プレス・ブリーフィング(報告)

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実施日 : 2012年03月29日

報告(ブリーフィング):緊迫する国内政局(2012年3月29日)

投稿日 : 2013年08月21日

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星浩・朝日新聞論説委員をお招きし、「緊迫する国内政局」をテーマにお話しいただきました。参加者は、外国プレス13名を含む39名でした。

 

冒頭、星氏は日本の永田町が直面している「二つの脅威」を挙げ、一つは消費増税法案と関連する日本の長期債務残高、長期金利の動向、二つ目は期待が高まりつつある橋下徹・大阪市長が率いる新しい政治グループの動向と述べ、全体の状況概要に続いて個別政策についてお話しされました。

 

まず、税と社会保障の一体改革の行方について、関連法案が(3月30日に)閣議決定した後、同法案をめぐる国会のポイントは三つあると述べました。各ポイントは、
①民主・自民で修正可決か(消費税の引き上げ時期の変更、社会保障費削減案の妥協など)
②反増税の小沢グループがどこまで議員数を維持できるか。数次第では、野田首相は自民・公明両党と協力して法案成立という狙いもある。
③国会での審議、採決を受けた衆議院の解散時期。自民党は法案に協力するかわりに早期衆議院解散、総選挙を要求しているため、野田首相がどこまで受け入れるかが今後のポイント。

 

星氏は、民主・自民の「話し合い」妥協が成立し、一部修正をした後に7月から8月にかけ法案が成立し、9月から12月のいずれかの時期に衆議院を解散し民意を問うという可能性が大きいという予測を示しました。また、流動的な要因としては、①裁判中の小沢氏の判決結果、②大阪の橋下グループの動き、③石原都知事の新党立ち上げが考えられるとしました。

 

当面の政治の見通しに続き、星氏は、現在日本が抱えている政策・外交課題について触れました。

 

一つは、イラン情勢が緊迫化する中で、仮にイスラエルとの軍事衝突が起き、ホルムズ海峡が封鎖された場合、日本も様々な対応をしなければならない。日本にとっては石油資源が失われる事態となり、また機雷除去のための海上自衛隊掃海艇の派遣が求められ、その決断も迫られる。その際にはおそらく民主・自民両党の大連立政権ができるのではないかと述べました。

 

次に、原発の再稼働問題について、今年5月には国内54基全ての原発が停止するため、今夏の電力をいかに確保するかという問題がある。野田政権は、おそらく5月の全原発停止前に、総点検期間を設けて一部の再稼働を想定しているだろうと述べました。

 

そのほか、北朝鮮のミサイル発射問題や、日中国交正常化40周年を迎える対中外交など、野田政権は様々な課題を抱えており、4月末にワシントンで開催予定の日米首脳会談ではイラン、北朝鮮、対中外交問題が主要テーマになるだろうと述べました。

 

次に、星氏は、2年半におよぶ民主党政権を振り返りました。2009年8月の総選挙で政権交代が実現したが、鳩山・管政権の混迷や小沢氏問題、東日本大震災、福島原発事故の対応のまずさなどにより、内政および外交で混乱が続いたことは確かである。3人目の野田首相は消費増税と社会保障の一体改革を最重点課題に掲げているが、増税は有権者(国民)には評判が良くないが、ここにきて、先月の世論調査では支持率が若干上向いている。その理由としては国家公務員の給料引き下げが決まったことが大きいと述べました。

 

また、日本の政治・経済は今、二つのシナリオの分岐点に立たされているとし、その二つのシナリオについて分析しました。
①楽観的シナリオ。消費増税法案が民主・自民の話し合いで成立し、財政再建が少しずつ動き出す、長期国債の金利も抑え込まれる、50年以上はかかるだろうが日本の借金も少しずつ減っていく。それにより社会保障制度も少しずつ整備され、安心な医療、年金体制が整えば、国民の消費支出も増え、経済成長にもつながる。
②悲観的シナリオ。消費増税法案が成立せず、そのまま衆議院解散に追い込まれ、増税反対勢力(橋下グル―プ、みんなの党)などがより勢い力をつけ、ポピュリズム政党が議席を伸ばし、将来の消費税引き上げの見通しが立たなくなる。長期金利も上昇し、日本財政が破たんする。

 

最後に、星氏は国内で世代間の対立が深刻になっていることに注視し、現役時代に高い給料をもらい、退職時期を迎えている団塊世代と、30代以下の低賃金で貯金が少ない若い世代の対立は、少しずつ激しくなっていく可能性があると述べました。例えば、あまり財産を持たない若者は橋下大阪市長を支持し、ある程度の財産を持つ人は橋下氏を警戒する。そうした世代間の対立激化を回避するためにも、消費税を引き上げて、ある程度の資産を持った人から消費税を取り、それを財源にし、若い人に対する教育や子育てといった政策を手厚くしていくのが賢明だと思うが、既得権益の壁に阻まれているのが現状であると思う。そうした意味でも、日本は今大事な分岐点にいるため、野田首相のリーダーシップに期待したいと締めくくりました。

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