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天皇陛下の「生前退位」問題

投稿日 : 2016年08月12日

Japan's Emperor Akihito, flanked by Empress Michiko, waves to well-wishers as they board a Shinkansen bullet train to depart to their imperial summer villa in Nasu, at Tokyo station in Tokyo

 

朝日:「総意」へ議論を深めよう

産経:国の未来に丁寧な議論を 皇室の弥栄へ政府の責任重い

日経:高齢化社会の象徴天皇制の姿を考えよう

毎日:前向きに受け止めたい

読売:象徴の在り方を議論したい

 

 

 

写真:ロイター/アフロ

 

 

 

天皇陛下は8月8日、国民に向けたビデオメッセージで、「象徴としてのお務め」についてのお気持ちを表明された。高齢化社会の中で、現在82歳の陛下は「次第に進む身体の衰えを考慮する時、全身全霊で象徴の務めを果たしていくことが難しくなるのではないかと案じている」と述べられ、憲法上の制約のため直接的な言及は避けながらも、“生前退位”の意向を示唆された。

 

全国紙5紙は、陛下のお気持ち表明を翌9日付の社説で取り上げ、皇室の在り方、生前退位に伴う法的な問題、政府の対応などについて論評した。最も前向きに受け止めたのは拡大版の社説を掲げた毎日で、「前向きに受け止め、お気持ちを尊重したい」と論じ、日経も比較的に前向きに受け止める立場を示した。

 

産経、読売2紙は陛下のお言葉を真摯に受け止めるべきだとしながらも、今後の対応では「慎重な検討」に力点を置いた。一方、朝日は、天皇制と皇室に関する諸問題を放置してきたのは内閣の不作為と怠慢によるものだと批判するとともに、「陛下の思いを受け止めつつ、判断するのは国民だ」と強調した。日経も、天皇陛下が自らお気持ちを表明するに至るまで、象徴天皇制のあり方について議論を怠った政治の責任に言及している。

 

■ お気持ちを尊重し、前向きに受け止める

 

毎日は、陛下のお気持ちの根幹にあるのは、「形式的な国事行為にとどまらず、ご自身の意思で国民の中に分け入ってきた行為こそが、象徴天皇の核心であるという自己認識である」とした。その上で、象徴天皇制は「陛下と国民の共同作業によって定着した」と強調した。さらに、高齢化社会における安定的な皇位継承は「時代の要請であろう」としている。

 

日経も、「象徴天皇が姿を示して活動し続けてこそ、皇室と国民の関係はいっそう深まる」という陛下の意向を重く受け止めるべきだと指摘。マスコミ各社の世論調査の結果から「『生前退位』は広く容認されている」との認識を示し、欧州における生前退位の例を参考にしながら政府に対して「速やかかつ慎重な検討を求められる」と主張した。

 

■ 容易でない皇室典範改正

 

読売、産経両紙は、「生前退位のご意向」をにじませたご意思を尊重し、象徴天皇の在り方を幅広く議論する契機にすべきとの立場を明確にした。しかし、その具体的な方策については様々な角度から議論を深めるべきだとの慎重な姿勢をのぞかせた。

 

読売は「自発的退位は、『国民の総意に基づく』という象徴天皇の位置づけと矛盾するとの意見がある」ことを指摘し、高齢を理由とする生前退位は「一代限りの話では済まなくなる」可能性があること、政治的思惑から強制退位させられる恐れがあるとして、生前退位を否定してきた従来の政府答弁との整合性の問題が生じる―などを挙げた。

 

産経も、「国民はお気持ちを、真摯に受け止めるべきであろう」としながらも、天皇陛下の終身在位を前提として譲位規定を持たない現行の皇室典範について、「皇位継承の根幹に関わるだけに、退位を認める皇室典範改正には慎重な意見がある」と指摘した。その理由は生前退位の容認は、天皇の意思に反する譲位によって「安定的な皇位継承が損なわれかねない」ためだとしている。このため、同紙は恒久法である皇室典範の改正ではなく、「今上陛下の一代に限り、可能にする考え方もある」として、“特別立法”で対処することの可能性に言及した。

 

■ 今後の対応、判断するのは国民

 

朝日は、陛下のお言葉について「メッセージを貫くのは、日本国および国民統合の象徴として責任を全うすることへの強い責任感だ」とし、「お言葉からふれ出る陛下の悩みや懸念は多くの人に率直に受け入れられたに違いない」とした。

 

だが一方で、皇室をめぐる近年のさまざまな出来事、事態は「象徴天皇制という仕組みを、自然人である陛下とそのご一家が背負っていくことに伴う矛盾や困難を浮かび上がらせた」と問題点を指摘した。

 

また同紙は、今後の対応については、大前提として「天皇の地位は、主権者である国民総意に基づく。陛下の想いを受け止めつつ、判断するのは国民だ」との基本原則を明示しつつ、議論や検討は拙速を避けなければならないと同時に「さりとて時間をかけすぎると、皇室が直面する危機は深まるばかりだ」と注文を付けた。

 

※このページは、公益財団法人フォーリン・プレスセンターが独自に作成しており、政府やその他の団体の見解を示すものではありません。

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