【ジャパン・ブリーフ / FPCJ,No. 0972】 2009年11月20日
◎トヨタ、F1から撤退:転換期を迎えた日本自動車産業
11月4日、トヨタ自動車が、自動車レースの最高峰である「フォーミュラ・ワン(F1)世界選手権」から今季限りで撤退すると正式発表した。主要紙報道によれば、同社は今後、他チームへのエンジン提供、共同運営も行わず、F1から完全に退く。主要各紙は、昨年のホンダに続く今回のトヨタの撤退発表について、「環境重視」へと舵を切る自動車産業の大転換を象徴するものと報道。環境対応車(エコカー)が今後の日本自動車産業の鍵を握ると伝えた。
◆相次ぐ日本メーカーのモータースポーツからの撤退
トヨタの豊田章男社長は、4日夕方の記者会見で、「社内でたいへんな議論をしてきたが、今の経済状況を考えたうえで、撤退せざるをえないと決定した」と説明(11月5日付朝日新聞)、経営状況の悪化がF1撤退の原因であることを明らかにした。主要紙によれば、世界的な自動車市場の冷え込みにより、同社の今期業績は大幅な営業赤字になると見込まれる。
金融危機以降、日本の自動車メーカーの間ではモータースポーツからの撤退が相次いでいる。F1においては、ホンダが昨季限りで既に撤退。タイヤをF1に独占供給しているブリヂストンも来季限りでの供給打ち切りを発表しており、今回のトヨタ撤退と併せて、F1に参加する日本メーカーはゼロとなる。F1以外でも、スズキ、富士重工業が昨季限りで世界ラリー選手権参戦をそれぞれ休止、終了しているほか、ダイハツ工業は全日本ラリー選手権参戦、三菱自動車はダカール・ラリー参戦をそれぞれ停止している。
モータースポーツからの撤退の流れは、日本以外のメーカーの間でも見られる。報道によれば、ドイツのBMWが今季限りでのF1撤退を決めているほか、フランスのルノーも撤退を検討する緊急幹部会を開いている。
◆「スピード」から「環境」へ
主要各紙は、トヨタのF1撤退について、業績不振の中での経営判断と報じる一方、「エコ」、「脱ガソリン」へと舵を切る100年に一度の転換期を迎えた自動車産業の姿を映し出すものとの見方を示した。11月5日付読売新聞は、「ホンダに続く撤退は、『速く走る技術』から『環境技術』に、自動車業界がかじを切っていることを象徴している」と指摘。同日付朝日新聞も、「速さより環境性能が生き残りのカギを握るようになった時代の変化から、F1が取り残されつつあることを象徴している」と分析した。更に、10日付読売新聞社説も、「消費者の環境志向の高まりで、ガソリンをがぶ飲みするF1は、技術力をPRする場としてはふさわしくなくなっていた」と指摘、「トヨタのF1撤退は、自動車産業の戦略転換を象徴する動きともいえる」と述べた。
今後の自動車メーカー間競争の鍵を握るエコカーだが、その開発には巨額の資金が必要とされる。事実、主要紙によれば、今後、トヨタはF1参戦の為に投じていた年間数百億円をエコカーの開発などに振り分け、エコカーへの資本集中を図る。4日の会見で、豊田章男社長も、「環境対応車が今後の最重要課題であることは間違いない」と強調している(11月5日付読売新聞)。日産自動車は、電気自動車(EV)の開発に既に5千億円を投入(同日付朝日新聞)。トヨタより一足早くF1撤退を決めたホンダも、年間500億円強のF1関連費用をエコカー部門に振り向けており、2010~11年にハイブリッド車(HV)3車種を新たに投入し、世界の年間販売台数の1割のハイブリッド化を計るほか、米国でのEV販売も検討している(同日付読売新聞)。
◆モーターショーも環境重視へ
「環境」へと舵を切る自動車産業の姿は、トヨタのF1撤退発表当日まで開催されていた第41回東京モーターショーでも顕著になった。不況の影響などで欧米の主要メーカーの参加は激減したものの、ショーでは、日本の各メーカーが最先端の環境技術をもって競演。人気のHVで新車市場を牽引するトヨタは、家庭用電源で充電可能、1回充電すれば電気モーターだけで20キロ走行可能なプラグイン・ハイブリッド車(PHV)を国内初披露、更に、各国の環境規制次第でEV普及が加速する可能性を踏まえ、超小型EVも世界初出展した。また、EVをエコカー戦略の中心に据える日産は、カルロス・ゴーン社長自らが2人乗りEV「ランドグライダー」を運転してステージに登場し、小型EV「リーフ」の来年秋発売に続く、商用車や高級車ブランド「インフィニティ」のEV展開の方針を発表した(10月22日付毎日新聞)。マツダとダイハツは、ガソリン1リットルで30キロ以上走る超低燃費車を出展(10月25日付読売新聞)。軽自動車の低燃費化に注力してきたスズキは、独自開発の5人乗りPHVを披露した(10月22日付毎日新聞)。
各社は、今後、HVやEVに開発投資を集中させようとしており、エコカーは日本メーカー各社の世界戦略の観点からも次世代の日本の自動車産業の一翼を担うことになりそうだ。 (了)
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