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評価の定まらない安倍政権 / 産経新聞ソウル支局長 出国禁止問題

投稿日 : 2015年06月09日

  

<今月取り上げた月刊誌>

 『正論』『世界』『中央公論』『文藝春秋』 (いずれも6月号)

 

◆ 第2号 2015年6月 ◆ 

1. 評価の定まらない安倍政権/2. 産経新聞ソウル支局長 出国禁止問題

 

1.評価の定まらない安倍政権

「日本の歴史認識とアジア外交の未来」    村山富市元首相×河野洋平元内閣官房長官 [世界]

「安倍談話、歴史家からの提言」   山内昌之  [文藝春秋]

「アベノミクス 三年目の批判に答える」   浜田宏一 [文藝春秋]

「安倍昭恵 新しいファーストレディー宣言」   安倍昭恵  [文藝春秋]

 

対談写真■「村山談話」「河野談話」再び

2012年に第2次安倍政権が発足して以来、日本メディアの関心はほぼ一つに絞られてきたといってよい。それは、経済問題でも、領土問題でも、ましてや思想問題でもない。「安倍政権」そのものである。

 

その安倍政権の今年最大のテーマが、「戦後70年」である。8月に「戦後70年談話」を出すこともあり、政権さらには首相個人の歴史認識が政治課題となっている観がある。現実には、植民地支配と侵略に対する「痛切な反省」を表明した戦後50年の「村山談話」(1995年)と、いわゆる従軍慰安婦問題に関して旧日本軍の関与を認め謝罪した「河野談話」(1993年)をどう引き継ぐかの一点のみが注目されている。『世界』では、その村山富市元首相河野洋平元内閣官房長官対談「日本の歴史認識とアジア外交の未来」を掲載している。

 

当時、社会党委員長として連立政権の総理大臣となった村山氏は、「率直にいえば、二〇年前に出した談話が、再びここまで注目される問題になるとは思いもしませんでした。……国際社会が日本政府の歴史認識に重大な懸念と関心を抱いているからこそ、戦後五〇年の私の談話が注目されるわけで、喜ばしい注目のされ方ではない」と戸惑いを語っている。

 

また、アジア外交の現状については、「……あの戦争は日本のアジア侵略戦争だったのか、やむにやまれず行った防衛的な戦争だったのか。『植民地解放の戦争だった』と美化する人さえいる中で、政府の歴史認識も定まらず、誤った戦争であったことを教えようとすると『偏っている』と攻撃してくる人もいる。一方で、日本がそういう状況にあることを中国や韓国の政府もよく調査して知っており、警戒感を抱いて、それがまた日本側の世論にはねかえって反感を呼ぶ」と分析し、いまだに政府の姿勢が定まっていないために談話をめぐる中韓との確執から抜け出せずにいると主張している。

 

また、内閣官房長官として談話を発表した河野氏も、河野談話について「……二〇年後も『今の問題』として語らねばいけないとは、思いもしなかった」と述べたうえで、談話の作成にあたっては「当時、軍の管理下において多数の女性が名誉と尊厳を無視された痛ましい状況に置かれていたという事実」や、一方で「日本政府がその徴収に直接関与したかどうかという点は、それを示す明らかな証拠が存在するわけではない」ことなどをふまえ、「その時点で明らかにしうる限りの事実に即して率直に」書いたと説明。しかし、現在は、最も重要であるはずの女性の人権や名誉回復ではなく、女性たちがどう集められたかという部分だけが切り離されて議論されていると指摘。「政府や軍による直接的な強制連行がなかったのであれば問題ないといわんばかりの議論が、与野党のそれなりの立場の人たちからさえ聞こえてくるのは、実に残念」として、問題と向き合う姿勢そのものが人権に対する国際社会の価値観から逸脱していると指摘している。

 

さらに河野氏は、『世界』編集部からの、戦争体験者がほとんど国会にいなくなったという問いかけに、「たしかに、戦争体験のあった政治家は、多かれ少なかれ、戦争への反省の思いを持っていましたね」と感想を述べ、戦争を知らない世代が増えるにつれて教育の重要性が増すと述べている。安倍晋三氏は、2007年の第1次政権で初の戦後生まれの首相となった。戦後70年の今、かつての与野党、左派・右派の枠組みとは関係ない、世代間による世界観や利害関係の決定的な相反が、歴史問題という旧世代の主戦場で火を噴いているとも考えられる。 (写真:6月9日に日本記者クラブで行われた村山氏と河野氏の会見の様子)

 

■  謝罪で歴史問題は解決しない

それでは、歴史とは、本来どのように向き合うべきものなのであろうか。「戦後70年談話」に関わる有識者懇談会「21世紀構想懇談会」のメンバーである歴史家の山内昌之氏は、『文藝春秋』「安倍談話、歴史家からの提言」を寄稿。日本が外交問題として歴史問題を抱える中国、韓国の歴史のとらえ方を以下のように指摘している。

 

山内氏は、中国と韓国では、「歴史の解釈を古典的な『名教』(人の道を明らかにする教え)と考えがちである」と主張。具体的には、「いわゆる『従軍慰安婦』の実態や南京事件の虚実についても、史実として当時の日本帝国政府や帝国陸軍の関与の有無、死者の実数や実相を実証的に明らかにするのではなく、そうした事象を想像させる現象さえあれば、あとは使命感によって歴史をつくれると信じているように思われる」と説明する。こうした考え方には、「……情緒や正義感といった強い思い込みによって『歴史認識』は史実に優先する」という前提や、「外交において如何に効果的に歴史を利用するかという政治の判断や手法が、多様な見方や実証的差異があるはずの歴史学研究の自由を許さない」といった背景があるという。

 

また、山内氏は、歴史のとらえ方について「歴史認識の問題とは、日本と中韓との関係を見れば分かるように、単純に過去にのみ関わる問題ではない。過去以上に、それぞれの時代を生きる人びとの問題であり、そこには時代状況が複雑に反映している」と述べる。そして、たとえば南京大虐殺といった「特定の事件だけが記憶され批判され続けるのは、『加害者』の反省が足りないからではなく、歴史認識という現在からのライトの当て方で被写体の見える部分が違うからだ」と説明。「政権が代わるとライトの当たっていた所はますます強く同じ主張を繰り返し、当たっていなかった所を新たな問題に追加する」といったことが重なるうちに、「焦点は歴史の謙虚な究明というよりも、常に外交的屈服を『加害者』の義務として永遠に恒常化するメカニズムをつくるのを日本が受容するのか否かということに変わってしまう」と解説している。

 

このように、謝罪や反省が「じつに難しい問題を孕んでいる」ことをふまえたうえで、山内氏は、4月下旬にインドネシアで行われたアジア・アフリカ会議(バンドン会議)60周年記念首脳会議で、安倍首相がバンドン会議の平和10原則に沿って現在の日本の方向性を強調した演説を高く評価した。演説は、「……『侵略』への反省をこれまでの談話を踏まえて受け継ぐ意思を表明した」と受け止められる内容になっており、「とくに東南アジアの国々の首脳は、〈お詫び〉よりも〈従来の実績〉と〈今後の意志〉という建設的な歴史認識と未来志向を評価する人が多かった」と指摘。「これが(戦後70年)談話の原型となるのであれば、非常によい方向ではないかと私は考えている」との見解も示した。

 

渋谷の交差点■  「アベノミクス」の行方

日本メディアでは、このところ歴史問題と安全保障問題ばかりが取り上げられているが、常に日本国民の関心の中心にあるのは、経済である。「アベノミクス」と呼ばれる経済政策の現状を、安倍政権のブレーンである経済学者の浜田宏一氏が、『文藝春秋』への寄稿「アベノミクス 三年目の批判に答える」で解説している。

 

浜田氏はまず、失業者数の減少、賃金総額の上昇を挙げ、「需要の創出はうまくいっている」と当初の狙いが着実に進行しているという見方を示す。その上で、日本国民がアベノミクスの効果を実感できない理由として批判されている点について説明している。

 

まず、2%のインフレ目標が達成されない原因については、原油価格の想定外の長期低落を挙げる。また、賃金が上昇して景気回復が実感されるまでに至っていないのは「特に中小企業において社内にまだ人が余っている」ためであり、余剰人員が解消されることで生産性が上がれば賃金も上昇すると分析している。地方経済の低迷についても、同様に労働力の余剰を指摘しつつ、内外から投資を呼び込む効果がある法人税減税が「地方を衰退から守る最大の武器」になるという考えを示している。

 

また、日本経済がさらに成長するために不可欠なアベノミクス第三の矢の「成長戦略」については、TPPや女性の就業促進に加え、規制改革が最も重要であると主張。政府や企業の旧い体質を打破し、規制の撤廃を進めるためには、さらなる「政治のリーダーシップ」が必要であると述べている。

 

■  新時代の「政治家の妻」?

安倍晋三首相は、自らの思想的立場を打ち出し、日本の保守思想、伝統擁護派層から絶大な支持を受けている。一方、安倍昭恵夫人は、居酒屋を経営したり、SNSで日々の活動を積極的に配信したりと、夫を裏から支える日本の伝統的な「政治家の妻」とは一線を画す存在として注目を集めている。その昭恵氏が、『文藝春秋』「安倍昭恵 新しいファーストレディー宣言」で首相夫人の舞台裏を披露している。

 

昭恵氏は、原発や憲法改正などで首相と異なる意見も述べることについては、「私は主人の主張に対しても、正しいと思わない時は、『賛成していない』とはっきり言うようにしています。それを『家庭内野党』などと表現されたりもしますが、政治家の妻はこうあるべきだとか、ファーストレディーはこうあるべきだとかいう枠の中にはめ込まれたくはないですね」と説明する。「自民党だけでなく、日本国全体を代表している主人に、『こういう考えの人たちもいるんだよ』ということを、しっかり伝えたい」とも述べている。

 

首相の看板政策でもある女性の社会進出については、「……主人はもともと保守的な考え方の持ち主ですので、女性がみんな働くことがよいとは、今も思っていないかもしれません。……でも、働きたい人が働きやすい環境を作らないといけない。そう本気で思っているのは確かです。だから、私に対しても、非常に理解がある……フリをしているのかもしれませんが、それはよく分かりません(笑)」と、夫人ならではの分析を披露。「女性の社会進出への理解が広がってきたからでしょうか、前回主人が総理だった時に比べて、私の自由な行動も受け入れられているような気がします」と、時代の変化を感じているようだ。

 

2.産経新聞ソウル支局長 出国禁止問題

「出国禁止8ヵ月、韓国からの帰国」   加藤達也 [正論]

 

安倍政権とメディアの軋轢は、朝日新聞の「従軍慰安婦」報道虚偽問題以降も続き、官邸のテレビ局への圧力疑惑が表面化するなど、外国メディアも巻き込み緊張は高まる一方だ。しかし、日本のメディアと権力との深刻な対立の一つは韓国で起きた。韓国の検察当局は昨年10月、産経新聞ソウル支局長(当時)の加藤達也氏を、朴槿恵大統領への名誉棄損罪で在宅起訴した。さらに出国禁止措置をとり、在宅とはいえ行動の自由を奪った。その出国禁止措置が4月にようやく解除された。

 

帰国した加藤氏が、『正論』に、「出国禁止8ヵ月、韓国からの帰国」を寄稿している。加藤氏は、「今回の出来事を通じて強く感じたことは韓国と価値観を共有することの難しさ―共有など極めて困難であり、無理と言ってもいい―でした。日本の記者として日本語で執筆した記事で刑事責任が問われる。日本に限らず自由主義社会ではまず考えられないことです」と述べ、「……大統領の意向や利害、快不快が忖度されながら動いていく韓国の国家権力システムにも首を傾げざるを得ません」と綴った。

 

また、韓国における反日感情について、「悪意の反日で凝り固まっている人達ばかりではないことは強調しておきたい」としつつ、加藤氏が乗った車に卵を投げつけるなどの行為を「容認する社会的な素地」があると分析。さらに、今回の事件について、韓国内では「内心で今回の韓国政府の措置をおかしいと思ってもそれを口にすれば『親日的だ』と咎められる。それを憚る空気はメディアにもあります」と主張した。

 

加藤氏は、今後も韓国の取材を必要に応じて続け、「日本の隣国ながらも日本とは価値観が共有できない韓国という国をしっかりと見据えていきたい」という。その筆からどのような記事が生まれるのか、注目したい。

 

※このページは、公益財団法人フォーリン・プレスセンターが独自に作成しており、政府やその他の団体の見解を示すものではありません。

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