【ジャパン・ブリーフ / FPCJ,No. 0911】 2009年2月25日
◎日本映画がアカデミー賞2部門で受賞
米国ハリウッドで2月22日に行われた第81回アカデミー賞の発表・授賞式で、外国語映画部門で滝田洋二郎監督の「おくりびと」が、短編アニメーション部門で加藤久仁生監督の「つみきのいえ」が受賞した。日本映画がこの2部門で受賞し、また2作品が同時受賞するのは初めてである。世界の数多い都市で開催される映画祭のなかでは、カンヌ、ヴェネツィア、ベルリンなどの映画祭が毎年注目の的になっている。だが世界中の映画ファンをもっとも興奮させるのは、映画産業を興隆させた米国でのアカデミー賞授賞式である。豪華な演出で全世界にテレビ中継されるアカデミー賞授賞式こそ、まさに最大規模の華麗な「映画の祭典」である。
それだけに二つのオスカー像獲得は、日本マスコミの最大級ニュースになった。3大紙と呼ばれる読売、朝日、毎日各紙は2月23日の夕刊1面トップ記事でこの朗報を伝え、24日朝刊では2作品受賞の快挙を多くのエピソードをまじえながら詳しく伝え、さらにこの受賞がもつ現代的意味を考える長文の特集記事を掲載した。
◆「柔らかな救い」を与える受賞2作品
日本映画は衣装デザイン賞、作曲賞、短編ドキュメンタリー賞、長編アニメーション賞などの部門では、アカデミー賞を受賞してきた。しかし外国語映画部門では1956年の同賞創設以来、黒澤明監督「影武者」や山田洋次監督「たそがれ清兵衛」など世界的に知られた名匠の作品を含め、11回も候補になりながら受賞を逸してきた。
今回受賞した「おくりびと」は、国外では無名に近い滝田監督の作品。しかも作品テーマは、死者に化粧を施し、死出の衣装を着せて棺に納める「納棺師」の営みだった。納棺の儀式を通じて、死者への敬意と遺族の惜別の情を淡々と描き出す。波瀾万丈のストーリーや派手な映画技法を禁欲的に排した、いわば地味な映画である。
外国語映画部門の5候補作品では、レバノン侵攻を題材にするイスラエル映画「戦場でワルツを」など、重いテーマと向き合う作品の受賞が有力視されていた。そうしたなかで、肉親との別れという私的な儀式を凝視する作品が栄冠を獲得した。主演の本木雅弘さんは「死はだれにでも平等に訪れる。普遍的なテーマに共感してもらえたのでしょう。『おくりびと』には柔らかな救いがあり、前向きな救いをたくさん感じます。そこが違ったのでしょうか」と語る。
短編アニメーション部門で受賞した「つみきのいえ」の主人公も、海面が上昇するため、積み木のように建て増しし続ける家に住む老人。ここでも孤独さと、愛した家族への追憶がテーマとなっている。
◆活力を取り戻した日本映画
日本映画は1950年代から60年代にかけ黄金期を迎えた。黒澤明、小津安二郎、溝口健二などの巨匠の作品が、世界の映画人に大きな影響を与え、映画評論家からも絶賛を浴びた。やがて映画作りは停滞期に陥り、日本国内の映画市場でも外国映画が人気と収益の両面で日本映画を凌駕する時代が長く続いた。
だがここ数年の間に、逆転現象が起きている。昨年の映画興行収入は邦画と外国映画を合わせて1948億3600万円。そのうち邦画が1158億5900万円で、前年比で22.4%増、全興行収入で占める割合も59.5%と外国映画を大きく上回った。逆に目立つのは、CG技術を駆使した派手な画面転換、大音響の効果音などの、いわゆる「ハリウッド的な豪華大作」の不振である。
日本映画復活を支える主力は、ヒットしたテレビドラマと連動した娯楽作品である。 だがそれがすべてではない。芸術的な良質さによって興行的にも成功するアート系と呼ばれる映画の健闘ぶりも見逃せない。「おくりびと」は昨年9月の公開以来、すでに277万人の観客を動員し、今も180館で上映中だ。現時点で米国を含む36カ国での配給も決まっている。この作品は日本国内と国際的な評価が両立することを立証しつつある。
◆2作品受賞への主要紙論調
読売新聞社説(2月24日)は、「今回のダブル受賞は、日本映画のさらなる活性化への弾みになるのではないか」と述べ、「人間の『生と死』という普遍的なテーマに挑んだ作品が、国際舞台でも高く評価されたということだろう」と書く。その一方で、「『つみきのいえ』のような短編アニメは、水準の高い芸術作品であっても上映機会はほとんどなく、採算が取れない。文化庁のメディア芸術祭などが発表の場となっているが、こうした上映の機会を広げていくことが望まれる」と要望する。
日本経済新聞社説(2月24日)も、「日本映画を本当に世界に誇りうるソフトパワーに成長させようというなら、意欲ある人材を支える手だても要る。若手養成の役割も果たした往年の撮影所システムが崩れて久しい。世界に通用するプロを育てる新しい仕組みを考えるべきだろう」と主張する。
毎日新聞社説(2月24日)は、「今、危機的な経済行き詰まり状況の中で、従来の産業モデルの転換が説かれ、人生設計や生き方を見直す論議も高まっている。受賞2作はその意味でも時宜にかなっていたといえるが、こうした映画の元気さや若々しい文化を新たな国の力としてとらえ発展させることはできないだろうか。政府が一番その辺の感度が鈍いのではないか。今回の賞が発想を転換させるきっかけとなるよう期待したい」と結ぶ。
産経新聞社説(2月25日)は、「81回目となったアカデミー賞で『日本』がこれほど存在感を示した授賞式はなかった」と書き出し、「『おくりびと』が外国語映画賞として初受賞の日本作品であり、初の現代映画である点を強調したい。受賞で注目を集め、『サムライ』や『ニンジャ』といった日本映画の固定イメージを変えることにつながるのではないか。映画は国境を超える。ビジネスだけでなく、日本人と日本文化への理解を深めるために活用したいアカデミー賞だ」と論じる。 (了)
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