プレス・ブリーフィング(報告)

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実施日 : 2016年10月17日

報告:「働き方改革」実現に向けて(八代尚宏・昭和女子大学グローバルビジネス学部特命教授)

投稿日 : 2016年11月01日

yashiroweb10月17日、FPCJでは昭和女子大学グローバルビジネス学部長の八代尚宏特命教授をお招きし「『働き方改革』実現に向けて」をテーマにお話頂きました。同ブリーフィングには、ベルギー、フランス、ドイツ、韓国、台湾、米国などの外国メディアの記者15名を含む31名が参加しました。

 

まず八代教授は、政府の掲げる「働き方改革」について、1.正社員、非正社員の賃金格差の是正 2.労働生産性向上による賃金上昇 3.長時間労働の是正が大きな目標となっていると述べました。また、その達成のためには、1.同一労働同一賃金と年功賃金体系の矛盾 2.労働時間規制強化と労使自治原則の矛盾 3.(「働き方改革」のリストに入っていないが、厚生労働省で検討している)解雇の金銭補償ルールと長期雇用保障の矛盾をどうするかが課題だと指摘しました。また、正社員は長期雇用保障と年功賃金を保障される代わりに、職務が限定されず、人事部が広大な裁量権を持っていることが、日本の雇用制度の大きな特徴であると述べました。

 

一つ目の課題である同一労働同一賃金については、年功序列制度に基づく賃金体系が、正社員と非正社員との賃金格差の主たる要因になっており、この改善に有意義なことを指摘しました。それだけでなく、正社員の間でも男女間、年齢間の生産性に基づかない非合理的な賃金格差を縮める一つのきっかけになるとの見方を示しました。また、職務や地域を限定した「限定正社員」を制度化することは、単身赴任者が多い日本の共働きの家族にとっては重要であると述べました。

 

二つ目の課題である、労働時間規制強化については、日本で長時間労働が蔓延している理由は、文化によるものではなく働き方によるものだとし、1.特に製造業においては、不況期に残業を削減することが雇用の維持に重要な役割を果たしてきた 2.OJTを重視する上では数人が複数の業務を集団的に処理する働き方が主流になる 3.特に賃金が高い中高年の労働者にとって、残業手当が貴重な収入源になっている、という3つの要因を挙げました。また、統計的には、日本の労働時間は減少しているが、それは短時間労働者の比率上昇によるもので、一般の社員に関しては労働時間に大きな変化はないとしました。この主因として、労働組合が合意し一定の割増賃金さえ払えば労働時間の上限規制の抜け穴になる現行制度の問題点も指摘しました。そのためには、例えば労働組合の合意があっても、一日当たりで一定以上の労働時間を超えることを認めないとする、ヨーロッパ型のインターバル規制などの適用が対策として考えられると述べました。

 

三つ目の課題である解雇規制については、厳しいと言われている日本の規制は、実はOECDの統計でみると非常に緩く、労働基準法では30日分の解雇手当しか定められておらず、使用者の解雇の権利を認めた上で、その権利を濫用しないよう、判例法が幅広く利用されていると説明しました。その一方で、権利濫用の基準は高度成長期に大企業が取った標準的行動を基本としており、現在の低成長期には妥当でないことを指摘しました。また、解雇の金銭補償ルールがないため、大企業と中小企業の労働者の間では、資力の有無で得られる補償金には大きな格差があり、日本でも雇用期間によって補償金の額を決めるという欧州型のルール作りが必要である。これは、企業にとっても雇用契約を解消するコストの予測が可能になることで、海外からの直接投資が増え、雇用機会の拡大につながる可能性があると説明しました。

 

八代教授は、定年退職制の問題についても言及し、大企業の92%が60歳を定年としており、その後、65歳までの有期契約の形で雇用を義務付けている現状の問題点を指摘しました。高齢化社会が進み、労働力不足を補うために女性と高齢者の活用が求められている中で、定年退職制という、他の先進国の多くで禁止されている不公平で非効率な制度の見直しを進めるべきと述べました。高齢者が活躍するためには年功賃金カーブをフラット化し、職務を明確にする欧米型の働き方を導入する必要があるが、日本では企業の経営者も労働組合も従来型の働き方を維持したいと考えているので、いかに改革していくのかが課題だと述べました。また、著しく低い女性の管理職比率については、男性の平均勤続年数が雇用の流動化によって短くなると、結果的に男女の平均勤続年数の差が縮小し、女性の管理職比率も高まるのではないかと予想しました。

 

記者からは、電通社員の過労死事件に見られるような、長時間労働を放置する企業への制裁と、同事件が長時間労働規制に与える影響について、定年後の労働者が低賃金を受け入れてしまう理由について、新卒一括採用の妥当性について、女性職員の子育てと仕事の両立の支援について、AIの労働市場へのインパクトや働き方改革への影響など質問が出ました。

 

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