ウォッチ・ジャパン・なう

一覧に戻る

宇宙天気予報と地震予知研究:九州大学宙空環境研究センターの国際的取り組み (2011年12月8日)

投稿日 : 2011年12月08日

【ウォッチ・ジャパン・なう vol.14/FPCJ】

2011年12月8日

 

 

宇宙天気予報と地震予知研究:九州大学宙空環境研究センターの国際的取り組み

 

 

小惑星探査機「はやぶさ」の偉業や、国際宇宙ステーションに長期滞在した日本人宇宙飛行士、宇宙ゴミ(スペースデブリ※)と化した人工衛星の地表落下騒動など、日本国内でも人々が宇宙に関心を持つ機会が多くなりました。果てしなく広がる宇宙は、私たちが普段何気なく暮らす地球の環境とは異なり、太陽コロナガスや太陽からのX線や紫外線の放出、宇宙放射線量の増加、強力な磁気嵐など、地上からは想像できない環境変化が起きています。

 

私たちは様々な形で宇宙空間を利用しています。例えば、気象衛星による台風観測、カーナビや携帯電話に使用されているGPS(全地球的位置システム)衛星や、テレビの国際中継には通信衛星が使われています。地上での雨や風などの気象現象に例えて用いられる「宇宙天気(宙空環境の変動)」は、システム障害などを引き起こすなど、その影響は計り知れないため、このような状況を正確に把握・観測し、社会基盤への悪影響を回避するため、「宇宙天気予報」が必要となります。

 

既に国際的な取り組みが始まっている「宇宙天気予報」ですが、日常あまり聞きなれないかもしれません。今回は、宙空領域という、近い将来訪れるかもしれない人類の生活圏に焦点をあて、宙空環境の調査研究を行っている研究機関をご紹介します。

 

 ※スペースデブリ:地球の周回軌道上にある不要になった人工物体。役割を終えた衛星やロケット、衛星を運用する上で放出された部品。破砕した破片。(JAXAホームページより) デブリ(debris)とは、フランス語で「破片」の意。)

 

<宇宙天気予報>

最先端技術を駆使し、世界に先駆けた調査研究を行っているSERC九州大学宙空環境研究センター(所在:福岡市。以下SERC)は、学術・文化交流を含む国際交流が活発な九州大学内に位置しています。img4ee007cb83be6SERCは、2002年7月に開所し、学術的な宙空環境科学の創設と「宇宙天気予報」や「宇宙デブリ警報」などの実用化に向けての研究、グローバルな宙空環境のリアルタイム観測、およびデータベース化と情報発信を目的として設置されました。世界各地の地上の磁力を計る磁力計は世界50か所以上に設置され、各観測点からデータを集計・解析しています。

 

SERCでは、地球規模で「宇宙天気」の観測網(MAGDAS=環太平洋地磁気ネットワーク観測システム)を構築することで、そのメカニズムの解明や人間生活に影響を与える事象への予測の実用化を進めています。

 

img4ee006be828cd img4ee006cf62c4a

また、SERCでは、設立直後より、1日の太陽、太陽風、地球磁気圏の活動状況の結果を「宇宙天気概況」として公開、世界に向けて発信しています。

 

<写真左> フィリピン観測点に設置した磁力計(世界各地でほぼ同型が設置)
<写真右>ハワイ観測点で、磁力計センサーを収めるブロック小屋作成

 

また、本年10月にナイジェリアで開催された国連の国際会議において、「国際宇宙天気科学教育センター」の設立が提案され、SERCがこの国際センターの機能的役割を担うことが「アブジャ ISWI (国際宇宙天気イニシアティブ)決議書」に含まれ、参加者全員の合意により承認されました。この国際センターは、宇宙天気科学(宇宙デブリを含む)の推進および人材育成のための国際事業展開のキーセンターとなり、宇宙天気研究とその教育の振興に全面的に貢献することになります。
宇宙環境観測のキャパシティ・ビルディング(能力強化)における国際的な拠点となるため、img4ee006aa4bebe高等訓練を受けた技術者や研究者の数が減少している昨今、国際貢献で実績のあるSERCは今後更なる役割の発揮が期待されます。

                              <写真右>
                              Redeemer's University(ナイジェリア)で本年8月に
                                 開催されたISWI/MAGDASスクール参加者

 

<地震予知研究>

本年3月の東日本大震災以降、首都圏直下型巨大地震の危険性が各メディアで取りあげられる中、9月26日付毎日新聞に、「太陽黒点の少ない時期、巨大地震頻発」と題する、太陽活動と巨大地震発生の関連を示唆する分析調査に関する記事が掲載されました。

 

SERCのセンター長を務める湯元清文教授(太陽地球系物理学、宇宙地球電磁気学専門)が率いるチームによるデータ分析(分析期間:1963~2000年)であり、記事によれば、太陽の黒点数が少ない時期ほど巨大地震の発生頻度が高いとの分析結果であり、さらに東日本大震災も太陽黒点数が少ない時期に起きたとのことです。この調査は「太陽の活動が地球内部に影響を及ぼす可能性を示す成果として注目される」(毎日新聞)そうです。

 

太陽黒点の増減に周期があることは知られていますが、太陽活動と地震の前兆現象の関係ついては、これまで数々の研究がなされ、色々な意見がありますが、いまだ結論には至っていません。湯元センター長も「太陽と地震の活動をつなげる要素は不明だが、地震の謎を解明する手がかりにしたい」(毎日新聞)と述べています。

 

太陽の影響などはなかなか理解しがたいかもしれませんが、太陽活動と地震には何らかの関係性があるのではと考えることは、今回の大震災を忘れずに、今後防災の準備をする上で活かされるのではないかと思います。

 

img4fe91eb388084

 

※写真提供:九州大学宙空環境研究センター

※公式サイト:http://www.serc.kyushu-u.ac.jp/

※宇宙天気概況:http://www.serc.kyushu-u.ac.jp/gaikyo/index.html

 

<写真左>

SERC教員・研究員・職員の皆様、宇宙地球電磁気学・太陽地球系物理学分野に所属する理学部、大学院理学府学生の皆様

 

 

(Copyright 2011 Foreign Press Center/Japan)

FPCJとは
取材協力
取材に役立つ情報
活動の記録
外国への情報発信