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◎ 国民投票法が成立、憲法改正の法的手続き整う

[政治] 2007年5月15日

 

憲法改正手続きを定める国民投票法が5月14日の参院本会議で、自民、公明両党などの賛成多数で可決、成立した。民主、共産、社民、国民新党の4党は反対した。1947年5月に憲法が施行されてから60年を経て、改正に必要な法的手続きが初めて整った。改憲原案そのものの提出・審査は3年間凍結されるが、次の国会で衆参両院に憲法審査会が設置され、これを機に改憲論議が本格化しそうだ。

◆改憲の道筋はできるのか
憲法96条は改憲手続きについて、@国会発議には衆参両院でそれぞれ総議員の3分の2以上の賛成を得る、A発議後は国民投票で過半数が賛成することが必要――と定めている。ただ、国民投票の具体的な手続きを定めた法律はなかった。国民投票法は国民投票の手続きを具体的に定めたもので、与党の自民・公明両党と野党第1党の民主党は昨年5月、それぞれ衆院へ国民投票法案を提出した。

自公民3党は、共同修正による法案成立をめざしたが、民主党は安倍晋三首相が憲法改正を参院選の争点にする考えを示したことに反発、国民投票の対象範囲をめぐっても対立し、協議は決裂した。その結果、今年3月に与党が単独で修正案を提出し、4月に与党などの賛成多数で衆院を通過。5月11日の参院憲法調査特別委では法案可決に際しては、与党と民主党の賛成で最低投票率の是非を検討するなど18項目の付帯決議を行った。14日の参院本会議の採決では、投票総数221票のうち賛成122票、反対99票だった。民主党など野党は審議が不十分との理由で反対した。

同法は、@投票の対象を憲法改正に限定、A投票年齢は原則18歳以上(選挙権年齢が18歳へ引き下げられるまでは20歳以上)、B投票は改憲原案の項目ごとに賛成、反対をマルで囲む、C有効投票総数の過半数の賛成で成立、D公務員や教職員の地位を利用した国民投票運動禁止、E投票14日前からテレビ・ラジオCM禁止、F施行は公布から3年後。憲法審査会は施行まで改憲案の審査・提出をしない――などが柱。

今後の焦点は、憲法改正案の国会提出が可能になる2010年5月の法施行までの3年間に、改憲への道筋が果たしてできるかどうかに移る。3年後までに安倍首相は自民党総裁1期目の任期切れ(09年9月)を迎え、衆院選挙も実施されるが、首相は14日夕の自民党役員会で「憲法改正を私の在任中の政治的スケジュールに乗せたい」と述べ、法成立を機に改憲に向けた手順を加速させる意欲を示した。

これに対し民主党は、安倍首相のめざす憲法改正への対決姿勢を強めており、改憲に必要な「衆参両院で3分の2以上の賛成」が確保される見通しは立っていない。国民投票法をめぐって協調が崩れた民主党との協議は難航が予想される。また、与党の公明党も改正自体には前向きだが、9条改正に否定的なため、改憲への道筋は不透明といえよう。

◆「参院選は改憲論議を進めるいい機会」(安倍首相)
安倍首相は14日夜、国民投票法成立について「憲法96条で定めている改正手続きについて法的な整備が整った。立法府の責任を果たしたことに敬意を表したい。施行は3年先で、その間、落ち着いた環境の中で議論していくことが大切だ。自民党はすでに(新憲法)草案を取りまとめており、この草案について国民とともに議論を進めていきたい。参院選は議論を進めていく上でいい機会だ」と述べ、参院選で憲法改正を争点として掲げる考えを改めて示した。

与党側では、自民党の中川秀直幹事長が「国民自らが憲法を書き上げる作業がスタートする。大いに運動を盛り上げていきたい。夏の参院選では、全党、全候補者が新憲法制定に賛成か反対かの態度を鮮明にすべきだ」と表明。公明党の太田昭宏代表は「未来志向の国づくりをどうするかが課題と思うが、国民投票法が成立した意義は大きい。3年後を一つのめどとして加憲案を示せるように努力したい」と述べた。

野党側は一斉に反発。「民主党も協力して前向きに議論を進めてきたが、安倍首相の指示のもとで『いっさい協力する必要がない。採決だ』と、手続き法の手続きを間違えたのではないか」(鳩山由紀夫民主党幹事長)、「自民、公明の暴挙に抗議する。改憲派がどんな仕掛けを作ろうと国民の多数が『ノー』と言えば憲法は改定できない。闘いはこれからが本番だ」(志位和夫日本共産党委員長)、「数の横暴以外の何ものでもない。国会での発議を阻止するために全力をあげる」(福島みずほ社民党党首)、「もっと慎重に審議をつめてほしいと期待していたが、与党ペースで進んでしまったことを大変残念に思っている」(亀井久興国民新党幹事長)とそれぞれコメントした。

中曽根康弘元首相は読売新聞(5月15日)の取材に対し「国民投票法の成立は、憲法が初めて国民のものになるという重大な意味がある」、「法律的に保障ができたわけで、主権在民が現実化する」、「自民党結党時の綱領を見れば、自主憲法の制定を内容としている。その本流に戻るのに50年かかった」、「国会議員の3分の2の賛成を獲得しなければ改正できない。そのための妥協は議会政治のある段階、おそらく3年以後に行われる。情勢によっては大連立ということもあり得るし、場合によっては政界再編もあり得る。日本の政局の重要な変動要素となり得ると見ていいだろう」と述べている。

◆主要各紙論調――読売、産経、日経が積極的に評価
主要各紙は社説(5月15日)で国民投票法成立を取り上げ、読売、産経、日本経済の3紙が成立の意義を積極的に評価したのに対し、朝日は野党の反対を押し切っての決着は「遺憾」と批判的な論調を掲げた。各紙はそれぞれ次のように論評している。

朝日新聞社説「『さあ改憲』とはいかぬ」は、国民投票法の成立について「政党間の幅広い合意を目指してきたが、結局、自民と公明の与党が野党の反対を押し切った」、「こんな形の決着になったのはきわめて遺憾」と批判。自民党の新憲法草案が明記する「自衛軍の保持」について「つまりは、現在の自衛隊ではなく、普通の軍隊を持つということだ」として「首相は憲法を争点にするというのならば、自衛軍を持つことの意味、自衛隊との違いをもっと明確に語る義務がある」、「参院選ではそこをあいまいにすることは許されない」とクギを刺している。

毎日新聞社説「論憲をいっそう深めよう」は、国民投票法の成立で「戦後政治が大きな節目を迎えた」としつつ「手続き法の制定が即、改憲につながるとも考えていない」として「大切なのは国民が判断するに足る冷静な論議の積み重ねである」と主張。「分からぬことが多いままで、賛成か反対かで世論を二分するのではなく、いかに国民のコンセンサスを作っていくかが重要なのだ。どんな国にしたいのか、それが国民にどう影響を及ぼすのか。地道に議論を重ね、国民の判断を仰いでいく。それが毎日新聞が提唱してきた論憲の意味である」と述べている。

読売新聞社説「新憲法へ具体論に入る時だ」は、国民投票法成立を「憲法制定以来、60年以上も放置されてきた憲法体制の欠陥がようやく是正された」、「国民の主権行使の中で最も重要な憲法改正にかかわる主権を行使することができるようになる」と評価。「不毛な対立から一刻も早く抜け出すべきである」として「変えるとすれば、どこをどう変えるのかを論じるべき時だ」、「各党が具体的な改正案を明示し、憲法改正原案の基本となる要綱策定の作業を促進することが大事だ」と述べている。

産経新聞社説「新憲法制定が政治課題だ」は、国民投票法の成立を「施行から60年間放置され、改正を事実上阻んできた法的不備の状態が解消された。新憲法制定が現実的な政治課題となった歴史的な節目といえる」と評価。「国民投票の実施に備えて詰めておくべき課題は多い」と指摘。「すでに自民党は新憲法草案を持っているが、公明、民主両党はいまだに条文化作業に着手していない」、「3年間の凍結期間を理由に、党内論議を先送りするような姿勢はもう取れないはずだ」と論じている。

日本経済新聞社説は、国民投票法成立を「60年間も放置されてきた主権者国民の憲法を改正する権利がようやく具体化されたことは画期的であり、その意義は極めて大きい」と評価。「各党は国民世論の動向を踏まえ、21世紀にふさわしい憲法のあり方について真剣な議論を進めてほしい」と主張。「憲法改正を国民に発議するには衆参両院それぞれ3分の2の賛成が必要である。3分の2の多数を形成するために今後、自民・民主の大連立など政界再編を模索する動きも出てくるだろう。政界に新たな緊張感をもたらすことも国民投票法の重要な意味合いである」と結んでいる。

(了)