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日本の高齢者問題

投稿日 : 2016年10月17日

A carer feeds a resident on a wheelchair at the private nursing home "Silver Villa Koyama" in Tokyo・大前研一 「老後不安不況を吹き飛ばせ」 Voice 10月号

 

経営コンサルトの大前研一氏はVoiceのインタビューで、3年半を経過した安倍内閣の経済政策アベノミクスが十分な成果を出せていないことに関連し、高齢者のマインドを変えれば、日本経済は飛躍するとの持論を展開した。

 

大前氏は、日本の現状について、所有や消費をしたいという欲望が極めて低い『低欲望社会』と規定し、特に高齢者は「年金、貯蓄、生命保険という三重の投資で老後に備えている」と指摘した。もし、日本の個人金融資産1700兆円の大半を持つ高齢者の意識、マインドが変われば資金は確実に回り、仮に1%の17兆円が使われれば「消費税4%以上のインパクトがある」としている。

 

若い世代についても、イオンモール のような周辺の狭い生活圏で満足し、「家も軽自動車以外の車も買わなければ結婚もしない。こういう欲望の衰えた人種は世界中を見渡しても日本にしか生息していない」と皮肉交じりに分析。その理由が「老後への不安」であることを挙げ、「企業が無理して賃金を上げたところで、労働者はその分を消費ではなく貯蓄に回すだけだ」と指摘している。

 

大前氏は、景気回復には高齢者が自分のために安心して資金を使う政策推進が不可欠だとして、「資産がキャッシュを生むというやり方を教え、それをやりやすいように規制を緩和すれば、高齢者も安心して手持ちのお金を使えるようになるはずだ」と強調。税制改革についても「相続税をやめて資産課税にする」ことを求めている。相続税が最高税率50%と高率なため「一部を子どもに生前贈与しても、子供は親が亡くなったとき納税することを考え使わないで取っておく」からだとしている。

 

・駒村康平 「六十代後半の『出番』だ」 Voice10月号

 

慶應義塾大教授の駒村康平氏はVoiceの論文で、安倍内閣がアベノミクスの“新3本の矢”の1つに打ち出した「出生率(合計特殊出生率)1.8の実現」について、「合計特殊出生『率』が上昇しても、子供の「数」はそれほど増えない」と論じている。

 

その理由として、駒村氏は、日本の15~49歳の女性の数は減る一方であると説明。特に歴代政府は、20代後半の女子(団塊ジュニア世代)が多かった90年代から2000年代前半にかけて「子育て支援策を出し惜しみし、チャンスを逃すという歴史的な大失態を行なった」と厳しく指摘している。

 

さらに、20~30代の出生率を引き上げるためには、「非正規労働者の所得を改善させ、将来の生活の見通しを持つことができるようにすることが最も重要である」としている。近年の非正規労働者の増加が、「収入減少」につながり、それが「未婚率の上昇」をもたらし、「出生率の低下」という悪循環になっているからだと主張している。

 

こうした厳しい超高齢化社会への対応策は何か。駒村氏は、高齢者を“65歳以上”で一括りせず、「65~69歳」と「70歳以上」を区別したうえで、「『六十五歳から六十九歳』を『後期現役』として位置づけ、その『体力』『知力』を活用すべきである」とし、ボランティアや生涯教育などさまざまな“出番”を提供する「生涯現役社会」を構築すべきだと提言している。

 

・五十嵐禎人 「事件はこれからも増え続ける」 中央公論10月号

 

最高裁判所は16年3月、認知症の男性(当時91歳)が徘徊中に列車にはねられ死亡した事故について、JR東海が家族を相手取った損害賠償請求訴訟で、家族は“監督義務者”には当たらないとの判決を下した。千葉大社会精神保健教育研究センタ―教授で医師の五十嵐禎人氏は、中央公論の論文で、「本判決の結論は十分納得できるものである」とした上で、増加する認知症高齢者の犯罪などの実態を紹介している。

 

それによると、日本の認知症高齢者数は2012年時点で462万人、25年には約700万人(推定)になる。65歳以上の高齢者の約5人に1人が認知症となる勘定だ。こうした高齢者は、一般的には“振り込め詐欺”など犯罪被害者となると思われているが、五十嵐氏は「犯罪加害者としての高齢者の増加も問題になっている」と指摘する。

 

具体的には、高齢者の犯罪検挙数は14年に4万7252人で、1995年と比べると約4倍に増えており、五十嵐氏は「粗暴犯である傷害及び暴行も著しく増加しており、重大事犯である殺人及び強盗も増加傾向にある」としている。一方、刑務所受刑者の精神科診断に関する統計は公表されていないが、五十嵐氏は15年の既決者の休養患者実態から推測すると、「高齢受刑者には、認知症に罹患している可能性を検討すべき事例がかなり多く見られることは確実といえよう」としている。

 

五十嵐氏は最高裁判決を評価しながらも、「判断能力を欠く人が起こした損害を誰が引き受けるべきかという点について問題は、引き続き残されたままである」とした上で、「責任無能力者の監督義務者の賠償責任に関する規定は、現行民法制定以来変更がされていない」とし、現状に即した損害賠償に関する立法措置が必要だと論じた。

 

和田行男 米村滋人 「認知症は閉じ込めておけとでもいうのか」中央公論10月号

 

東京大学大学院准教授で医師の米村滋人は、中央公論で介護福祉士の和田行男氏との対談で、最高裁判決は病院、介護施設が責任を負うとしているため「病院や施設が今後、認知症のお年寄りを引き受けない、もしくは、施設内に閉じ込める」という事態になりかねないとの懸念を示し、「病院、施設、家族の微妙なバランスで成り立ってきた介護体制が、一気に崩壊する危険もある」と指摘した。

 

また、米村氏は「最高裁は家族の責任を場合によって認めるという曖昧な判決を出し、結局、責任が誰にあるのかわからなくなってしまった」と批判するとともに、現状では行政給付で賠償金を補てんする仕組みしか方法はない、との見方を示した。

 

30年の介護経験を持つ和田氏も、認知症患者、身体障害者であろうが「誰もが地域社会を舞台に主体的な地域社会生活を送れる」ことが基本であり、閉じ込めや行動制限することは回避すべきだと主張、だからこそ最高裁判決については「残念でなりません」と表明した。米村氏も「ソフトな形で、コミュニティーの中の見守りを実現するほうが建設的」と強調した。

 

写真:ロイター/アフロ

 

※このページは、公益財団法人フォーリン・プレスセンターが独自に作成しており、政府やその他の団体の見解を示すものではありません。

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