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英国EU離脱の行方

投稿日 : 2016年08月01日

・遠藤乾 「そして、世界が麻痺してゆく」 中央公論8月号

 

People hold banners during a demonstration against Britain's decision to leave the European Union, in central London英国で6月23日に行われた国民投票で、欧州連合(EU)からの離脱派が勝利した。北海道大学教授の遠藤乾氏は、中央公論8月号で、英国のEU離脱決定について「想像していた以上に社会の亀裂は深まっており驚いたというのが率直な感想だ」と、衝撃の大きさを強調するとともに、「英国で盛り上がった国民投票は、海を越えて欧州大陸にも飛び火していくことになるだろう」と指摘した。 (写真:ロイター/アフロ)

 

 

 

遠藤氏は、今回の結果は「右と左のあいだで政治的な両極化が進み、中道が埋没する」事態の表れであり、移民問題をスケープゴートに反EUキャンペーンを展開したポピュリズム政党「イギリス独立党」(UKIP)などの存在によって、「英国内の統治そのものが混乱に陥る危険性が高い」と懸念する。さらに、「連合王国としての一体感もバラけていく」とし、2年前に英国からの独立問題で住民投票を実施したスコットランドについて、「再び独立の機運が高まるのは間違いない」と分析する。

 

遠藤氏は「排外主義的な傾向とEUへの怒りが欧州全体に広がり、EUが当事者能力を失い、麻痺するような事態がみられるかもしれない」と主張し、「(EUの)再編は避けられない」と見る。具体的には、初期のコアメンバーである6カ国(独、仏、伊、ベネルクス3国)による1部リーグと、ギリシャ、ポーランドなどその他22か国の2部リーグが徐々に差異化されていくとする。遠藤氏は、「それは一方的な『統合』ではなく、逆に不可逆的な『分解』でもなく、その中間で、中心国とそれ以外という同心円的なサークルができていくイメージだ」と論じた。

 

また遠藤氏は、欧州で多くの人々が移民やEUを「敵」とみなす排外主義的で内向きな傾向が強まる一方で、「グローバル化はキャンセルできない」のが現実だと指摘。この点は米国における「トランプ現象」にも通じる世界的な課題であることを示唆し、「深まるグローバル化に応じて、労働者や中間層への価値付与やその保護を国際的に深めていかねばならない」と結んでいる。

 

・浜矩子 「英EU離脱でジタバタするな」 文藝春秋8月号

 

英国のEU離脱という衝撃的な結果に国際マーケットは一時、大混乱したが、同志社大学大学院教授の浜矩子氏は、文藝春秋8月号で、「金融市場や為替市場の動揺は、これからも何かにつけて避けられません」としながらも、実体経済面から見ると「どんどん状況がまずくなるということは、どうも無い」と分析する。

 

浜氏は、世界中で意外と受け止められた英国の離脱決定について、「イギリス人たちの気質、そしてEUとイギリスの歴史的関係を考えれば、いずれはこうなるのが自然体」と、決して意外な結果ではなかったと強調した。その理由は、英国のEUに対する姿勢は「建前は統合欧州の枠組みに参加しながら、その仕組みのすべては踏襲しない」というのが基本であり、浜氏は「統合欧州に対するイギリスの『つかず離れず』の距離感」が今回の結果に表れたとする。

 

浜氏によれば、英国の離脱事件は今回が初めてではなく、1992年9月にはユーロ導入以前に採用されていた欧州通貨制度(EMS)の為替相場メカニズム(ERM)から離脱。その際英ポンドが一時的に暴落したものの、英国経済はERMという拘束から外れ、徐々に経済を回復させた。英国がEUに接近するのは経済的なメリットがある時だけで、浜氏は「実利がイギリスと統合欧州の関係のバロメーター」「実利的で成り行き任せで変わり身が早いところこそ、イギリス流の真骨頂」と言い切る。

 

今後のEUの在り方について、浜氏は「冷戦構造が崩壊し、グローバル化が進んだ今、むしろEUという枠の中に加盟している国を封じ込めておくことに、無理が生じて来ている」と指摘。今後、英国が選択したような「縛りのきつくない連帯関係」を再構築できれば「新しい統合欧州の雛形」になるかもしれないとしている。

 

一方、EU離脱決定が及ぼす日本への影響について、浜氏は安倍内閣が今後「円安・株高」のための量的緩和に踏み出し財政赤字を積み上げることは、現状で唯一評価されている「円の価値」を大幅に減じることになるとして、「ゼロ金利政策や量的緩和政策といった異様な金融政策を一刻も早く正常化すること」であると強調した。

 

・細谷雄一、久保文明、会田弘継 「欧米から民主主義の自壊が始まる」 中央公論8月号

 

慶応大学教授の細谷雄一氏は、中央公論8月号で、英国の離脱決定は「EU全体にも、世界経済にも、巨大な傷痕を残す」と指摘する。細谷氏は、欧米における極右政党を含む保守主義の台頭について、「彼らにはグローバル化が自らの社会を壊していくという恐怖心がある」として、政治・経済・社会的なセイフティーネットのないまま進行するグローバリズムへの反動が要因であるとする。と同時に「今、世界的に起きているのは、高学歴エリート、専門性を持った専門家の敗北、そして彼らに対する逆襲という社会変動」と分析する。

 

細谷氏は、アメリカの危機は、ヨーロッパの危機と基本的に同じ性質のものであり、だからこそ「世界的規模で解決する視点が必要」だとする。こうした情勢の中で、日本はどうすればいいのか。細谷氏は、「世界の流れとして、明らかに日本がモラルリーダーにならざるを得なくなっている」と述べる。欧米の安全保障体制に守られて来た日本が責任をもって世界をリードすることは容易ではないが、世界第3位の経済力を持ち、政治の質も相対的に低くない日本は、「世界にさまざまなアジェンダを設定して、他国を説得していくことはできるはず」と強調した。

 

※このページは、公益財団法人フォーリン・プレスセンターが独自に作成しており、政府やその他の団体の見解を示すものではありません。

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