【ジャパンブリーフ / FPCJ, No. 0865】
2008年10月31日
◎政府、迫りくる不況に備え追加経済対策と市場安定化策を発表
政府は10月30日、米国発の金融危機に端を発する世界同時不況がもたらすであろう国内の景気後退に対処するため、5兆円規模(総事業規模27兆円)の追加経済対策を決定した。麻生太郎首相が発表した追加経済対策には、株式市場の落ち込みを防ぎ、景気悪化によって経営に不安が出る恐れのある金融機関の安定化策も含まれている。
麻生首相は記者会見で、「アメリカに端を発する『100年に一度の金融の暴風雨』が吹き荒れている。日本は相対的に安定しており、土台はしっかりしているが、世界の動揺が日本の株式市場や実体経済に影響を及ぼしてくるのは確実」と述べ、国内対策として「国民生活の安全保障と金融の安定が最重要」であると言明した。
追加経済対策の目玉は、全世帯に対して現金やクーポンで給付される総額2兆円の定額給付金。個人消費の刺激をねらったもので、4人家族の世帯で6万円程度になる。もう一つの柱は、最高600万円の税額控除になる大型の住宅ローン減税。中小企業に対する支援策として、これら企業に対する公的信用保証枠も大幅に拡充する。また、株式市場と金融機関の安定策として、銀行に対する公的資金の注入枠の拡大、銀行保有株の買い上げなどが含まれている。これらの施策の多くは第2次補正予算案及び他の法案として国会の承認が必要である。
これに先立つ週明けの10月27日(月曜日)、東京株式市場が急落、日経平均が7,141.17円と26年ぶりの低水準にまで落ち込んだことから、政府は株価の下落を食い止めるための緊急対策の検討に追い込まれた。これらの対策は今回の追加経済対策の一部となった。
日経平均は、前日のニューヨーク市場が急上昇したことにも助けられて、10月28日に459円、それに続いて10月29日に約590円、10月30日に818円と続伸し、3日間で1,867.86円の大幅上昇を記録した。
この上昇では、公的年金による買いが入っているらしいとの情報と空売り規制が寄与したといわれるが、急激な円高が一服したことも作用した。また10月30日は、米国、日本も含む主要中央銀行が協調利下げに動くという期待感も市場のムードを高めた(米連邦準備理事会は29日、政策金利を0.5ポイント引き下げ1.0%とした)。
日本の株式市場は、円がドルとユーロに対して急激に高くなった結果、ソニーやトヨタなど輸出企業を直撃したことから大きく揺さぶられた。これらの企業は、内需が弱い中、景気回復の主要なプレイヤーだった。金融危機の中で資金が相対的に安全な円に逃げたからだといわれるが、いわゆる円キャリー取引の解消も大きい要因だった。円高は日本経済についての暗い見通しをさらに悪化させた。
株価の急落は、銀行の保有資産の含み損をもたらし、自己資本を目減りさせるという危険な結果になる。日本の銀行は保有資産における株の比率が多いからだ。このようなことから、危機に見舞われている欧米の銀行に較べて相対的に安定しているとみられていた日本の銀行の安定性についての懸念がにわかに高まった。さらに、地方銀行には取引先企業の倒産が増えて不良債権が増加しているものがあると報じられている。
政府は、資本金が棄損した銀行に必要があれば注入する公的資金を10兆円用意する方針である。また銀行等保有株購入機構を活用して、銀行保有の株式を買い上げる方針である。同機構は、株価がバブル後の底値をつけた2002年に発足したものだ。一方、3つのメガバンクは、三菱UFJフィナンシャルグループの1兆円をはじめ、数千億円規模の増資による自己資本補強に動いている。
◆新聞論調 ほとんどの社説(いずれも10月31日付)は定額給付金に対して批判的で、政府は当面の危機に対応するだけでなく、日本経済をどうするのかの中長期的展望をもっと明確に示すことが国民の安心にとって重要であり、本当の景気対策であると主張した(新聞はアルファベット順)。
【危機克服にこそ決断を】(朝日新聞) 「しかし、景気浮揚効果に疑問符のつく『定額給付金』は、選挙向けの露骨なバラマキといわれても仕方ない」。「長期的なビジョンに基づく大胆な内需拡大策を描き、実行していく体制をつくることだ。それが世界経済に対する日本の役割であり、米欧との競争に勝つための方途でもある。国民に痛みを強いることもあるだろう。強い指導力を持つ政権こそが必要なのだ」。
【追加経済対策 これは究極のばらまきだ】(毎日新聞) 「景気対策で財政が一時的に悪化することはある。ただ、その時には、国民が景気回復を確信できるような施策でなければならない。効果の不透明な対策は赤字膨張を招く。今、日本にとって必要なことは、国民が安心できる社会保障制度の構築に加え、経済の土台である家計や中小企業が元気になることだ。政治色の濃い大衆迎合やばらまきでは経済社会は強くならない」。
【与野党は追加対策の早期実現へ全力を】(日本経済新聞) 「首相が経済・金融情勢の悪化に柔軟に対応して、追加対策をとりまとめたこと自体は評価できる。ただ、今回の対策には必要不可欠なものと財政コストと照らし合わせた効果に疑問があるものが混在している。世界的な金融危機が続く中で最も重要なのは、日本で信用収縮が広がるのを防ぐことだ」。
【追加経済対策 市場安定へ全力挙げよ】(産経新聞) 「麻生政権はせめて、社会保障財源を確保するための消費税を含む税制改革中期プログラム策定を早急に具体化し、実施を立法化で担保することだ。それが国民に安心を与え、中長期的には最大の景気対策になる。あわせて重要なのは市場対策である。米金融危機以降、東証1部の時価総額は100兆円規模で吹き飛んだ。これだけでも逆資産効果は相当だが、株下落で金融機関が傷めば先進国で最も体力がある日本経済ももたなくなる」。
【衆院解散先送り 一段と厳しさを増す政権運営】(読売新聞) 「首相が記者会見で、大型の追加景気対策を打ち出したのは、日本経済の失速に歯止めをかけるために、当然のことだ」。「首相は記者会見で『大胆な行政改革を行った後、経済状況をみたうえで3年後に消費税の引き上げをお願いしたい』と明言した。『日本経済は全治3年』という状況を脱し、こうした責任ある政策を実行していくためには、やはり安定した政治の枠組みづくりが肝要だ。首相は、できるだけ早期に国民の信を問う必要があるだろう」。 |
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