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GDP見直し/ノーベル賞受賞・大隅良典博士

投稿日 : 2016年11月15日

GDP見直し

・福田慎一 「なぜGDPの見直しが議論されるのか」 中央公論11月号

 

安倍政権は、アベノミクスの「新3本の矢」の第1目標に「名目GDP(国内総生産)600兆円」の達成を掲げているが、日銀のワーキングペーパーをきっかけにGDP見直し論が高まっている。東京大学教授の福田慎一氏は、中央公論11月号の論文で、①現在のGDP統計が本来の概念に合致するように正確に測られているか②GDP概念が一国の真の豊かさを測る指標として本当に適切か―の観点からGDP見直しが検討されているとしている。

 

日銀が今年7月に公表した論文「税務データを用いた分配側GDPの試算」によると、2014年度の名目GDPは政府の公表値(490兆円)より約30兆円多い519兆円となった。福田氏は、「試算結果の解釈にはさまざまな留意点が必要だろう」としながらも、半世紀以上前に始まった国民経済計算は「急速に変化する時代の流れに十分対応しきれていないのが実情」と指摘する。特に、「サービスなどの形のないものの付加価値をいかに測るかは難しい問題」として、GDP統計の精度を上げるためには「産業構造のダイナミックな変化に対応した基礎統計(一次統計)を構築する」ことの必要性を強調した。

 

福田氏はさらに、「GDPは真の『豊かさ』をとらえる指標としては不完全なもの」とし、精神面での豊かさを数値化しようとする国連開発計画の「人間開発指数(HDI)」、ブータンで採用されている「国民総幸福量(GNH)」などの例を挙げながら、「これらの指標はいずれも(中略)GDP統計にとって代わるだけの幅広い支持を得ているとは言い難い」と指摘。誰もが受け入れる「豊かさ」の代替指標がない現状では、「次善の策としてGDP統計に依拠しながら一国の豊かさの推移を判断していかなければならない」と結論付けている。

 

・稲葉延雄 「経済同友会が新指標を提言する理由」 中央公論11月号

 

経済同友会の「経済統計のあり方に関する研究会」座長でリコー取締役の稲葉延雄氏は、中央公論の論文で、経済同友会が9月末に提言した新しい指標群「国民総所得(GNI)プラス」の狙いについて、現在のGDP統計をより進化させ、GDPでは表現できない豊かさを示す統計の必要性を訴えることだとしている。

 

新指標群「GNIプラス」は、経済分野と非経済分野の複数の指標で構成され、経済分野ではGDPよりもGNIの方が「経済実態の把握にとって適切であるとの指摘もある」と強調する。GNIは、従来のGDPに加え日本の海外投資によって国内に還流される利子配当などの所得を加算したもので、稲葉氏は「GNIベースでは20兆円程度上乗せされる」としている。

 

また非経済分野の「豊かさ」については、①社会の持続性②社会の安全性③健康・衛生・生涯設計④育児・教育―の4分野からの数値化を目指すとしている。その背景に、稲葉氏は「若者を中心に、社会的格差の問題や将来生活への展望、社会の持続可能性なども豊かさを構成する重要な要素と考えるようになっている」と指摘し、安倍政権の「名目GDP600兆円」実現目標についても「推計結果は手法などにより大きく動くものであり、GDPに過度に着目した政策運営は適切でない」と配慮を求めた。

 

稲葉氏は、経済活動が過小評価されると経営者が「投資や生産に消極的になる」だけでなく、政府がそれを経済の落ち込みと勘違いして財政的な景気刺激策を講じることで「財源の無駄遣いにもなる」と懸念する。それだけに、稲葉氏は「経済統計のあり方を不断に見直すことは大変重要」と論じている。

 

 

ノーベル賞受賞・大隅良典博士

・大隅良典、永田和宏「『役に立たない』ことが大事である」 中央公論11月号

 

JAPAN-NOBEL-PRIZE細胞が自らのタンパク質を分解し、再利用する「オートファジー」(自食作用)の仕組みの解明で2016年のノーベル生理学・医学賞を受賞した大隅良典・東京工業大学特任教授は、中央公論11月号の対談で、日本の科学研究について、「私は『役に立つ』という考えが、今の日本をいちばん毒していると思う」と述べ、“役に立つ”サイエンスの蔓延が研究環境を著しく悪化させつつあると強調し、さらに、「役に立たない研究をやる人がいるのが社会的にとても大事だということが認識されないと、日本の科学は悲惨なものになる」と強い懸念を示した。

 

また、科学者が流行りの研究しかやらず、またできなくなっている現状についても「流行りのことをやらないと一流ジャーナルに載らない。(中略)みんなが引用したらその論文は優れているというのが現状のシステム」だとした上で、「サイテーション(学術論文の引用言及)なんていい加減なもの」と論文掲載を重視する科学研究のあり方を再考するように求めた。

 

大隅氏は大学の科学研究の現状についても、「大学がめちゃくちゃに貧しくなっている」と訴えている。その理由は、文科省が大学に交付する「運営交付金」は研究費ではないため、研究者は研究費を「自分で獲得した(企業や公募などの)競争的資金で賄うことが必要」になる。その結果、大学は研究費を稼ぐ研究者を優遇し、地道な研究者を採用しなくなっているという。

 

大隅氏は「こうなると、日本の基礎科学研究者は、科学というものは国が支えるものだと信じてきたことを反省するしかない」と主張し、「一〇年もそんな状態が続いたら、日本ではポテンシャルのある研究者が育たず、サイエンスが空洞化してしまう」と、警鐘を鳴らした。

 

 

写真:つのだよしお/アフロ

 

※このページは、公益財団法人フォーリン・プレスセンターが独自に作成しており、政府やその他の団体の見解を示すものではありません。

 

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