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高齢社会対策大綱。年金開始年齢の「選択肢拡大」を目指す

投稿日 : 2018年03月27日

日本の主要な全国紙5紙(朝日、産経、日経、毎日、読売)から、同じテーマについて論じた社説を選び、その論調を分かりやすく比較しながら紹介します。

 

朝日新聞:高齢化と年金 不安に応える改革こそ

日本経済新聞(日経):受給年齢の拡大だけでは拭えぬ年金不信

毎日新聞:70歳以降からの年金受給 個々人に応じて柔軟性を

読売新聞:高齢社会大綱 年金受給の弾力化を進めたい

 

政府は216日、中長期的な高齢社会対策の指針となる新たな「高齢社会対策大綱」を閣議決定した。大綱の改定は約5年ぶりで、少子高齢化による働き手不足を補うため、働く意欲のある高齢者が働き続けられる環境づくりを進めるとともに、年金の受け取り開始年齢の選択肢を「70歳超」にまで拡大することを検討する指針を初めて明記した。大綱の柱は、現役世代が高齢者を支える従来の社会構造ではなく、年齢区分による画一的な対応を見直し、すべての年代の人が希望に応じて活躍できる「エージレス社会」を目指すとしている。

 

現在、公的年金の受給開始年齢は原則65歳だが、本人が申し出れば6070歳の間で受給開始年齢を選択でき、65歳以降に受給を遅らせれば毎月の受給額が増加する。新たな大綱は、この仕組みを「70歳を超えた後」にまで拡大する指針を打ち出している。政府は制度設計の議論を進め、2020年中の法改正を目指す。就労の長期化を念頭に、受給時期の一層の弾力化を図るのが狙いだ。

 

全国紙4紙(産経除く)は、大綱改定を取り上げ、元気で働く意欲のある高齢者の生活設計の選択肢を広げる「エージレス社会」構築を打ち出した点を評価した。

 

一方で、現在でも70歳までは年金開始を遅らせることはできるものの、そうしている人は2%以下であり、一定以上の収入があると年金が停止・減額する現行の制度が高齢者の就業を阻んでいるとし、見直しを求める主張も見られた。

 

■ 年金開始年齢の「選択肢拡大」を評価

 

読売218日付)は、高齢社会対策大綱について、意欲ある高齢者に長く働いてもらい、社会や経済の支えになることは少子高齢化社会において不可欠であるとして、「大綱の理念は適切である」と強調した。また、年金受給開始年齢の選択肢を70歳超にまで拡大し、年金額を上積みすることについても、可能なうちは就労所得で生活費を稼ぎ、年金受給を遅らせて引退後の収入増やすことは、「少子高齢化に伴う年金水準の低下をカバーする有効な手段と言える」と評価した。ただ、現状で6570歳における受給繰り下げの利用者は「2%に満たない」として、政府に「制度の周知に努めるべきだ」と求めた。

 

毎日219日付)は、大綱の目玉について「年金の制度改革」と「就労支援」であるとした上で、働く高齢者が増加すれば年金制度の持続可能性を高めると評価し、ハローワークに「生涯現役支援窓口」を設置する方針を示したことを歓迎した。日本では経験豊富で知識もあり高齢者を「シルバー」ではなく「プラチナ」世代と呼ぶこともあり、「65歳を過ぎた人の雇用継続や再就職を促すことは産業社会にとって必要だ」と強調した。

 

■ 高齢者の就業を促すには

 

朝日218日付)は、高齢者の選択肢拡大を評価しながらも、70歳超への受給繰り下げについて、現実的には「年金に頼らず生活できるほど稼げる人は限られている」と指摘し、むしろ働く高齢者を増加させるには「一定以上の給与があると厚生年金が減額・停止される在職老齢年金の仕組みこそ、見直しを急ぐべきだ」と主張した。

 

日経126日付)も同様に、「一定以上の収入がある人の年金を停止・減額する制度が高齢者就業を阻んでいる面がある。この制度の見直しも同時に必要だ」とした。

 

■ 年金開始年齢の「引き上げ」への賛否

 

将来像については、日経の主張に他紙との顕著な違いが見られた。

 

朝日は、今回の大綱改定が、「いずれ年金の支給開始年齢を引き上げる議論になるのでは」との懸念を示した。さらに、現行の年金制度が将来も維持できるのか国民の間に根強い不安があるとして、世代を超えて負担を分かち合うために給付を抑える「マクロ経済スライド」を「きちんと機能するようにすることを考えるべきだろう」と論じた。「マクロ経済スライド」は2004年から導入されたが、2015年度に1回実施されただけである。

 

読売も、「高齢者は体力や経済力の個人差が大きく、一律の受給年齢引き上げには無理がある。本人の意思を尊重する仕組みが合理的だ」とした。

 

一方で、日経は、「70歳超」への受給繰り下げについて、「高齢者就業を促す効果が期待できる」と評価したものの、年々深刻化する年金財政が好転するわけではないとして、「支給開始の基準年齢をもう一段、引き上げる改革こそが王道である」とするとともに、「超長期の年金財政を安定に導く切り札になるのが基準年齢の引き上げである。(中略)平均寿命がより長い日本は70歳を基準にしてもよいだろう」と主張した。

 

 

※このページは、公益財団法人フォーリン・プレスセンターが独自に作成しており、政府やその他の団体の見解を示すものではありません。

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