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「インド太平洋」構想の狙いと課題

投稿日 : 2019年02月18日

■中西寛 『外交 Vol.52

 

中西寛・京都大学教授は『外交』の論文「日本外交における『自由で開かれたインド太平洋』」で、地域概念「自由で開かれたインド太平洋」(FOIP)を政府レベルで最初に打ち出したのは日本で、安倍晋三首相が20168月のナイロビでの第6回アフリカ開発会議(TI CAD)で行った基調演説がその端緒であることを紹介。そもそも「インド太平洋意識が浮上」してきた要因として、中国が2008年の北京五輪やリーマンショック以降、「西側主導の国際秩序と衝突しかねない中国主導の国際秩序形成」を目指し始めたためだと強調。特に日本では、2010年の尖閣諸島海域への中国漁船侵入事件で海洋安全保障への関心が高まり、安倍首相が政権を奪還した2012年末に公表した「アジアの民主的安全保障ダイヤモンド」という論文(英文)が、インド太平洋地域の海洋安全保障協力を中心とする構想に弾みをつけたと分析する。

 

論文には「インド太平洋」という言葉はなかったが、中西氏は「オーストラリア、インド、日本、米ハワイ州がインド洋から西太平洋に至る海洋コモンズを保全するダイヤモンドとなる戦略に日本が全力を傾注する」としたことが、FOIPの意識形成に寄与したと論じている。現実的にも、トランプ政権は2017年末に「自由で開かれたインド太平洋は建国以来の米国の利益」と宣言し、2018年5月には米軍の「太平洋軍」を「インド太平洋軍」に改称し、FOIP構想への戦略的関心の強さを印象付けた。

                  

中西氏は、FOIPが日米両国だけの固有の政策ではなく「より持続的な基盤と方向性を待った政策群」と位置付ける。具体的には、①自由市場経済を基調としつつ、経済協力も組み合わせた広域経済地域の形成②法の支配、自由民主主義、人権など普遍的化価値を共有する地域秩序、枠組みの維持強化③航行の自由を基軸とする海洋安全保障の保全―を挙げている。

 

一方で中西氏はFOIPの課題として、「多くの曖昧さを含み、政策体系と呼ぶには未熟な段階にある」と指摘するとともに、最大の不確定要因が「米中関係」にあると分析する。米中関係が冷戦化するようになれば、FOIP政策は「断裂線を設定する政策へ変容」する可能性があるだけに、「日本外交はそうした事態を避けるよう行動すべきであろう」と論じた。

 

 

■滝崎成樹  『外交 Vol.52

 

外務省アジア大洋州局の滝崎成樹・南部アジア部長は『外交』のインタビュー「インド太平洋の『成功物語』を積み重ねよ」で、「自由で開かれたインド太平洋」構想について、「FOIPは包括的な概念で、どこか特定の国をターゲットにしているわけではない」と強調した。特に、膨大なインフラ需要を抱える東南アジアで中国の「『一帯一路』と対抗するなどだれも望んでいない」と述べ、「2018年1026日の日中首脳会談でも両国が第3国での民間経済協力を支援すると表明されている」としている。ただ、同部長は「これは『一帯一路』に協力することを意味しない」と付言した。日中両国の民間経済協力の条件は、あくまでも「国際スタンダードと合致しているかどうか」だとしている。               

              

また、同部長はFOIP構想の今後について、日本がいままで達成したことの根底にある価値や理念もこの地域に広げていくとの考えを示したうえで、日本と東南アジアが長年のインフラ整備を通じて連結性を強化することで地域の繁栄を実現してきたように、「そのサクセス・ストーリーを、南アジア、中東、東アフリカへも広げる」ために、多角的・重層的に取り組んでいく必要があるとしている。

 

 

■北岡伸一 『読売新聞』1217日付

 

国際協力機構(JICA)理事長の北岡伸一氏は『読売新聞』の寄稿「インド太平洋構想 自由と法の支配が本質」で、「自由で開かれたインド太平洋」が日本にとって「死活的に重要な課題である」との認識を示すとともに、「多くの政策の上位にくる目的ないしビジョン」で「戦略ではない」と明言した。従って、政府が最近、FOIPについて「構想」と言い換えたことについても「元来、構想の方が正しい」と強調した。

 

北岡氏は、中国の「一帯一路」構想は周辺国におけるインフラ建設事業の集積であって「中国の影響力拡大と結びついている」と指摘し、「自由で開かれたインド太平洋構想とは相当に異なる」とする。その上で、安倍首相が176月に「一帯一路」構想への協力条件として挙げた4条件について、「一帯一路をいわば無害化するものである」と評価した。具体的な4条件とは、①万人が利用できるインフラ整備②透明で公正な調達③プロジェクトの経済性④相手国の財政の健全性を損なわない債務負担―である。

 

北岡氏は、今後について「日本は中国との正面衝突を避けつつ、周辺国の独立と発展の支援を通じて中国に対抗できる」とするとともに、米中対立の状況が継続する中で「日本は多くの点で米国側に立つのは当然だが、部分的協力の芽は残し、中国外交を無害化しつつ、中国の変化を待つことが肝要である」と論じた。

 

 

写真:AFP/アフロ


※このページは、公益財団法人フォーリン・プレスセンターが独自に作成しており、政府やその他の団体の見解を示すものではありません。

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