今月の雑誌から

一覧に戻る

国内経済の動揺/相撲の魅力と課題

投稿日 : 2016年08月03日

国内経済の動揺

 

・浪川攻 「『三菱の乱』が黒田日銀を襲う」 文藝春秋8月号

 

日銀によるマイナス金利の導入(2月)、消費増税の延期決定(6月)など、日本経済はデフレ脱却のための金融・経済政策を総動員しているが、その足元で国内経済に新たな動揺や問題が派生し始めている。金融ジャーナリストの並川攻氏は文藝春秋8月号の中で、マイナス金利導入によって、日本のトップバンクである三菱東京UFJ銀行が“国債離れ”にかじを切った背景にある問題点にメスを入れている。

 

マイナス金利導入で、国債金利のマイナスが常態化し、「国債は持ち続けると損をする債券」となり始めた。並川氏によると三菱東京UFJ銀行の場合、「今年度だけで約一千億円の減になると見られている」としている。国債が着実に売買されるために、財務省は2004年から国債の大量購入者に対し特別な資格を与える「プライマリー・ディーラー」(PD)制度を導入した。現在PDは、国内外の証券会社19社と三菱東京UFJ,三井住友、みずほの3メガバンクの22社で構成されている。

 

三菱東京UFJが、このPD資格の返上を検討していることが、6月に明らかになった。しかし、並川氏によると同行最高幹部は返上検討を認めた上で、「『国債離れ』など、まったくあり得ない話だ」と回答したという。返上の理由は、国債のディーリング(売買取引)は本来証券会社の事業で、銀行は国債を保有する投資家の立場であり、PD返上は銀行本来の業務に回帰するだけの措置というものだ。

 

並川氏が指摘するのは、「国債は損をする債券」となりながら、なぜ銀行、証券会社は国債の入札に参加し続けているかという問題だ。並川氏は「(銀行、証券会社が)落札した国債をそれよりも高い金額で日銀が買い取ってくれる制度」があるためだと強調する。この制度は「日銀トレード」といわれ、日銀は年間80兆円の国債買い上げを目標にしている。

 

並川氏は「黒田日銀が発足以来、熱を入れて進めてきた国債買い入れのための“奇手”が、国債市場を大きく歪め始めている」と述べる。さらに、「(国債市場に)本来期待されている財政への警鐘機能は失われ、『日銀よ、もっと買ってくれ』というトレーダーたちの声ばかりが反映されるようになっている」と指摘する。日本国債の格下げ、さらに暴落のリスクが高まるのかどうか、日銀のマイナス金利政策をめぐる議論は一段と険しさを増しそうだ。

 

・小林喜光 「消費増税延期は国家の老いだ」 文藝春秋8月号

 

経済同友会代表幹事の小林喜光氏は、文藝春秋8月号で、安倍内閣が推進する成長重視のアベノミクスを評価しながらも、6月に決定した消費増税の延期(2017年4月から19年10月へ)について、財政健全化目標の大幅な遅れへの懸念を表明し、「消費増税せずにプライマリーバランスを黒字化することなど、誰が考えてもできない」と断言する。また、増税延期の判断について、政権だけが悪いのではなく「最大の問題は、国民の認識不足」とし、「本来は、将来世代が苦しむことを理解している人も多いでしょう。それでも目の前の増税は嫌だと言うのは、覚悟が足りないともいえます」と指摘している。

 

小林氏はさらに、安倍内閣が推進する2020年頃までのGDP(国内総生産)の「600兆円達成」目標についても、「私が危惧しているのは、(中略)民間の消費を頼りにしているのではないかということです。カネを使えば経済は成長する。こういう『使え使え』の経済政策には抵抗を覚えずにはいられません」とまで踏み込んでいる。

 

もう1つ小林氏が主張するのは、世界的なイノベーションや構造改革が進行するなかで、GDPに代わる新たな経済指標を提示することだ。小林氏は、今や「モノとサービスを追うだけでは見えない経済空間」「リアルの世界とバーチャルの世界が相互に影響したり、融合したりする『複素空間』」が拡大し、「従来の方法では通用しない時代になりつつある」と述べ、「だからこそ次世代のため、政府は、『国家百年の計』を立てるべきなのです」と主張している。

 

相撲の魅力と課題

 

・八角信芳 「今の力士には気迫が欠けている」 中央公論8月号

 

d67e9aece3c4ccac629fc5f8971f95ed_s日本の国技である大相撲人気が復活している。大関稀勢の里が9月の秋場所で初優勝すれば18年ぶりの日本人横綱誕生となるだけに、期待は高まる。日本相撲協会理事長(元横綱)の八角信芳氏は、中央公論のインタビューで「(相撲の)興行自体は江戸時代から変わっていません。粛々と続いてきた相撲という文化を守らなければならない」と、江戸時代からの伝統を守ることが、国内外の相撲人気を支えることにつながると強調した。

 

 

 

 

 

 

しかし、そのための課題も多く、八角氏は「今の力士は本当におとなしい」と、力士や相撲全体の気迫不足に懸念を示すとともに、「新弟子が集まらない、というのは一番心配」と新弟子確保の難しさに頭を痛めている。その理由の1つの興業事情で、八角氏は「国技館を観客で満杯にして、巡業もたくさんやっても黒字が年間2億(円)」と述べ、サッカーや野球に比べ相撲興業収入は見劣りするとしている。

 

また、力士が所属する相撲部屋は、基本的に「個人のもので、(中略)部屋を作るにあたって、相撲協会は何もしていない」「部屋は自分で借金して自分で建てるもの」という厳しい現実がある。このため八角氏は、「まずは相撲部屋を持ちたいという親方衆を増やすこと」が先決とする。その上で「弟子たちがここで相撲をやりたい、と思う環境を整える」ことだとしている。経営、新弟子育成など課題は山積している。

 

・西岩忍、ハロルド・メイ 「いい人材の集まらないところに未来はない」 中央公論8月号

 

元関脇・若の里の西岩忍氏も、中央公論8月号の対談で、「私が入った平成四年(1992年)春場所は合格したのが百五十何人でしたが、今は新弟子の一番多い春場所でも三〇人か、四〇人」、と将来力士の人材確保の厳しさを指摘している。一方で、西岩氏は相撲の醍醐味について「相撲は平均七秒。速いと一、二秒で決まることもある。長くても一分ぐらいのもの」と“一瞬の戦い”だけに「奥が深い」と痛感したと強調した。また、力士が「激しく戦った後でも、何もなかったかのように相手に頭を下げてお互いが帰っていく」のが他の闘技との違いであるとし、「外国からいらした方はそこに驚かれることが多い」と述べている。

 

※このページは、公益財団法人フォーリン・プレスセンターが独自に作成しており、政府やその他の団体の見解を示すものではありません。

FPCJとは
取材協力
取材に役立つ情報
活動の記録
外国への情報発信