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中国の現状と経済

投稿日 : 2015年10月09日

<取り上げた月刊誌>

 『中央公論』『Voice』『文藝春秋』

◆ 2015年9月 ◆

 

・白石隆×川島真「習近平は真に強いリーダーか――権力基盤、海洋進出、経済戦略」 『中央公論』10月号

・津上俊哉「グローバル・リスクに備えよ――投機の荒波が寄せる大海に泳ぎ出した人民元の運命」 『Voice』10月号

・エマニュエル・トッド「幻想の大国を恐れるな――中国は経済的にも軍事的にも〈帝国〉ではない」 『文藝春秋』10月号

・丹羽宇一郎×武藤正敏「中韓前大使 反日国家との攻防戦」 『文藝春秋』10月号

 

c722438242d4d97a0fe301974ee677d3_s■ 習近平氏のリーダーシップ

9月の国連総会にあわせて中国の習近平・国家主席が訪米し、オバマ大統領との注目の米中首脳会談が開催された。また、今夏の中国市場の株価暴落や人民元の切り下げを受け、中国経済の先行きに対する懸念が高まっている。主要月刊誌でも中国経済などについて取り上げた特集が組まれた。『中央公論』では、ともに国際政治学者で、東南アジア政治が専門の白石隆氏と、近代中国外交史が専門の川島真氏「習近平は真に強いリーダーか――権力基盤、海洋進出、経済戦略」のテーマで対談し、習近平政権の対外政策が国際社会に及ぼす影響を議論している。

 

発足から二年半が経った習近平政権について、川島氏は、「私が予想していなかったのは、比較的短期間で軍隊をほぼ掌握したこと」だと述べる。一方で、地方のトップが頻繁に入れ替わっていることを指摘し、「問題は、習近平が決定したことを地方に下ろして実行していくためのシステムが必ずしも十全に機能していない」と分析している。

 

対外強硬路線については、米国が軍事戦略の重心をアジア・太平洋に移そうとしている「リバランシング」の動きをふまえて、「……中国にしてみたら、アメリカの力が及びにくい場所に自分たちのエリアを早く作ってしまいたい」(川島氏)のではないかと指摘。さらに、ロシアや中央アジア各国との連合体である上海協力機構にふれ、「中国にとって海に出ていくのは、実はそんなに簡単なことではありません。アメリカ、日本を含めて、もともとのパワーがかなり優勢なのです。中国も海洋に簡単に進出できないことはよくわかっていて、彼らのコスト感覚からしても、海よりも陸の方が分かりやすい」(川島氏)との見方を示す。

 

米国が海洋を中心とした“太平洋同盟”の拡大を、中国が陸地を中心とした“大陸同盟”の拡大を目指す駆け引きの結果、東南アジアは大きな変化を見せているという。白石氏は、「……東南アジア自体は、中長期的に見た場合、大陸部と島嶼部とに分かれていく」、川島氏も「……東アジアが大陸エリアと太平洋エリアに引き裂かれていくイメージを持っています。中国からも当然、そう見えているはずです」とし、今や「……中国と東南アジアの関係は、中国と各国との二国間関係の束」であり、日本が、ASEANを一括りとして重視する従来のとらえ方には「一定の限界がある」と危惧を示している。

 

話題は朝鮮半島の現状や中韓関係にもおよび、白石氏は、韓国では「……国民的ムードとして、経済は中国、安全保障はアメリカと中国、日本はどうでもいい、という構図になっている。そうなると、北朝鮮に何か起きた場合、韓国はどういう選択をするのか。少なくとも、アメリカと中国に同時に受け入れられる選択でなければならない」と解説。川島氏も、韓国と米軍との関係について「……いちばん大きな目標は中国で、その次が北朝鮮ということになる。今後は北朝鮮専門というわけにはいきませんよとなった時、韓国はいかに中国に対峙するかという点で困ってしまう」「……韓国は中国問題ではちょっと苦しい立場におかれているのではないでしょうか」との見方を示している。

 

■ 中国経済のゆくえ

混乱の様相を呈する中国経済についてもさまざまな議論が繰り広げられている。元通産官僚で現代中国研究家の津上俊哉氏は、Voice』10月号「グローバル・リスクに備えよ――投機の荒波が寄せる大海に泳ぎ出した人民元の運命」のなかで、中国経済の現状について、「……収益を生まない〈不良資産〉とそのための負債(潜在的な不良債務)をバランスシートに積み上げてしまった」「このまま不効率投資・借金頼みを続けていけば、中国はやがてバランスシートに壊死が拡がって真正の経済危機に見舞われてしまう」と述べている。習近平氏が昨年、「ニューノーマル(新常態)」を打ち出し、目標成長率を引き下げる方向に舵を切ろうとしたのも、危機感の表れとしている。

 

しかし、この方向転換には二つの障害があると津上氏はいう。一つ目は、いまだに過去の高度成長を公約に掲げていること。二つ目は、失業者の不満といった「成長低下の痛み」だ。津上氏は、過去二年間の国有企業売上高、間接税収、電力消費量、鉄道貨物輸送量など「比較的『正直』」な統計を分析したうえで「ほんとうの成長率はすでに五%を割り込んでいるだろう」と推計する。なかでも深刻な過剰債務を抱えているのは、地方政府と国有企業であるといい、地方財政については習近平政権の「荒治療」を評価しながら、先行きを不透明にさせる材料があることを説明している。

 

また、市場を騒がせた人民元の切り下げは、「……じつはIMF(国際通貨基金)が中国に対して『人民元を国際化したいのならば』と、出した宿題を果たすものだった」として、日本の過剰反応に苦言を呈する。そのうえで、「人民元はこれから弱くなる」ことを強調。①中国の不景気は長引くので期待値を上げるべきでない、②反面、「日本は総じて〈中国経済崩壊間近〉式に過剰反応気味」であり、「『思い込み』にとらわれると思わぬ読み違えが起きる」、③万一のリスクに備える必要があるが、「それは『チャイナ・リスク』では済まず。『グローバル・リスク』になるのではないか」――と警告している。

 

■ 中国は「帝国」ではない

国際社会に大きな影響力を及ぼす中国は、現代における「帝国」といえるのだろうか。フランスの歴史人口学者であるエマニュエル・トッド氏は、『文藝春秋』10月号「幻想の大国を恐れるな――中国は経済的にも軍事的にも『帝国』ではない」で、中国を「帝国」とみなさない理由として、中国の経済成長が、「……経済的な力関係の中で、西洋の資本主義諸国から押し付けられたものを受け入れたからこそ得られたもの」であること、また軍事的にも、アジアの覇権を握っているわけではなく「……アメリカという帝国のシステムの下に入ることを選んだ国々に囲まれて」いることをあげている。

 

人口学的観点から旧ソビエト連邦の崩壊を予想したことで知られるトッド氏は、中国が抱える問題点としてまず人口問題をあげる。中国では少子高齢化が急速に進んでいるが、「……まだ国家全体が豊かになっていないために、年金をはじめとする社会保障制度の整備もできないまま、高齢化社会を迎えてしまった。これが近い将来、社会不安を増大させる」という。さらに、経済の問題点として、GDPに占める個人消費の割合が低く中国経済が外需に依存している点を指摘。トッド氏は、理想が先行する「幻想の中国」と、苦悩する「現実の中国」との間に大きなかい離が生じていることに危機感を示しており、中国の将来については「最良のシナリオだけは想像ができない」と予測する。

 

また、反日をはじめとする中国でのナショナリズムの背景に、富裕層と貧困層の格差があることを指摘。1900年代の欧州でのナショナリズムの高まりを引き合いに出し、「……いまの中国はナショナリズムの時代にいる。その古い時代に引きずり込まれることは、断固拒否すべき」だとする。これに対して、日本は、たとえば靖国問題を当面の間日本側から棚上げにするなど、「実際的な効果を重んじる姿勢」を貫くべきだと主張する。トッド氏はさらに踏み込んで、中国経済のダメージは世界のダメージにつながるため、中国が困った時こそ日本が支援するべきだとも述べる。日本は、「中国を過度に恐れたりヒステリーやパニックに陥ったりすることなく、合理的で理性的でプラグマティックな態度で臨んでほしい」と述べ、「自分をうまくコントロールする力」が求められると結んでいる。

 

■ 「“反日”演出の余裕ない」

中国は、今後も日本に対するナショナリズム的攻撃を強めるのだろうか。前中国大使で伊藤忠商事元会長の丹羽宇一郎氏は、『文藝春秋』10月号での前韓国大使・武藤正敏氏との対談「中韓前大使 反日国家との攻防戦」で次のような見解を示している。「……盤石だった中国経済が、最近は不安定になっています。……また過剰設備・過剰生産のツケで国内経済は綻び始めています。中国共産党は経済成長によって国民の支持を得ていた部分が大きいので、習近平国家主席は早急な経済立て直しの必要性に頭を悩ませています。こういう時に、彼らが日本と事を荒立てる余裕はありません。もはや中国は、政権を安定させるために“反日”を演出する余力はなくなっていると、私は見ています」。

 

※このページは、公益財団法人フォーリン・プレスセンターが独自に作成しており、政府やその他の団体の見解を示すものではありません。

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