埼玉県 上田清司知事(2013年9月)
投稿日 : 2013年10月18日
官民連携での治安改善など行政の合理化による成果をあげるほか、東京からほど近く自然や歴史を楽しめる「彩の国」埼玉県。その魅力を上田清司知事に伺いました。(聞き手:FPCJ理事長 赤阪 清隆)
2004年の知事就任時には、県内のほとんどの市町村で1万世帯あたり年間50件以上の住宅侵入盗がありましたが、2012年までに70%以上減らしました。当時515だった防犯ボランティア団体が約5800まで増えたことも大きく貢献しており、奇跡に近い数字。昨年、プレスツアー「日本一の防犯ボランティアが治安を守る埼玉県」でも取材を受けました。犯罪件数が多いと、警察官が事件の事務処理に追われてパトロールに手が回らなくなることがあります。それでは犯罪を抑止できず、悪循環。件数が減れば、パトロールを強化でき、抑止力も高まります。もっとも目覚ましい変化は犯罪検挙率。2004年、殺人、強盗などの重要犯罪の検挙率は約41%でしたが、対人口比で全国一警察官が少ないなか、2013年上半期には約77%と全国15位まで向上しています。軽微な犯罪は民間のボランティアの力で防ぎ、警察には重大な事件に力を入れてもらう。他の大都市に埼玉県の例をサクセスストーリーとして提供しています。
―県職員の数も抑え、「最小・最強の県庁」を目指されているそうですね。
福祉費が毎年増えるなか、民間でできるものは委託し、行政の経費を削減して捻出しなければなりません。たとえば、各課の総務の仕事のうち210人分相当の仕事を、全庁一括の総務事務センターをつくり、20人程度の規模で行っています。190人程が別の業務で有効に使えるということです。知事就任時、約9千人だった県職員数は、団塊の世代の退職などもあり、7千人弱まで削減。県民1万人あたり、全国平均の半分以下である11人で、効率的に業務を進めています。単に前年比を見るだけでなく、過去10年の傾向を調査し、全国平均と比較するなど、数値化して自分自身を知ることで行政をよくすることに替えてきました。いたずらに競争させるのはよくないとの声もありますが、一定程度事実を知らないと「本当の改革」はできないと考えています。
~ ベトナムでの大型プロジェクト 県内企業に白羽の矢 ~
―中小企業の海外進出をどう支援されていますか。
人口増加が著しいASEAN諸国でのサポートの要望が強く、企業にノウハウを提供するなどの支援をしています。中国では上海にサポートセンターを設け、企業からの相談にのるほか、成約までの手助けをすることもあります。また、タイ、ベトナム両政府と協定を結びました。埼玉発の企業が現地で情報共有できるよう、100人規模の交流会も開催。今後県人会のような形で組織化し、年数回開催できればと考えています。まだ枠組みづくりの段階ですが、ハノイ―ホーチミン間の高速道路建設の一部を埼玉の会社が受注できる可能性も。ベトナム政府は東日本大震災の被災地を見て回り、落下していない橋の建設会社を調べたとか。結果として埼玉の会社に白羽の矢が立ち、うまく整えば約100キロの区間で1000億円ものプロジェクトになります。県としても環境整備のお手伝いをしています。
(写真) 2013年8月にベトナムで開催された交流会(埼玉県提供)
―世界で活躍できる人材の育成に向け、どのような取組をされていますか。
学生を留学させようと6年間で10億円の予算を確保し、「埼玉県グローバル人材育成基金」を設置しました。近年海外へ留学する人が減っており、財政事情により奨学金制度や支援を中止・縮小する傾向もあります。それならむしろ「10倍規模で」と始めました。一昨年から3年間で約800人を海外へ派遣。帰国後は、交流会の開催や県内の国際的な優良企業でのインターンシップなど、就職支援も行っています。学生が自然に県内企業と出会う機会を提供し、できれば埼玉の企業で活躍してもらいたい。企業にとっても、埼玉にゆかりのある優秀な学生を雇用し、埼玉愛・企業愛を強くしてもらえるチャンスになると思っています。
―災害対策についてはいかがですか。
先日竜巻が県東部を襲い、14棟が全壊。死者が出なかったのは不幸中の幸いでした。災害に強い県を強みとしてきましたが、正直なところ竜巻は想定していませんでした。10年ほど先には発生条件が整いやすくなると聞いたことはありましたが、もう起きてしまった。被災者生活再建支援法に基づいての対応に加え、被害に遭われた県民の方々が県営住宅に優先的に入居できるようにし、たとえば賃料の免除といった形で応援していきたいと思います。今後竜巻などが起こりうる可能性が高くなるのであれば、発生時に被害を最小限にとどめるための対策も検討しなければならないと思っています。
―東日本大震災後の支援も行われていますね。
偶然が重なり、様々なご縁で福島県双葉町の住民を加須市の旧騎西高校で丸ごと引き受けました。地理的に東北への入口であり、親戚を持つ県民が多いこともあり、現在でも3,000人以上の被災者を受け入れています。県民のやさしさ、応援したいという気概の表れでしょう。
~ 東京から小一時間 「隙間」時間の活用に ~
(写真) 長瀞のライン下り(埼玉県提供)
何といっても東京から小一時間、大宮や浦和は30分という近さが魅力です。小江戸と呼ばれる川越では手軽に江戸時代の町並みに親しめますし、長瀞では清流と穏やかな風景に包まれ川下りも体験できます。斜面一面に花のじゅうたんのような芝桜が見られる羊山公園(秩父市)や赤い曼珠沙華が敷き詰められる巾着田(日高市)もご覧になれます。東京訪問の「隙間」に訪れてもらうには、埼玉には大きな利用価値があります(埼玉県公式観光サイト「ちょこたび埼玉」)。また、埼玉は小麦の産地でもあり、そばやうどんが人気。野菜の産出額は全国6位を誇り、「彩の国黒豚」など肉類のブランドも豊富です。埼玉は見どころも食べどころも満載ですよ。
本当によかった。埼玉スタジアム2002など埼玉県の会場でも、人気の高いサッカー、ゴルフ、射撃の開催が予定されています。県内も盛り上がり、よい効果が期待できます。また、2020年という目標ができたことで、諸課題を解決させ、被災県の復活を果たすためのスケジュールをつくり、スピードアップさせることができるのではないかと思います。
(写真) 埼玉スタジアム2002(埼玉県提供)
(写真)埼玉県のマスコット「コバトン」を手に魅力を紹介する上田知事(左)と赤阪