首長による情報発信

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福岡市 高島宗一郎市長 (2015年4月)

投稿日 : 2015年04月10日

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創業と雇用創出を目指す国の戦略特区に指定された、福岡市の高島宗一郎市長に、ほかの都市とは異なる新しい価値観を創る挑戦について聞きました。(聞き手:FPCJ理事長赤阪 清隆)

 

―福岡市は2014年5月に国家戦略特区「グローバル創業・雇用創出特区」に指定されました。間もなく1年になりますが、これまでにどのような成果がありましたか。

 

国家戦略特区の規制緩和を最大限に活用した「天神ビッグバン」プロジェクトを始動させています。福岡市は空港から都心部へのアクセスが日本一便利な反面、航空法によってビルの高さが制限されています。福岡市の中心、天神地区にあるビルの多くが建築から数十年経過して老朽化が進んでいるのですが、建て替えると建築後の法改正等によって、現状の床面積を確保できないことなどから、機能更新が進んでいません。そのため、東日本大震災の後、福岡への進出を検討する企業が視察に来たけれども、断念したというケースが少なくありません。

 

今回、特区の規制緩和によって、天神エリアで高さ制限の特例が認められ、最大2フロア分高いビルを建てられるようになりました。さらに、容積率の緩和といった福岡市独自の施策を集中的に実施することによって、今後10年間で天神地区のおよそ30棟のビルの建替え、機能更新を誘導し、都市機能の大幅な向上と増床を図っていくというビッグプロジェクトです。

 

     

  01 天神地区           02 天神ストリートパーティ

       天神ビッグバンの舞台となる                                                   国家戦略道路占有事業

              福岡市の中心「天神地区」                                             「FUKUOKA STREET PARTY」

 

 

福岡アジア都市研究所の算出では、天神地区の延べ床面積が1.7倍となり、57,200人の新規雇用を生み出し、建設投資による経済効果が約2,900億円、建て替え完了後の経済波及効果が年間8,500億円と見込んでいます。

 

対象の天神地区では、特区がトリガーとなって、ビルの解体に着手したり、建替の計画を検討する事業者が出てきています。税金投入ではなく、規制緩和によって民間投資が動き出しているわけです。また、創業気運の高まりによって、「今、福岡のスタートアップが熱い」と国内外のメディアからも注目をしていただけるようになりました。1年にしては、非常にいい形で成果が出てきていると実感しています。

 

―以前から福岡市は「アジアのゲートウエイ」として、アジアや世界との緊密な関係や、国際都市をめざす将来像を描いておられましたね。

 

そうですね。ただ、今の時点でアジアのゲートウェイと言えるだけの都市の機能が福岡市に備わっているかというと、十分ではないと言わざるをえません。

 

ただ、2、30年前の発展途上にあったアジアと違って、今ではアジアが世界の成長エンジンとなっていて、そのアジアに最も近いのが福岡市。東京と上海のど真ん中にあって、韓国釜山までは、ジェットホイールで3時間の距離にある。そんな福岡市の存在感は変わってきていると感じています。アジアの交流拠点都市としての役割をしっかりと果たせるような都市基盤の充実を図っていかなければなりません。

 

    

  03 WFメイン           04 ゴールデンオールディーズ   

  生まれ変わるウォーターフロント地区          ゴールデンオールディーズ・ワールドラグビー

                               フェスティバル福岡 (2012年10月)

 

 

そこで、ウォーターフロント地区についても再整備をスタートさせました。福岡市ではこのエリアを中心に、東京都についで日本で2番目の数の国際会議が開催されています。ただ、キャパシティの問題から、2012年には52件の開催をお断りして、190億円もの経済損失が出ています。天神エリアもそうであるように、今の福岡市は都市としての供給力が、豊富な需要に対して足りていない状況なんですね。

 

ウォーターフロント地区では、民間ノウハウを取り入れながら、コンベンション施設やホール機能の整備、ホテルの誘致といった一体的な再整備を進めて、国内外から人や投資を呼び込める、アジアのゲートウェイにふさわしい一大拠点をつくっていきます。

 

1987年、福岡市は他都市に先駆けて、マスタープランの中に「アジアの拠点都市」という目標を掲げました。それから30年が経って、まさに、今こそ「時は来たり」だと思っています。この機を逃さず、アジアの交流拠点都市としての機能・役割をしっかりと果たせる供給力の強化を、特区を活用しながら一気に進めていきたいと考えています。

 

―特区の他に都市の成長に向けては、どのような取り組みをされていますか。

 

短期、中期、長期の戦略を立てて施策を実施しています。福岡市は卸売・小売業やサービス業が発達し、第3次産業の割合が高く、9割に達します。交流人口を増やせば、間違いなく経済はよくなるということで、短期的には、観光・MICEの振興に力を入れています。観光客の利便性の向上のために、民間と連携し、無料公衆無線LANサービス「Fukuoka City Wi-Fi」を市内各所に整備していますが、自治体が運営する無料Wi-Fiとしては、日本で最大級のエリアを誇っています。

 

   

   05 WIFI           06 クリエイターズ 

     Fukuoka City Wi-Fi  拠点数77           インテルの次世代UIコンテストで世界一に

   アクセスポイント数347 (2015年3月現在)       輝いた、仕組みデザインの「KAGURA」   

 

中期的には知識創造層を福岡に囲いこんでいく戦略で、コンテンツ、ゲームやアニメ、ファッションといったクリエイティブ産業を振興しています。そして長期的には、支店経済からの脱却を目指しています。そのため、これまでは本社機能の誘致に力を入れてきました。国も企業の東京から地方への移転を促す施策を進めていますが、私は一定の成果はあがっても、抜本的な解決にはならないと感じています。

 

地域を変えていけるのは、その地域に住む人たちの力です。ですから、今、創業支援に力を入れています。創業した企業の中から大きく成長し、福岡を拠点として活躍する企業を生み出していくことこそが、長期的に見れば支店経済からの脱却につながると考えています。

 

 

―若い人に創業のチャンスを与えるのは、これからの日本経済の活性化にとって非常に重要ですね。

 

私が創業支援に力を入れるきっかけとなったのはシアトル訪問でした。Microsoft、Starbucks、Amazon、Boeingといった世界に名だたるグローバル企業が、このシアトルで誕生しています。その大きな理由は、自然や文化が豊かで、海や山が近く、交通の利便性が高いというシアトルの「住みやすく、働きやすい」環境があることでした。

 

 

       07 スタカフェ          08 九州大学

 たくさんのチャレンジャーが集うスタートアップカフェ      スーパーグローバル大学にも選ばれている九州大学

 

 

その環境は、まさに福岡市と共通しています。福岡市はイギリスの情報誌MONOCLEが選ぶ「世界でもっとも住みやすい都市」の10位にランクインするなどその住みやすさは国内外で高く評価されていますし、ビジネスコストが安く、理工系の大学生などの人材も豊富です。こういった好条件が揃った福岡市なら、シアトルにも負けない、世界に羽ばたく企業が生まれるまちになれるのではないか、と考えたんです。

 

そこで、2012年、福岡をアジアのシリコンバレーにしようと、「スタートアップ都市・ふくおか」宣言を行って、集中的に創業支援に取り組んだところ、6.2%だった開業率が一年後には7.1%になりました。これは政令指定都市でナンバーワンの数字です。これからも若者を含め、全ての世代の人がチャレンジをして、夢を実現できる環境を整えていきたいと思っています。

 

―福岡には伝統的な行事、文化がありますね。伝統や文化の維持・発展にはどのような力を入れていらっしゃいますか。

  

福岡市には、京都よりも長い2千年の歴史があります。寺社・仏閣もたくさんあって、弘法大師が唐から日本に帰ってきて最初に建てた東長寺や、うどんやそばの発祥の地である承天寺など様々です。ただ京都は歴史がストーリーになっていますが、残念ながら福岡は、そうはなっていません。でも、部分、部分で聞くと「それも福岡なんだ!」と気づくことが多いんですね。

 

      09 灯明ウォッチング           10 博多千年門

       博多ライトアップウォーク(東長寺)              蘇った「博多千年門」

 

例えば、「漢委奴国王」と刻字された国宝の金印や日本で最も早く稲作農耕が開始された板付遺跡がそうです。その他にも、黒田官兵衛、長政親子が築城した福岡城や古代の外交施設である鴻臚館、元寇防塁など、たくさんの史跡が残っており、こういった歴史資源は国内だけでなく海外からの観光客誘致のための大切な財産になると思います。

 

寺社が集積する博多部では、博多の長い歴史を語り継ぐお寺や神社をライトアップするイベントを開催したり、江戸時代の門をウエルカムゲートとして復元し、石畳を整備するなど福岡の歴史を感じていいただけるまちづくりを進めています。市民の皆さんに自分達が住むまちに誇りを持ってもらうためにも、こういった歴史資源は大切に保存、活用していきたいと考えています。

 

11 FUKUOKA NEXT

―「FUKUOKA NEXT」というスローガンについて教えてください。

 

日本の主要な機能は太平洋側に集積されていますが、南海トラフ三連動地震などの災害が想定されていますので、日本海側にもしっかりとした拠点が必要です。地震災害の蓋然性が低い福岡市をこれまでの地方都市にとどまらない都市へ、次のステージへと押し上げていく。そのための色々なチャレンジを「FUKUOKA NEXT」と総称しています。

 

博多は歴史のまち、天神は日々変わるビジネス・商業のまち、そしてウォーターフロントは海に開かれたアジアとの交流拠点といったコントラストのあるまちづくりを、また機能更新などによって都市としての供給力をつけていく。また、膨らみゆく社会保障制度の持続可能なモデルを、ICTなどを活用しながら、福岡市が創り出していく。こういったチャレンジをFUKUOKA NEXTとして一体的に進めています。

      

       11 NEXT           12 セントラルパーク構想

      市民の皆さんとともに福岡を次のステージへ!         舞鶴公園と大濠公園が一つになり、

                                   福岡のシンボル「セントラルパーク」へ

 

 ―福岡をこれから10年、20年先どのようなまちにしたいですか。

 

 私は、福岡市を「人と環境と都市活力の調和のとれたアジアのリーダー都市」にしたいと考えています。ナンバーワン都市ではなく、リーダー都市という言い方をあえてしています。ビルの高さが一番高ければいいのか、人口が一番多ければいいのか。そうではなくて、ビジネスができる環境があり、周囲には豊かな自然があって、食べ物を安心して口に入れ、子どもたちを安心して学校に、遊びに行かせることができ、困ったことがあったら地域で助け合える。このようなまちこそが、人類みんなが住みたいと思うまちではないでしょうか。

 

       13 福岡マラソン           14 屋台

      2014年、初めて開催された市民参加型          福岡といえば屋台。アジアの屋台都市

       フルマラソン「福岡マラソン」         10選(CNNトラベル)の一つに選定されている。

 

福岡市は住みやすさには定評がある一方、「都市活力」に関しては課題があります。規制緩和によって、都心の機能を生まれ変わらせる。さらに、今盛り上がってきている創業機運によって、新しい企業をどんどん生み出していく。そして、ベンチャー企業と既存企業のマッチングを行い、製品やサービスに付加価値を付けて、競争力のある企業へと成長させていく。こういった経済施策をとりながら、「人」と「環境」と「都市活力」が非常に高いレベルで調和している、そんな都市を目指して、東京や上海といったメガシティとは異なる価値観を持つ都市像を、世界に向けて示していければと考えています。

 

写真は、福岡市よりご提供をいただきました。

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