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「健康長寿」が超高齢社会・日本を変える -生活改善の末、平均寿命日本一に至った長野県-(2013年12月9日)

投稿日 : 2013年12月09日

世界一の長寿国・日本。中でも長野県は男女とも平均寿命日本一を誇る。かつては塩分の取りすぎや寒暖差の大きい厳しい気候もあり、脳卒中など脳血管疾患が多かった長野。長きに渡る生活改善の積み重ねが健康寿命を押し上げた。その暮らし方が注目を集め、研究も進んでいる。

 

(写真)信州高山アンチエイジングの里 スパ・ワインセンター(長野県高山村)

スパイン

 

山あいの温泉街の一角にある休憩施設に観光客や地元の人々が集う。2008年から地元食材や自然、温泉を生かした「アンチエイジングの里づくり」に踏み出した長野県高山村。90歳の夫とともによく訪れる、りんご農家の堀越とみ江さん(86)は、「若い人に手伝ってもらいながら農作業も続け、地の物を食べ、温泉で温まる。これが健康の秘訣」とほほ笑む。

 

 

厚生労働省が7月に発表した最新の都道府県別生命表によると、長野県の男性の平均寿命は80.88歳、女性は87.18歳で、ともに全国一位。5年ごとに行われるこの調査で、1990年以来男性はトップの座を譲らず、女性も5位以内を維持している。一人当たりの野菜の平均摂取量が全国一多い(平成22年国民健康・栄養調査)など優れた食習慣や、高齢者就業率全国一位からもうかがえる「生きがい」のある暮らしぶりも影響しているとみられる。

 

(写真)信州名産の野沢菜漬

野沢菜「日本一になろうと思って活動してきたわけではありません。でも、みんなの努力やさまざまな運動が功を奏したんです」と話すのは、長野県栄養士会の園原規子会長。その一つが減塩運動だ。「若い頃は、寄り合いでもみんなが持ち寄って重箱に盛られた漬物をお茶菓子にしていたもの。長い冬でも保存できるようどっさり塩を入れて長期間漬ける古漬けが主流だった」と振り返る。30年ほど前から行政と連携し、健康診断の会場で、料理の塩分を実際に計測してみせるイベントなどを、キャラバン隊を組んで実施。地道な運動を進めてきた。

 

「ソーシャルキャピタル」(社会資本)とも呼ばれる、地域にボランティアを生み出す仕組みも効果をあげてきた。家庭や地域を回り、食習慣の見直しなどを啓発する食生活改善推進員は、現在県内に4750人いる。健康に暮らすための方法を学び、家族や地域に伝える保健補導員の数は約1万1千人。概ね1~2年で交代しながら、知識を受け渡していく。統計を取り始めた1973年以降延べ25万人が経験した。運動参加に当初は消極的だった人が次第に健康への意識を芽生えさせるなど、健康管理意識の底上げにつながっているという。

 

(写真)松本市が進める「市民歩こう運動」の取組(松本市提供)

歩こう運動2松本市はさらに、民間企業との連携による健康づくりにも着手した。健康診断を3年継続して受診すると、金利が上がる積立制度を地元信用金庫の協力で導入。若者をターゲットとしたコンビニエンスストアでの健康相談も近く始めるという。

松本ロゴ同市では、外科医でチェルノブイリ原発事故の医療支援に長期間携わった菅谷昭市長が、2004年の就任当時からいち早く「健康寿命延伸都市」の街づくりを進めてきた。地域ごとにウォーキングマップを作り、クイズやイベント参加を組み合わせた認知症予防プログラムを推進。こうした取り組みにより、厚生労働省が昨年に設けた「健康寿命をのばそう!アワード」で自治体部門優秀賞を受賞した。優良賞を受賞した秋田県横手市など5市に働き掛け、情報交換などを進める協議会を9月に設立するなど、連携にも意欲的だ。

 

長野県健康福祉政策課は、健康長寿の要因を包括的に分析するとともに、市町村が簡単にデータ分析できるプログラムを開発しようと、今年度調査に乗り出した。2014年春をめどに調査結果を公表する予定だ。

 

長寿の一方で、医療費が低いのも特徴だ。75歳以上の一人当たり医療費は、全国4位の年間約78万円で、全国平均を10万円以上も下回る(平成23年度後期高齢者医療事業状況報告)。県内で予防医学が発達してきた成果ともみられている。

 

佐久総合病院「予防は治療に勝る」と訴え続けた佐久総合病院(長野県佐久市)の故若月俊一名誉総長は、1946年から、資金をつぎ込み、馬車で数日かけて各地に赴くなどして出張診療を行ってきた。農村部では受診自体が一般的でなかった時代に、病院祭や劇団部による演劇も活用して健康管理や検診の重要性を啓発。1959年には、1つの村全体で健康手帳を活用したヘルス・スクリーニングの先駆けともいうべき取り組みを始め、地域を挙げて健康を守る意識を高める一翼を担ってきた。

 

白澤教授『長寿県長野の秘密』(しなのき書房)の著者で、順天堂大学大学院医学研究科加齢制御医学講座の白澤卓二教授は、長寿の理由を気候や県民性なども含めたさまざまな角度から探求。長生きしたいなら「長野県へ引っ越して来ること」だと勧めている。白澤教授は、「テロメア」という、細胞分裂時に遺伝子情報が傷つかないよう保護する染色体の末端部分の研究者でもある。テロメアが長い人は、寿命も長い。高齢の高山村民のテロメアは、東京に住む人々よりも長いことが確認され、中野市などにも調査範囲を広げて研究を進めているという。「日本、そして長野の寿命の長さ、伝統的な食習慣は海外の研究者の注目の的」と話す白澤教授。スペインの研究会社に招かれ、欧米と日本のデータの比較にも近く取り掛かる。今後の研究に注目が集まっている。

 

(Copyright 2013 Foreign Press Center/Japan)

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