合った役割を担い、分担しながら作業が進める。苦手な作業にも挑戦しながら経験を積むことで、技術の向上や自信の獲得にもつながっており、工賃(給与)にも反映される仕組みになっている。
幸呼来Japanの裂き織はその高い品質が評価されており、多くの著名ファッションブランドやアーティストから注文が寄せられているほか、海外からのオーダーも増加している。福祉の枠を越えた新しい地域のものづくりとして注目されている。
◆本ツアーでは、株式会社幸呼来Japan代表取締役の石頭悦(いしがしら・えつ)氏から創設の背景、伝統工芸と福祉の融合、就労支援の実践について話を聞くとともに、事業所施設長兼裂き織事業のディレクターの村山遼太(むらやま・りょうた)氏の案内を受けながら、工房での裂き織の製作現場を視察する。また、利用者にも日々働くなかでの感想を聞く。
(※就労継続支援B型事業所=障害者総合支援法をもとにした就労系福祉サービスで、障害や病気などで一般企業などで働くのが難しい人を対象に、仕事の機会や生産活動の場を提供するとともに、働くために必要な知識やスキルを身につけるための訓練や支援を行う施設。)
3.株式会社みちのくあかね会(盛岡市)
~ 繊細な色合いと温もりを、次世代に紡ぐ ~
株式会社みちのくあかね会は、1958年に戦争で夫を亡くした女性の経済的自立支援を目的として盛岡で立ち上げられた「盛岡婦人共同作業所」が元となり、そこで製造されたホームスパン製品を販売するために1962年に設立された。
ホームスパンは、英国のスコットランドやアイルランドの農家で、羊毛をそのまま染め、手つむぎして織られてきた素朴な織物だが、明治期の1881年ごろに英国から岩手県に伝わり、農家の冬季の収入源となっていた。その後軍服等の需要の高まりから国の奨励産業として導入され、岩手に根づいていた。
みちのくあかね会では、羊毛の染色から紡績、織りまで一貫しててがけている。マフラーやブランケットなどを製作しており、職人の手で紡がれる毛糸の柔らかな質感と、様々な色の羊毛を組み合わせた繊細な色合いもさることながら、非常に軽量で保温性も高いのが同社の製品の特長だ。
現在も創業当時と同じく女性たちによって運営されており、フルタイムのみならずパートタイムや出来高制など個人のライフスタイルに合わせた柔軟な就労形態が可能で、家庭の事情や体力的な負担に配慮しながら、安定して働ける環境を実現している。
みちのくあかね会は、その発足から60年目の節目にあたる2022年に、老朽化していた工場から現工場に移転した。その機会に、50代の従業員が多数を占める中で、次世代への継承を見据えて20代の若手社員も採用するなど、技術と組織の持続を図っている。
◆本ツアーでは、株式会社みちのくあかね会の成り立ち、現在の運営体制、岩手の伝統産業となったホームスパンを受け継ぐ後継者育成の取り組みについて、若手社員の諏訪彩佳(すわ・あやか)氏に話を聞くとともに、ホームスパンの製作工程を視察する。
4.株式会社岩鋳(盛岡市)
~ 伝統と革新が共存する、世界へ広がる「IWACHU」のものづくり ~

【画像提供:株式会社岩鋳】
岩手県盛岡市では、古くから良質な鉄や川砂などの原料が多く産出したことや、17世紀から南部藩主が京都から盛岡に釜師を招き、茶の湯釜をつくらせて技術の保護育成に努めたことから発展し、この地域で作られた鋳物は今では「南部鉄器」として全国的に知られている。
1902年創業の株式会社岩鋳は、盛岡市に本社を構える南部鉄器の製造元である。デザインから鋳型製作、鋳造、仕上げ、販売まで、社内で一貫して行う体制を整えている。
同社では現在、伝統的な職人技術による南部鉄器の製造と、機械生産を導入した現代的なキッチンウェアやカラフルな急須などの製造を、2つの工場に分けて行っている。同社は南部鉄器業界では初となる量産化・オートメーション化に取り組んだことでも知られる。

【画像提供:株式会社岩鋳】
伝統的な南部鉄器を製造する南仙北工場では、現在20代~50代の6人の職人が働いており、指導体制が整っているため若手職人が3年で一通りの技能を身につけられる育成体制が強みだという。
岩鋳は、ヨーロッパの見本市への出展を機に海外展開を開始。フランスの紅茶専門店からの依頼をきっかけに南部鉄器に着色する技術を開発し、制作したカラフルなティーポット(急須)が欧州で評価され、北米市場に波及、1990年代から輸出が本格化した。
現在はフランスをはじめとする約30か国に代理店を通して製品を展開しており、欧米では主に急須、アジアでは鍋などのキッチンウェアが人気を集めている。
◆本ツアーでは、伝統的な南部鉄器を製造している株式会社岩鋳の南仙北工場を訪れ、営業部部長の高橋潔充(たかはし・きよみつ)氏から、同社についての概要説明を受けた後、伝統工芸士で三代目清茂(きよしげ)の雅号(※)を持つ八重樫亮(やえがし・あきら)氏による南部鉄器製造の各工程についての案内を受けながら視察し、若手職人らにも話を聞く。
(※雅号=各工房の職人の間で代々受け継がれてきた名前であり、作品に刻まれることで、職人や工房の伝統・技術・信用を証明するもの。)
5.株式会社小彌太(花巻市)
~ 職人が高齢化するなか装束の製作に3Dプリンター技術を活用。伝統芸能の継続を支える ~
①3Dプリンターで製作した鹿頭(左)と、3Dプリンターで出力した鹿頭に着色したもの(右)
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②小彌太で製作されたゴムわらじ 【画像提供:株式会社小彌太】 |
株式会社小彌太は、1781年創業の岩手県花巻市の染物会社だ。近年、郷土芸能の担い手や用具職人の減少という課題を受け、2024年に新たに郷土芸能事業「雷太(らいた)」を立ち上げた。
岩手・宮城を中心に伝承されてきた郷土芸能「鹿踊り(ししおどり)」は、地域の平安と悪霊退散を祈願し、太鼓を打ちながら踊る舞で、岩手県の無形民俗文化財に指定されている。馬の黒い長毛と鹿の角を立てる「鹿頭(ししがしら)」と呼ばれる装束が特徴的だ。これまでは、職人が手作業で装束を製作していたが、高齢化による引退で、調達が困難になってきていた。
そこで、郷土芸能事業「雷太」は、地域の文化継承に新たな手法で貢献しようと、公的補助金も活用し、3Dプリンター等の技術を導入して「鹿頭(ししがしら)」の製作に成功。装束や用具を作る職人不足という、郷土芸能団体が直面していた課題に解決策を提示した。
また、同社は伝統芸能の足元には欠かせないゴムわらじの製造にも着手。地元郷土芸能団体と協力して開発した製品は好評を得ており、増産が進められている。海外からの問い合わせも徐々に増えているという。
現在、「鹿踊り(ししおどり)」以外の伝統芸能への対応も進めており、「郷土芸能の総合メーカー」を目指している。
◆本ツアーでは、株式会社小彌太の10代目の小瀬川雄太(こせがわ・ゆうた)氏から、3Dプリンターによる鹿頭の製作と、ゴムわらじの製作の様子を視察するとともに、その開発経緯や工夫、今後の展望について話を聞く。また、鹿踊りの踊り手による演舞を視察し、踊り手たちに同社製作の鹿頭やゴムわらじを使用した感想を聞く。
6.遠野伝承園 御蚕神(オシラ)堂(遠野市)
~ 現代まで守り継がれてきた地域の民間信仰 ~
「オシラサマ」は、北東北で「家の守り神」として伝わる民間信仰だ。諸説あるが、蚕の神様、馬の神様、あるいは目の神様などといわれている。多くの場合、木でつくられたご神体に、色鮮やかな布が幾重にもかぶせてある。
岩手県立博物館の調査によると、県内最古の「オシラサマ」は1525年のもので、2007年時点で、岩手県内でオシラサマを所有する家は1200軒超だった。
岩手県遠野市の「遠野伝承園」内にある「御蚕神(オシラ)堂」には、「オシラサマ」の像がおよそ1,000体安置されている。遠野市のオシラサマには、ある娘と馬との恋物語がその起源として伝えられている。たくさんの布で包まれた神像には、各家庭の祈りが重ねられており、地域の歴史・精神文化を今に伝える。
◆本ツアーでは、伝承園事業部長の齊藤和也(さいとう・かずや)氏と語り部から、地域で敬われてきたオシラサマに対する信仰やオシラ堂の歴史について話を聞き、その内部を視察する。
【実施要領】
1.日程
2025年9月18日(木)~19日(金)
2.スケジュール
※日程は、予告なしに内容を変更することがあります。
【1日目: 9月18日(木)】
07:16-09:43 |
東京駅→北上駅(はやぶさ101号) |
11:10-12:30 |
大槌刺し子 |
12:50-13:40 |
昼食 |
14:30-15:15 |
遠野伝承園 御蚕神堂(オシラ堂) |
16:40-18:00 |
株式会社岩鋳 |
18:15 |
ホテル着(盛岡市内泊) |
【2日目: 9月19日(金)】
08:45 |
ホテル発 |
09:00-10:30 |
株式会社みちのくあかね会 |
11:00-12:30 |
株式会社幸呼来Japan |
12:40-13:40 |
昼食 |
14:30-16:25 |
株式会社小彌太(鹿踊り演舞視察を含む) |
17:18-19:56 |
新花巻駅→東京駅 (はやぶさ112号) |
3.参加資格
原則として、外務省発行外国記者登録証保持者
4.参加費用
13,000 円
(全行程交通費、宿泊費(朝食付き)を含む)
*お支払い方法、キャンセル料等については、参加者にご連絡します。
*集合場所までの交通費、解散後の交通費は自己負担となります。
5.募集人数
6名(各社ペン又はカメラ1 名、TV は1 社2 名まで)
*参加者は主催者の判断で決定します。
6.以下を必ずご確認・ご了承されたうえで、お申し込みください:
6-1.基本事項
(1)本ツアーは岩手県が主催し、フォーリン・プレスセンター(FPCJ)が運営を担当しています。
(2)本ツアーの内容は、予告なく変更になる可能性があります。
(3)参加者には経費の一部を負担いただいていますが、営利を目的とした事業ではありません。
(4)本ツアー中に発生した事故や怪我・病気、トラブル等について、岩手県(主催者)及びFPCJ(運営者)は一切の責任を負いかねます。
(5)写真・TV 撮影を含めて、各取材地では担当者の指示に従ってください。
(6)本ツアーは、報道を目的とした取材機会の提供を目的としているため、参加者には、本国での報道後、FPCJ を通じ広島市に、記事、映像、音声(ラジオの場合)のコピーの提出をお願いしています。また、報道が英語・日本語以外の場合は、内容を把握するため英語または日本語の概要の提出も併せてお願いしています。参加申込者は、これらに同意いただいたものとみなします。
6-2.個人情報の取り扱いについて
以下について予めご了承ください。
※プレスツアーの主催者および運営者は、個人情報の取り扱いに関し、「個人情報保護に関する法律」をはじめとする個人情報保護に関する法令、ガイドラインを遵守し、個人情報を適正に取り扱います。
(1)運営者は、申し込み時に送信された個人情報(所属機関名・氏名等)を、各プレスツアーにおいて必要があると認められる場合に、以下の目的でそれぞれの関係先に提供します。
・旅行会社を通じた旅行手配・保険加入(提供先:旅行会社、宿泊先、交通機関、保険会社)
・取材の円滑な運営(提供先:通訳者、取材先)
(2)運営者は、円滑な事業運営を目的に、主催者に申し込み者の所属機関名・氏名を共有します。
6-3.プレスツアー中の主催者・運営者による記録用の撮影
以下について予めご了承ください。
(1)記録用に、運営者がツアー中の様子を撮影します。その写真・動画の著作権は主催者に帰属します。
(2)ツアーの様子を記録した写真、記事、動画を、主催者および運営者のホームページやSNS 等に掲載することがあります。
(3)前各項の写真・動画に、参加者の肖像・声が映り込むことがありますが、主催者・運営者がそれらを利用することに同意していただきます。
7.FPCJ 担当者
取材協力課 渡邉、吉田
(Tel: 03-3501-3405、E-mail: ma@fpcjpn.or.jp)
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◆以下の点を必ずご了承いただいたうえで、お申し込みください◆
・プレスツアーは複数のメディアが参加する共同取材であり、インタビューや撮影は合同で行うのが前提です。したがって、必ずしも全ての取材先で個別の撮影・インタビューができるとは限りません。
・プレスツアーの進行、取材時間、撮影制限に関しては、主催者及び運営者の指示に必ず従ってください。指示に従っていただけない場合、その時点から、プレスツアーへの参加をご遠慮いただく場合もあります。
・他社の参加記者の個人や社名等が特定できるような情報(画像・映像・音声含む)を報道等で使用しないよう、ご留意をお願いします。万一、それらの情報を報道等で使用したい場合は、相手に直接確認の上、事前に許諾を得るようにしてください。同行する運営スタッフについても、同様のご配慮をお願いします。